勇者前勇者と会話する
体調が戻ってきたことで、
病室から私室へと戻った。
前の私室は私が壊してしまったことと、
(前)勇者が薨去したことで、
前勇者の私室へと案内された。
前勇者の遺骸は、
聖遺物として天勇教会の大聖堂に未来永劫、
安置されるようだ。
古い西洋風のホテルみたい趣のある部屋は、
嫌いではなかった。
豪華ではないが、
質素でもない。
前勇者の人柄がわかる部屋だった。
私はソファーに座って、
死んでから初めてゆったりとして落ち着いた気分になった。
そして気がついた。
私がこの世界のことも、
私自身のこの世界での名前もしらないことを。
ほどほどの情報はこの肉体が教えてくれていたが、
それだけでは足りない。
部屋をみまわして、
書籍などの情報を得られるものを探してみたが、
見当たらない。
仕方がない、
誰か人を呼んで会話から情報を得ようかと思っていた時だった。
「もしもし」
と、声がした。
「はい」
と、つい返事をした。
「あー、よかった。突然のことでお互い大変でしたね」
「えーと、どちら様で?」
「すみません、私は先ごろ亡くなった299代勇者です」
彼はなぜか恥ずかしそうに返事をしてくれた。
「あの、生きてられるのですか?」
「いえいえ、これは残留思念でして。こうして勇者は代々、情報を継承しているんです」
「おもろしい方法ですね」
「そうですか、死ななければ実行できないので、面倒なんですけどね。僕も298代勇者が薨去された時は、本当にびっくりしましたよ」
「そうで、私はどうすればいいですか?」
「一番、苦しくないのは、目を瞑って横になってくれればいいでしょう。何代かに一人は、情報量に脳が耐えられなくて、倒れる勇者もいたみたいなので」
私はいわれるままに横になった。
そして、目を瞑った。
「では、299代から0代勇者までの情報を継承しますね。僕はこれで消えてしまいますけれども、どうか、あまり苦しまないでください。あなたが幸せであることを願っています」
声が響いて消えていった。
私が苦しまないように、とはどうう意味だろうかと思いつつ、私は寝落ちしてしまった。