私は、決して許さない
「駄目。続きが思い浮かばない、駄作だわ」
私は、私のせいで不幸になった二人、という物語を構築しようとして、失敗したことを悟る。
正一郎と愛華、あの二人が不幸になるとしたら、どういった筋道が良いだろう。
想像するのは至極愉快だったけれど、どうにもうまくまとまらない。
「そもそも、何でアイツら幸せになってるのよ。傷つくようにしてやったのに」
私が、愛華の好意を正一郎に伝えたのは事実だ。
海外へと転校する愛華の思いを、当時小学生の正一郎が、恥ずかしくて手ひどく断る様に、そう伝えてやった。
愛華が帰ってきたときは、正一郎を再会させた。
正一郎には、中学生になった時に、如何にひどいことをしたのかを、愛華がどれだけ傷ついたのかを吹き込んだ。
愛華と顔を合わせたときの、正一郎の顔は本当に愉快だった。
「まさか、付き合うとは思わなかったけれど」
付き合い始めた二人にも、周りの人間を巻き込んで、色々としたというのに。
結局、あの二人は幸せそうにしているのだ。
全く、面白くない。
幼い頃からそうだった。
誰かが傷つくように、不幸になる様に、そう振る舞った。
勿論、誰にもばれない様に。
それは、とても楽しいことだった。
ただ、行動するだけじゃない、まずはそれを想像するのだ。
こうやって雑記帳に書き記す。
様々な方法を、相手を陥れる計画を。
もう、何冊目になるだろうか。
書き終えるたびに焼却しているから、正確な数は分からなかった。
新しく考えたのは、二人を陥れる手記、そう思って体裁を整えたのだけれど、どうやら難航しそうだった。
「まぁ、それも面白いけどね」
口にして、もう一度最初から始めなおしてみる。
山村恵美ここに記す
「何よ、五月蠅いわね」
最初の一文を書いたところで、スマホが音を立てる。
画面を見れば、妹だった。
どうやら、食事の誘いらしい。
「しょうがないわね、今日はここまでか」
誰かを陥れる遊びを続けるためにも、家族の仲は重要だ。
両親も、妹も、私を守る盾になりうる。
けれど、もしも私の邪魔をするなら。
「許さないけどね、ふふっ」
雑記帳を閉じて、呟く。
そうして、私は部屋を後にした。
私は決して許さない――了
カクヨムを退会したのでお引越し。
楽しんでいただけたなら、幸い。