戦場にて
とある歩兵が突然暴れ出した。
槍を振り回し仲間に襲いかかる彼に、周りは困惑して指揮が乱れる。
そのような歩兵が何人も現れれば、もはや収拾がつかなくなる。
また騎兵隊の元には数多くの妖が現れた。
妖たちは騎兵隊の命を悉く奪い、そして主人を失った馬は好き勝手に暴れ出す。
戦場は完全に、藤原兄妹のおもちゃ箱と化していた。
「兄さんの幻術すごーい!歩兵たち大混乱ー!」
「紅葉だって妖を操るのが上手くなったじゃない!」
お互いにお互いを褒めあってきゃっきゃする藤原兄妹の横で、橘はえげつないなとドン引きしていた。
「ほらほら、隙は作ったよ?」
「最後の仕上げは橘殿だよ?」
藤原兄妹にそう言われて、橘は号令をかける。
「あちらの指揮が乱れている間に突撃だ!」
「おー!」
こうして混乱に乗じて隠れていた味方が奇襲に成功しそのまま突撃。
橘自ら大将首を奪うことに成功した。
「双子よ、よくやった」
「わーい!」
「えへへー」
「橘よ」
「はい」
首を垂れる橘に、お館様は珍しく微笑んだ。
「此度の活躍、褒賞に値する。願いがあれば言うが良い」
「でしたら…」
恐れながら、と橘は続けた。
「双子と、私と…出来ればお館様にもお付き合い頂き、花見を催すことをお許しいただきたい」
「…ほう」
「え、橘殿?」
「どうして?」
目を白黒させる双子に、橘は言った。
「貴様らが言ったんだろう、いつかみんなでお花見したいねって」
「…橘殿ー!」
「好きー!」
「…はぁ、まったく。なんだかんだ言って双子に甘いやつめ」
お館様は少し考えるそぶりを見せたが、言った。
「良いだろう。此度の活躍に免じて許す。せっかくの春だ、庭の桜の元でなら花見を催してよい。私も参加しよう」
「お館様ー!」
「お館様も大好きー!」
双子に抱きつかれたお館様だが、慣れたように抱きとめて頭を撫でるだけだった。