藤原兄妹
あるところに、エリート陰陽師がいた。
けれど彼女は、その美しさ故に天下人に手篭めにされた。
彼女は逃げて、授かった双子を大切に育てたがやがて見つかってしまった。
双子は奪われ、彼女は今度こそ天下人から逃げられなくなった。
彼女に自由はない。天下人にただ歪んだ愛情を与えられるのみである。
一方で双子の方も、面倒なことになっていた。
双子は彼女の英才教育を受け、呪術が得意となっていた。
それ故に監禁され、天下人のいい駒にされていた。
しかし、そこで例の双子は大人しくしているわけもなく。
「今まで契約してきた妖、大盤振る舞いじゃー!」
「兄さんすごーい!かっこいいー!じゃあ私もやるー!」
こうして百鬼夜行が開始され、京の都には妖が溢れかえった。
ようやく事態が落ち着いた頃監禁部屋を覗けば、すでに双子はいなくなっていた。
そして双子を愛した母親である彼女は、双子によって介錯を受けていた。
彼女の最期の顔は、愛に満ちた穏やかなものであった。
「橘殿、橘殿ー」
「ええいうるさい!なんだクソガキども!」
「橘殿は僕たちのことどう思うー?」
「生意気なクソガキどもだ!それ以外になんかあるか!」
「だよねー、えへへ」
嬉しそうに笑う紅葉。
若葉もご満悦だ。
「クソガキ呼ばわりされて喜ぶな気持ち悪い!」
「橘殿大好き!」
「好きー!」
あくまでも己と片割れ最優先な双子だが、恩人であるお館様はもちろん橘殿のことも気に入っている。
何故なら、自分たちを子供として扱ってくれる唯一の人だからだ。
お館様はあくまでも駒としてしか双子を見ていないが、まあそれは恩人なので危害がない限りはそれでいい。
でもやっぱり、双子はまだまだ子供なので子供として扱ってくれる人は好きなのだ。
「仲が良いな、貴様らは」
「あ、お館様ー!」
「お館様ー!」
駆け寄ってくる双子たちを軽々と受け止めるお館様。
橘殿はそこで報告をする。
「お館様、南の端にて敵部隊が動きを見せたようです」
「まだ静観せよ。あちらの動きに合わせろ、隙をつくのだ」
「御意」
「双子も、呪術で扇動などを頼むぞ」
「はーい!」
「さっそく行っちゃう?」
「行っちゃおー!」
双子は軽いノリで戦場へと赴く。
全ては大恩あるお館様のために。
あと、気持ちよく暴れまわるために。