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プロローグ・善

 病院から『その』連絡を受け取った時、「こんな事ってあるものなのか」と、それだけで頭が一杯になっていた。他の何も考えられなかった。

 かろうじて早退の報告を怠ることだけは避けられたが、それ以降、こうして病室の扉を開けるまでの記憶が飛んでいる。


「……ま……っ」


 上手く言葉が出ない。そこでようやく自分の呼吸が非常に荒いこと、体でゼーゼーと息をしていることを実感した。つまり、どこからか走ってきたのだろう自分は。それほどまでに何も覚えていない。

 息と意識を整えて、もう一度冷静に病室の様子を伺った。


 見慣れた病室だった。

 ()()()()()()()()()()()()()、見慣れた病室。そこに横たわる人間よりも、それを囲む医療器械の存在感が圧倒的過ぎて、「病室」と言われなければ何か工場の一角のような、そんな冷たい空気を感じる部屋。

 圧倒的に重く、圧倒的に生命力をカケラも感じない、圧倒的に絶望的な――。


 だが今、自分の見ている景色にはいつもと違うものがある。

 戸口に立って肩で息をしている自分に、振り返って目線を投げてくる医師、数名の看護師。

 そして――


 ベッドごと上体を起こして、ぼんやりとどこを眺めているのか――

 目を、開いている、『妹』が――。


「真央……!」


 正直、もうほとんど諦めていた。妹の真央が目を開けることを。

 あれから……()()()()()()()()()()……?


「6年です。お兄さんのお気持ちが報われたのです。

 まだ回復しきっていないので慎重を期す必要はありますが、とりあえず……

 おめでとうございます……!」


 疑問の答えを担当の先生が熱の籠った握手と共にくれた。

 俺、『常芝善(とこしばぜん)』はしばらくその手を握り続け、涙を流すままになっている目元を拭いもせず頷きながら……


 ――父親と共に交通事故にあい、意識不明の昏睡状態だった妹『常芝真央(とこしばまお)』の、6年ぶりに開いた潤いのある目をずっと見つめていた。




※※※ ※※※ ※※※




 そこから一夜明けると、もう真央は喋れるようになっていた。

 看護師さんは「声もハッキリしているし、すごく回復が早いです」と驚いていたが、これが早いのかどうかは自分にはわからない。ただ、こうして真央の横に座り、話しかけても機械音しか響かなかった6年間とは違い、妹の口から声が返ってくる。それが何よりも嬉しかった。


「……老けたね。オッサンじゃん」


 他にもっと言う事あるだろうと思ったが、6年前の真央だったら……確かにこうだな、と腑に落ちる。苦笑するしかない。

 周りはあれから激変したが、真央の時間は全く動いていないのだから。


「オッサンじゃない。まだ29。せめて三十路越えたらオッサン扱いしてくれよ……。

 お前だってもう10代じゃないんだぞ。今は……23のはずだ」

「にじゅうさん……。ろく? ねん……かぁ」


 妹はどこか遠くを見てそう呟いた。

 それを追うように「常芝さーん」と自分の後ろから看護師さんの声がかかり、検査の時間だと言って、先生と一緒にぞろぞろと入ってくる。

 病室を出る時、もう一度真央が小さく呟いたような気がした。


()()()()()()()()()()()()()……』と。




※※※




「先生方が驚いてるぞ。回復が尋常じゃないって。お前、本当はただ寝てただけなんじゃないのか?」

 

 数日後に、真央の周囲からあの不吉な機械群はすべて撤去されており、何というか……「ちょっと入院してみましょうか」でここにいる、「入院」と聞いて普通の人が思い浮かべるような景色になっていた。

 真央の血色も驚くほど(何度もそう形容しているけれど、本当にそうとしか言えない)良く、髪も誰かに調髪してもらったのかスッキリしていて、そろそろ化粧もしだしそうな程だ。


「お兄ちゃんは今何やってんの? あれからちゃんと政治家なれたの?」

「まだ卵だ。県知事の……6年前も同じだから覚えてるかもな。田塚家(たづかや)先生の秘書として、勉強しながら働いている」

「タヅカヤ……。そんな名前だったっけ」


 思い出そうとしているのか、妹は目を細めた。

 空けた窓からふんわりと風が入ってきたのだが、なんとなく、空気が重く沈殿した気がする。


「パパは、死んだんだね」


 不意に、妹はそう口にした。

 今まで自分が「いつ言おうか」躊躇っていた現実を。


「アタシの三者面談の帰り道。乗ってた車が……トラック、なのかな。大きな車と正面衝突して。パパはそのまま死んだ。アタシはこうして奇跡的に助かった。

 そういう、ことなんだよね。今ってさ……」


 妹は窓の外を見ながら話している。自分と目を合わせない。

 声はいつもの妹という感じで淡々とはしているのだが、はたして「そういう目」にあったことを認めた精神状態で、溢れない感情などあるのだろうか。自分はどう声をかけるべきなのだろうか。


「ママがいなくなった思ったら、すぐにパパ……かぁ」

「だけどお前が生きている。自分はそのことに救われたと思ってる。

 お前にも自分がいる。そこは頼れ」

「うん。それは……エンリョなく、そうさせてもらうから」


 そして妹は「一人にしてほしい」と言い、自分はそれに従って病室を出た。

 扉を閉める前の真央は、窓の外の……どこか遠くを見ながら、6年間見ていた夢と、この現実のピントを合わせているような……そんな表情をしていた気がした。




※※※




 気持ちの整理がついたのか、病院でのリハビリも順調で生き生きしだしてきた真央が聞いてきた。


「アタシが寝てた6年間、パパが死んでどうなったか、お兄ちゃんがパパと同じ政治家秘書になってなにしてきたか全部教えて?」


 と。

 軽い世間話でもするかのように話題を振ってきたが、これを問うまで色々な心の問題を真央なりに乗り越えてきた……のだろうと考える。

 表情を見ると生前――死んではいなかったが、ほぼ生きる屍状態の6年が続いたので敢えてそう例える――の女子高生だった時と全く変わらない、なーんにも考えてなさそうなお気楽な顔をしているが、肉親である自分にはその胸の内を察することができる。

 ともかく、「聞く準備が整った」ということだ。ならば自分は家族の義務として、真央の知りたがっているだろうすべてを話すことにした。


 自分たちの父――常芝慎太郎(とこしばしんたろう)――は、6年前も今も変わらない、地元県知事・田塚家健実(たづかやたけみ)先生の第一秘書をしていた。それが真央と共に車の正面衝突という交通事故に合い、運転席の父は死んだ。

 事故の原因は相手運転手の何らかの過失ではないか、と言われている。推測に留まるのは正面衝突した向こうの運転手も死んだからだ。何やら胡散臭い素性の人物とは当時の警察から聞いていたが、事故の原因も、仮に人為的な……という場合であったとしても、それ以上は何もわからなかった。結果的に父の死因は「事故死」となっている。

 前年に母が他界し、そして後を追うように父もこんな形で母に続いた。奇跡的に妹は生き残ったが、意識が回復するかも怪しい植物状態だった。

 自分は大学在学の最中、このような環境に唐突に叩き込まれた。このことを他人に話すと、誰もがこんな感想を口にする。

 『大変だったんだな』と。

 その言葉通りである。とにかく大変だった。本来であれば「こんな言葉現実で使う日が来ようとは」という感じに、路頭に迷ったのだ。真剣に。

 しかし、迷った期間は存外短かった。そんな自分……いや、たった二人の常芝家に救いの手を差し出して下さったのが、父の仕えていた主――田塚家知事であった。

 父とは古い付き合いで色々と恩もある、と仰って下さり、自分の大学の面倒、そして妹・真央の治療先やかかる手間費用などもすべて見てくださるとのお話を自分に提示してくれた。

 政治家になる人間とは斯くあるべきだと、この時から、そして今の自分も強く思っている。

 おかげで自分は無事に大学を卒業・そしてその後すぐに……田塚家先生のご厚意もあり、一刻も早く父に代わる優秀な秘書として・そして先生が期待された立派な人間になれるよう、誠心誠意をもって先生の政治活動を補佐している――


「――というところだ。先生はつい先週選挙を終え、今期も無事知事任期を継続することになった。

 それに加えてお前も目覚めてくれた。自分にとって、今年は本当に順風満帆な年だよ。

 初詣した神社に、お礼参りに行かないとな」

「へえー、いいね。そこ、アタシも一緒に行きたい。連れてってよお兄ちゃん」

「お前が外出できるようになったらな」

「そんなの秒だよ、秒!」


 そう言って、真央は歯を見せて笑った。

 本当に……事故前の真央が戻ってきたと実感した。


「田塚家センセイって、すっごいいい人なんだね」

「ああ、自分やお前の恩人っていうのもあるけど、政治家としても理想的な方だ。

 伊達に知事を何期も務めているわけじゃない」

「そっかぁ。ちゃんとお礼、言わないとなー。直接会って」

「もちろんだ。お前さえよければ、今度スケジュールを調整して会いに来てもらえるようにしたい」

「うん、おなっしゃーす。

 あっ、色々オンナの準備ってのがあるんで、新しいコスメとか買っていいっしょ? ね☆」


 それが目的じゃないだろうな、と言いかけたが、視線だけにしておく。

 今年いっぱいは自分は真央に対して甘くなるのは仕方がないと、諦めているのだから。




※※※




 そこから2週間足らずで、真央は外出できるようになった。一応歩けるようだが(関係者は「回復が早すぎる!」と驚いていたがもう慣れた)車椅子で介護付き、を条件に、である。

 早速、この前話した神社に二人でお礼参りに出かけた。

 なんてことはない、近所で一番大きく近いというだけであり、伊勢や明治といった大きな社ではない地元の神社だ。ただ、真央は知らなかったようだ。


「へぇー……! いいところじゃん? ……うん、()()()()()()()()


 何を気に入ったのか知らないが、真央は目を輝かせながら境内を見て回っていた。

 まあ、6年あの病室にいたのだ。これといって物珍しくない小さな神社でも、すべてが新鮮に見えて楽しいのだろう。


 ――余談になるが、真央を連れていってから数日後にこの神社で「霊現象が起きた」という噂話がSNSで盛り上がっていた。

 中には怪しい動画……黒い影が闇の中をサッと動いているだけの胡散臭いものもあったが、なんだか縁起が悪い。

 真央には内緒にしておこうと思った。まあ……そのうち買い与えたスマホでその記事に行き当たるとは思うが。




※※※




 そして退院の日取りが決まろうか、という頃、やっと田塚家先生のスケジュールが確保でき、先生が真央の病室を訪れた。

 『6年間眠り続けた少女(少女?)の目覚めを支え続けた知事』というニュースにするためのプレス付きだったので、当初想像していたより先生の訪問は派手になってしまった。

 並行して真央の化粧も派手目になっているような気がする。確かに事故当時はギャルだったから分かるのだが、あれから6年経ってまがりなりにも成人を迎えているんだぞお前は……と言いたくなる顔をしている。

 ともあれ、カメラのフラッシュやレフ板の光を満載にして、先生と真央はにこやかに握手した。


「ご快復も順調のようで、本当に喜ばしいです。本当によかった。おめでとうございます」

「ありがとうござぁます。これも知事のゴジョリョクあってのことです。

 お兄ちゃ……兄からすべて聞いています。感謝にタエません。本当にありがとうござぁまっす」


 ……前もって繰り返し教え、付きっ切りで特訓した感謝の文句も本番で台無しである。思わず背中に冷や汗をかくほどダメすぎる。

 しかしそんな真央の姿にも先生は微笑みを浮かべ、寛容だった。


「返す返すも、お父様のことは残念でした。しかし真央さんが生きている。元気でいる。

 それだけで救いになります」

「ありがとうございます。

 知事のことは生前の父からよく聞いています。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 アタシはその言葉を忘れず、今こうして目覚められてよかったと、ガチで思います」


 バシャバシャと再びシャッターの雨あられが部屋に咲く。

 ……「ガチ」はないだろう。

 シャッターの眩しさが理由ではなく、自分は思わず目を覆ってしまった。

 

 そんな撮れ高のある絵を十分に提供し、取材と先生のお見舞いは終わった。

 先生が去り際、プライベートで真央と短い間言葉を交わしていたのが何だか嬉しかった。




※※※




 真央が目覚めてから季節が2つほど移ろった。

 6年眠っていた者が全快するのに関係者は皆口を揃えて「早い!」と言う。ともかく、そんな妹が退院を迎える日がやってきたのだ。

 お世話になった病院の関係者全員からあれやこれやと言葉や花束を貰い、それに埋もれながら真央は満面の笑顔で「ありがとうござっした!」とお礼を返している。

 本当にこんな日が来ようとはな……と、改めてそれを眺める自分の目に熱いものが溜まるのだった。というかこの場で涙していないのは退院する真央本人だけのようである。本来お前が一番泣かなきゃダメなんじゃないか?と突っ込みたい。


「……では! また事故ったらおなっしゃーす!」


 と見送り関係者全員を苦笑させて、運転席の自分は車のアクセルを踏む。

 バックミラー越しの病院が遠ざかっていく。なんだか故郷を離れる時のような気持ちが沸いた。本来そこで勤めている者以外は故郷にしてはいけない場所だとは思うのだが。

 しばらく後ろに手を振り続けていた助手席の真央が、くるりと向き直って言った。


「別にタクるからわざわざ迎えに来なくてもよかったのに。仕事中っしょ?」

「……お前な。退院日を覚えてもらいつつ、わざわざ『迎えに行ってあげてはどうだ』と車と時間を都合つけてくださった先生に失礼だろう。無論、自分にも」

「お兄ちゃんはただサボリたかっただけ~的な可能性がさ~」

「お前と一緒にするな」


 ……6年前の、家族の空気を実感した。そうだ。真央とはこの会話、この雰囲気だった。

 真央もそう感じて安心してくれているだろうか。チラリと横目で見る限り、平常には……見える。


 ――担当医の先生にもそれとなく言われていたが、『車が怖く』ないのだろうか。


 あの事故である。運良く助かったとはいえ、もう二度と乗用車に乗りたくないと心に刻まれていてもおかしくないのだ。しかもあの時と同じ助手席に。

 しかし当人はそんな気配をこれっぽっちも見せず、こちらがそれとなく「大丈夫か」と心配しても「何が?」と返すくらいである。気のせいではなく、本当にそんな心の傷は負っていない……のだろう。

 身体の回復具合も異常のようだが、もしかしたら精神の強さも相当なものなのではないだろうか。

 「何も考えてませーん」と言わんばかりの能天気ぶりは、6年前は呆れれるしかない短所だと思っていたが……こうなった今、それが何よりの長所だったと認識改めざるを得ない。

 むしろ、自分のほうが怖れを覚えながらハンドルを握っているくらいだ。多分、免許取り立てで初めて公道に出た時より、そして田塚家先生を後部座席に乗せている時以上に緊張している。

 もう二度と真央を事故に合わせてはならない。

 そんな脅迫にも似たプレッシャーが、ハンドルを握る手に強くのしかかっている。

 それもあって、病院から自宅までの最短ルートは交通量のことを考えて通らず、遠回りながらも車があまり通らない安全な道を選んだ。

 対向車とは稀にすれ違う程度。それでも向こうからやってくる車が目に入る度緊張する。

 また一台、向こうから車がやってきた。

 大型……トラックだ。ああいうのに一番遭遇したくない。あんなのに正面衝突されたら今度こそ運で回避できそうな事故にはならない。アクセルに乗せている足が無意識にスピードを落とす。

 

「お兄ちゃん」


 横の真央がふと声をかけてきた。


「いい勘、してるね…っと!」


 自分の意識がはっきり「記憶」として捉えているのは、真央がそんな事を言った、というところまでだった。

 あとは記憶というより、もはや……何かの「映像」だ。

 身を乗り出した真央がいきなりハンドルに手を伸ばし、大きく切る。

 声を出す前に体が右に引っ張られる。

 一瞬トラックとすれ違う。

 目の前に電柱。

 音。衝撃。エアバッグで視界と口がふさがれる。

 暗転。

 頭が前後左右に振られ、軽い脳震盪に。

 どうなった。

 なにがどうなった。

 事故ったのか?

 あれほど気を付けていたのに?

 いや、今のは真央が…

 何故?

 どうして?


 何で真央が…!?


 ハッと、大きく響きっぱなしになっているクラクションの音に意識を呼び戻される。

 事故った。それはわかる。自分たちの車は電柱に激突しているらしい。ひび割れたフロントガラスのすぐ前に見える。

 邪魔なエアバッグを手で押しのけ、助手席をかろうじて視界に入れる。

 真央はいない。ドアが開け放たれている。外に出たのか?

 それ以上の状況がまるで分らない。

 こうなる前の記憶をなんとか呼び起こし、今の「結果」に当てはまるよう、抜けている「経過」をシミュレートしてみる。

 真央が横からハンドルを切った。それは確かだと……思う。自分にその操作をした記憶がないのだから。

 しかもあろうことか、対向車線の方向に、だ。

 そうだ、車体は右に大きく曲がり、あのトラックの真ん前に……!

 ……でも、衝突していない。何故だ?

 途中ですれ違った。

 そう、()()()()()()()()ぶつかりにいったとしか思えない自分たちの車と。どうして……だ?

 そんなことが起きるとしたら……一つしかない。

 すれ違ったということは、交差したということだ。つまり……


 同じタイミングで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 その事実の先を考える前に、運転席のドアが開けられた。

 いや、開けられた、ではない。ロックはかかっていた。それが意味をなさないくらいに、ドアを力任せに壊された、と言うべきだろう。もうドアは車体とくっついていないのだから。

 

『マオサマ、兄君は無事です』


 そんなドアを壊した犯人は、自分の様子を一瞥した後にそう遠くへ呼びかけた。「当たり前っしょー」という聞き覚えのある声が、遠くからすぐ返ってくる。


「さあ、善様。お手を」


 そして驚いたことに、その「犯人」の声にも聞き覚えがあり、それどころか顔にも見覚えがある。

 顔見知り、どころの話ではない。運転席のドアを力任せに引っ張って壊し、俺の手を取って外に出してくれたその者は、最近田塚家先生の第三秘書となった……つまり自分の同僚である、「杜野(モリノ)」君だった。

 そんな事実が余計この現状の非現実感を煽る。

 響き渡るクラクション。

 道路の向こう側で同じように歩道に乗り上げ停止しているトラック。

 見知らぬスーツ姿の女性と何か会話しながら、車道を横切ってこちらに悠々と歩いてくる妹。

 この事故に全く慌てた様子がなく、周囲に目を配っている杜野君。


 何なんだ。

 これは一体……何が起こっていて、どうなったんだ……!?


 自分のそんな胸中は、思いっきり顔に出ていたのだろう。

 妹は自分を見るなり、苦笑いしながら頭を掻き、言った。


「まあ……色々言うことはあるんだけどさ……とりあえず」


 そんな妹の真央は、やっぱり自分の見知った妹のままで。

 何の不自然も不思議もないままに。


「こっちで眠ってる間さ。アタシは()()()()()()()……

 【魔王】、になっちゃったんだよね」

 

 ――と。

 やっぱり真央のまま、笑いながらそう告げたのだった。


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