1.はじまり
「おめでとうございます! 元気な女の子です」
ヒナが産まれたとき、看護婦の明るい声を聞いても、自分の子供が産まれたのだという実感がまったく湧かなかった。
しかし、産後ぐったりとした実花がそれでも嬉しそうに微笑んで赤子を抱いているのを見ると、胸のうちから溢れ出る愛しさでいっぱいになった。
自分の中にこんな感情があったなんて、思いもよらなかった。実花が退院してから、初めての我が子を育てるのに苦労もしたが、喜びの方が強かった。ふにゃふにゃと今にも溶けてしまいそうなヒナのか弱い身体を見ると、守ってやらねばという使命感に駆られたのだ。
「ヒナ、パパでちゅよ」
「なあに、その口調。変なパパでしゅね」
「ママだって一緒でちゅよね〜」
親バカ丸出しの俺たち夫婦の会話をもちろん理解してはいないのだろうけれど、ヒナがきゃっきゃと笑う姿を見るのが至福のときだった。実花なんて、子供が産まれたら忙しくて死んじゃうかも、とあれだけ不安がっていたのに、いざヒナが産まれると、眠っているときも四六時中ヒナの様子を愛しそうに眺めていた。
悪魔の子と呼ばれていた自分の子供時代を思い、ヒナのことを目一杯愛そうと心に誓う。まあ、そんなふうに決意などせずとも、自然とヒナへの愛は溢れていたのだが。
そう、ヒナは俺たちにとって、天使だったのだ。