3.孤独の日々
孝太を殴った日から俺自身二日間学校を休んだ。孝太は一週間ほど休むと聞いている。
二日後、久しぶりの登校の日、小石を蹴りながら学校までの道のりを歩き、教室までたどり着く。前方の扉を開けると、皆の視線が一気に自分に集まるのが分かった。誰も「おはよう」などと声をかけてくることはない。皆、獣を見るかのようにシンと俺を見つめていた。
学校ではもともと派手な男子ぐらいしか自分に絡んでくる者はいなかったが、その日を境に彼らさえも俺に話しかけてこなくなった。
「お母さんが、言ってた。武藤くんには近づくなって。『悪魔の子だから』って」
一人の女子が近くにいたもう一人の女子に囁く声がはっきりと聞こえた。
悪魔の子。
顔も見たことのないその子の母親に、そんなふうに言われるのは少なくともショックだった。しかし、自分に対する周りの評価など所詮そんなものだと開き直る。
昔から「良い子ね」とか「優しい子ね」とか、陳腐な褒め言葉さえ頂戴することがなかったのだ。自分が暴力的で他人に優しくないことぐらい自覚していた。
「……」
教室の空気は最悪だった。誰も自分に話しかけてこないどころか、誰かと誰かが話をすることさえ、禁じられているみたいに静かだ。
昼休みになると徐々に騒ぎ出す人が現れ、事件から一週間後に孝太が教室に戻ってくる頃には、何事もなかったかのように日々が過ぎていった。
もちろん、俺だけは例外だ。
「悪魔の子だ」と言われるようになってから友達は完全にいなくなり、常に一人でいるようになった。昼休みは何もすることがないので、勝手に入ってはならないと言われている屋上で昼寝をした。屋上への扉は開かなかったけれど、少し高い位置にある窓から屋上に降り立った。そこでひたすら、眠る。ここでは誰の視線も浴びなくて良い。悪魔である俺の唯一の居場所になった。
家に帰ってからも両親に反抗的なのは何ら変わらなかった。学校でほぼ無視をされる日常を送っている分、家の中では一人でボール投げをしたり野球の素振りをしたりと暴れていた。夜に父さんが帰ってくるまでの間だ。もし見つかればまた倉庫の刑に処せられただろう。
母さんはそんな俺を見ても、特に何も言ってこなかった。以前までは家の中で素振りでもしようものなら、「何してるの! 危ないでしょう」と嗜めてくるのが普通だった。この間の孝太の一件以来、どうやら母は俺に対し少し臆病になっているようだった。
時折妹の咲良が「おにいちゃん、あそぼ」と猫やら犬やらの指人形を俺に差し出してきたが、俺はそんな妹のお願いを無視し、一人遊びを続けた。