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野球帽をかぶった少女  作者: ケト
第一章 出会い
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青空の過去

「青空は中学校の時に野球部に入っていたんだろう?」


 俺はその言葉に驚きを隠せなかった。 確かに、俺は中学校で野球部に入っていた。でも、なぜそのことを!? 俺と同じ中学校の人間はこの高校にはいないはずだ。


 俺は恐る恐る聞いてみた。


「ど、どうして知っているんですか……」

「おぉ、やっぱりか」

「え?」

「いやぁ、確証はなかったからブラフをかけてみたら見事に引っかかってくれたな」


 騙された。いや、俺が自爆したのが悪いのだが……。


「そう、怒るなって。でも、どうして隠そうとしてたんだ?」

「ごめんなさい。……実は、中学校の時は野球部だったんですけど、下手くそなので経験者として恥ずかしかったから──」

「嘘だな」


 副キャプテンが俺の言葉を途中で遮る。


「お前は、人の気持ちや嘘を読み取るのが得意かもしれないが、もう少し自分の嘘を隠す練習をしておけよ」

「……」


 何も言い返せなかった。

 今日会ったばかりの人にここまで俺のことが読み取られるとは。


「土山も気づいていますかね……」


 俺は独り言を呟いた。

 どうして、土山の名前が出たのか分からなかった。だけど、気づいた時にはすでに口に出した後だった。


「多分気づいていないと思うぞ」


 副キャプテンは俺の独り言に答えてくれた。


「ほら、俺はキャッチャーだし、副キャプテンだから人の心情を読み取るのは得意なんだ。だから、青空のことも分かったんだと思う。多分他のみんなにはばれてないと思うぞ」

「……」


 俺は黙ったまま地面の方を見る。


「青空が何で、中学校で野球部だったことを隠したがるのかは知らないけど、そんなに過去のことでウジウジしてると将来禿げるぞ」

「なっ──」


 俺は反抗的な目で睨む。


「そうそう、その顔その顔。俺は良い子ちゃんしている綺麗な青空よりも、醜いけど、どこか人を魅了させる本当の青空を見たいからな。いつかこの野球部が本当の自分でいられる場所になれるといいな」


 そう言って、副キャプテンは見上げる。

 副キャプテンの言った『青空』は俺のことか空のことかは良く分からなかった。

 だが、俺には俺自身のことを言っているように感じた。


 本当の俺か……。

 確かに高校に入ってから、いや、あの時から本当の俺として話した人は一人も居ない。

 それは、本当の俺が必要ないと思ったから。この野球部だって同じだ。本当の俺はこの場に必要ない。先輩だってああ言っていたけど、本当は本当の俺なんていらないはずだ。


「わっ!!!」 


 急な声に心臓がドキリとする。

 土山がいたずらっぽく声を掛けてきた。


「二人とも何を話していたの?」

「別に何でも……」


 今の俺は土山にこのことを話す勇気が無かった。


「キーンコーンカーンコーン」


 終業の予鈴が鳴る。


「よし、今日はここまでだ。みんな帰りの準備をしよう!」



──帰り道


「今日は、楽しかったねシン」

「……」

「どうしたの、シン?」

「──いや、別に」

「ゴメンねシン……」

「何が?」

「ほら、私が勝ったせいでシンがピッチャーできなくて」


 俺はその言葉にイラっときた。

 彼女は悪気がなく言っていることは読み取れたがそれが逆に俺の心を傷つけた。


「別に大丈夫だよ。俺は土山のピッチングは凄かったと思うよ」


 確かに、土山のピッチングは凄かった。だけど、それで苛ついていたのは事実だが。


「なぁ、土山……」

「なぁに、シン」

「何で俺を野球部に誘ったんだ」

「……一番だったから」

「え?」


 土山の顔が赤く染め上がっている。これは夕日のせいなのかそれとも……

 思ってもいない返答に鼓動が速くなる。息が苦しい。舌がザラザラして喉が渇く。つばを飲み込む。


 一番って何が一番なんだ?


 俺は続きを聞いてもいいのか躊躇ったが、意を決して訊いてみる。


「い、一番って何が一番なんだ?」


 声が上擦る。これじゃあ、緊張しているのが土山にもバレバレだ。

 土山は髪を翻しながら振り向きこう答えた。


「出席番号が」


「……え?」 


 ……え??


 俺は素っ頓狂な声が出た。


「だって、青空真で出席番号が1番だから。私、高校に入る前に決めてたんだ。出席番号順に野球部に誘っていこうって」

「あ、あぁそうだったんだな……」


 俺は冷静を取り繕うように答えたが、動揺は隠しきれない。


 なんなんだよ!? ただの出席番号順かよ!? 緊張して損したぞ!!


 土山の方を見ると、彼女は惚けた顔で今日の夕飯のことを考えてる。

 土山の顔が赤く見えていたのは本当に夕日のせいだったらしい。


 この様子を見ると、どうやら俺が中学校で野球部に入っていたことは知らないようだ。俺は一安心したが、煙たさも感じた。


「帰ろう、シン!」


 土山は振り向き手を差し伸べた。


「あぁ」


 俺はその手を取ることはしなかったが、土山と並んで帰ることにした。

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