花見
藤原兄妹が張り切って式神たちに準備を命じて、トントン拍子で花見の席は整った。
弁当も準備して、いざみんなでお花見!
となったわけだが。
「それで、そなたらの母はそんなにも美しかったのか」
「それはもう」
「独り占めを望んだ父の気持ちもわかると言うものです」
「それはもったいない。連れてくればよかったろうに」
「もう、奪われるのは御免ですから」
橘は己の主人に、どうして花見の席でそんな話題を選ぶのかと問いただしたくなった。
が、双子は特に嫌がる様子もなくそれに応じている。
「だが、そもそも何故逃げ出そうとした?母は奪われても片割れは一緒だったのだろう?」
「はい、僕もそう思ってましたよ?」
けれど、と若葉は続ける。
「僕も紅葉も母そっくりでしたから。父と趣味の似通った外道に危うく手篭めにされるところだったので」
「あー…」
「まあ、全部返り討ちにしてやりましたけど」
「だからあんなところ、早く出て行ってやろうと思ったんです」
双子のあまりの過去に言葉も出ない橘。
お館様に至ってははやくあいつ…双子の父である天下人をその地位から引きずり下ろさねばならぬと改めて決意する。
「次は僕たちも質問していいですかー!」
「よい、許す」
「お館様は宝物を集めてどうするのー?」
それは橘も気になっていたことだった。
「ふむ…いやなに、月の民と契約をしたのだ。この国の中でも珍しいと言われる宝物を集めて渡せば、我らに味方してくれると」
「月の民の技術はすごいからねー」
「武器提供してもらえるだけでも優位に立てるよねー」
「そもそも月の民が味方についたというだけで多くの人間が我らに寝返るでしょうね」
うんうん、と頷く双子と橘。
「月の民は我らと違い嘘はつかない。むやみに罪を重ねれば月を追い出されるからだ。だからこの約束も違えることはないだろう」
「そうだね」
「月の民なら大丈夫だと思う」
「では、我らはより努力して宝物を一刻も早く集めます」
「ああ、頼んだぞ」
お館様は双子の頭を撫でながら、橘に目線を寄越す。
「はい、お任せあれ」
「僕らもがんばりまーす!」
「お館様のお役に立てるよう努めまーす!」
お館様は穏やかに笑い、期待しているぞと三人を鼓舞した。