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野球帽をかぶった少女  作者: ケト
第一章 出会い
5/110

部員との出会い

 部室の中に入ると、


「よぅ……お疲れ」


 知らない男の先輩が一人、部室にいた。


「お疲れ様です」

「例の新入生か……」

「はい、よろしくお願いします」

「…………」


 返事がない。ただのしかばねのようだ。


(一体何なんだ?この人は?)


 明らかに自分としゃべることを嫌がっている、いわゆるクール系の人間という人なんだろう。

 いつもの俺なら、ここは空気を読んで会話をしないはずなのに、なぜかこの時の俺は違った。


「初めまして、僕の名前は青空真です」

「……」

「1年生で、友達……っていうか知り合いに無理やり連れて来られたんですけど、ここでの経験が将来生かせるように頑張るので、今後のお付き合いよろしくお願いいたします!!僕を野球部に認めてもらえるように頑張ります!!」


 当たり障りのない、いつもどおりの挨拶をした。


(決まったぜ)


 と思っていたが、


「……」


 先輩の反応は無反応だった。ものすごく無反応だった。

 思いっきり外してしまった。


(なんだよ、『認めてもらう』って!? 結婚の承諾をもらいに行く時のお義父さんへの挨拶かよ!?)


 思わずセルフツッコミした。

 

「……山岡」


 すると、いきなり先輩が口を開いた。


「……え?」

「……俺の名前は山岡葵やまおか あおい。2年だ……」

「あ、はい」

「……」

「……」


 それだけ言うと、先輩は立ち上がり部室のドアを開けてグラウンドへ向かった。


「……」


 機嫌は良かったのか?ああいうタイプは表情が顔に出ないから、感情が一切読めない。

 入部早々先輩に嫌われていないだろうか……。


「……っていうか、なんで俺はいきなり挨拶なんかしたんだ?」


 以前の俺なら絶対にしなかった。なぜなら、人との関わりを大事にしないからだ。

 いや、それは少し語弊があるかもしれない。

 俺は付き合いにくい人間とは自分からは付き合わない性格だからだ。あの、山岡先輩はどう考えても付き合いにくいタイプの人間だ。同じ部員である以上、ある程度の付き合いは必要かもしれないが、それ以上の付き合いはメリットがない。

 なのに、どうして俺は自分から挨拶なんてしたのだろうか……。


 そんなことを考えていると、部室のドアが開いた。


「ぅおーっす!」


 今度は巨漢な先輩と小さい先輩?がやってきた。

 巨漢な人は身長180cm越えでおなか周りが少しアレな人で、小さい方の人は150cmぐらいで、小柄な人だった。二人が並んでいるので余計に二人の体格差が垣間見えた。


「誰だお前?」


 小さい先輩が声を掛けてきた。


「初めまして、今日から野球部に入る青空真です。よろしくお願いします」

「おぅ、お前が例の一年か。俺の名前は相沢鷹士あいざわ たかしだ」

「よろしくお願いします、相沢先輩!!」


 小さい先輩は相沢って言うらしい。って本当に小さいな……本当に先輩か?というか本当に高校生か?


「あぁん?なんか言ったか?」

「へ?な、何でもないです」


 どうやら相沢先輩は俺の心を読めるらしい。

 これ以上失礼なことを思うのはやめておこう……。


「俺の名前は望月恭介もちづき きょうすけだ。よろしく」


 巨漢な先輩が握手を求めてきた。


「よ、よろしくお願いします。望月先輩」


 巨漢な先輩は望月って言うらしい。

 ってこっちは本当に大きいな……何を食べたらここまで大きくなるんだ?


「まぁ、これからチームメイトになるわけだしよろしくな」

「はい、よろしくお願いします。相沢先輩」

「俺らは2年と3年だから、分からないことがあったら何でも聞けよ」

「分かりました。相沢先輩とは長い付き合いになりそうですね」

「……」


 ……あれ?相沢先輩の顔が急に引きつっった笑いを見せた。

 そして──。


「アホ!!俺が3年だ!そして、こっちの望月が2年だ!」

「す、すみません!!」


 小さな体に合わないほどの大きな怒号が飛び交う。


(しまった!!相沢先輩が3年生だったのか!?)


 でも、普通小さいほうが2年生だって思うだろ!?

 この人小さいくせに勢いがあって怖いし……。


「あぁん!?また変なこと思っただろ!?」

「お、思ってないです……」


 怖いよ……。


「相沢先輩、そこまでにしたらどうですか? いくら新入生に舐められないように厳しめでいくっていう計画があっても、怒りすぎて辞めてしまったら本末転倒ですよ」

「うるせぇ、望月! 計画を皆まで言うな!! ……ばれてしまったら仕方ねぇ。そういうことだから、青空! 勘違いすんなよ!」

「は、はい! びっくりしましたけど大丈夫です!」


 なんだ、可愛いところあるじゃん。


「お前また失礼なこと考えただろ!?」

「か、考えてません!」


 今度は素で怒られた。


「さぁ、俺らはグラウンドに行くからさっさと来いよ!」


 相沢先輩と望月先輩はすでにユニフォームへ着替えていた。っていうか、制服の下にアンダーシャツを着ていたから、ほとんど着替えは無かったみたいだが……。


「いくぞ、望月」

「分かりましたよ、先輩。じゃあ、後でね青空君」

「は、はい!」


 二人は部室の扉を開け、グラウンドに小走りで向かった。

 そして、相沢先輩と望月先輩の入れ替わりで1人入ってきた。


「……」


 今度は眼鏡を掛けた先輩だ。


「初めまして、今日から野球部に入る青空真です。よろしくお願いします」

「2年の川岡龍平かわおか りゅうへいです。よろしくお願いします」


 礼儀正しくお礼をしてきた。

 先ほどの先輩とは打って変わって、今度は真面目な先輩のようだ。


「……」 

「……」


 だが、話題がない。

 何か話さなきゃ。こういうのは後輩の人間から言わなきゃ。

 何か……ないか……。


「え、ぇえっと、ご趣味は何ですか?」


 お見合いかよ!?

 何だよ趣味って!?ほら、川岡先輩すごく困った顔をしているし……どうしよう!?


「趣味は野球です」

「そ、そうですか……」

「……」

「……」


 どうやら、俺は会話のきっかけを作る才能がないらしい。人の会話に入って盛り上げることしかしていなかったのがここに回ってきた。


「……じゃあ、僕は行きますので」

「は、はい」 


 川岡先輩は部室に入るときにすでに、ユニフォームだったのですぐに出て行った。


「川岡先輩とは微妙な空気になってしまったな……。俺もそろそろグラウンドに行くか」


 俺はようやくユニフォームに着替え終えたので、グラウンドに向かう。

 そこで、ユニフォーム姿の土山と鉢合わせた。


「シン!?ユニフォーム姿カッコイイね!」

「そうか?ありがとう」


 俺は素直に感謝を告げる。これが出来る男のやり方だからな。だから俺はいつも通り、土山にも同じように褒める。


「土山もユニフォーム姿……」


(あれ? これって可愛いって言うべきなのか? カッコイイって言うべきなのか!?)


 普通だったら、浴衣を着ている女子とかには可愛いと言うのが正解だ。だがしかし、この現状だとどんな言葉を告げるのが正解か……。

 

「土山もユニフォーム姿似合っているよ」


 俺は逃げた。似合っていると言えば土山の都合の良い方に捉えてくれるのでセーフだ。


「うん、ありがと」


 軽っ! あれ? そんなに俺の言葉に衝撃を受けなかったの!?

 俺は必死に考えて出した言葉にあっさり返事をされてちくりと胸が痛む。


「フフ、仲が良いのね」


 土山の後ろの方から声が聞こえた。

 そこには、ポニーテールでジャージを着た女性が姿を現した。


「あ、紹介するね。野球部のマネージャーの本条先輩だよ!」

「初めまして、3年の本条佳織ほんじょう かおりです。あなたが今日から野球部に入る青空君?」

「は、はい。青空真です。よろしくお願いします」

「これからよろしくね。青空君」


 透き通る声が俺の胸の鼓動を早くさせる。


「ねぇねぇ、本条先輩すっごく美人でしょ!!」


 なぜ、土山が自慢げな顔をする。


 確かに、土山が言うとおり本条先輩はとても美人で高嶺の花のような人だ。すらりと伸びた足に隙間から見える白い肌。そして、まるで口紅を塗ったような艶やかな唇は俺の心を奪うのに十分すぎた。


(いや、別に惚れていないから。美人だとは思うけど好きになっていないから!)


「ふふ、ありがとうね」


 土山のお世辞に本条先輩は大人の対応で応答する。

 高校3年生は社会的にはまだ子どもであるが、15歳の俺から見ると周りの誰よりも大人びていた。

 だけど、それが彼女を苦しめているように感じた。


「でも、本当に不思議ね。まさか、女子のメンバーがうちに来るなんて」


 本条先輩が土山に質問する。

 その発言はクラスメイトの挑発や冷やかしの質問ではなく、素朴な疑問という風であった。

 土山も本条先輩の意図を汲み取ったのか喜んで答えた。 


「甲子園に行きたいからです!!」

「へぇ~そうなのね」


 本条先輩は笑ってうけ答えた。

 それは土山が冗談で言っていると思ったから笑って答えたのかどうか俺には分からなかった。

 だけど、土山は自己紹介と同じようにまっすぐな姿勢で本条先輩の質問に答えた。その言葉に嘘がないことは俺には分かる。 

 なぜなら、俺は嘘で塗り固められた人間だから。

 

 土山の本気の答えに、本条先輩は一瞬怪訝な表情を見せたがすぐに戻った。

 この時、俺は違和感を感じたが何も言わなかった。

 

「……と言っても、どうせ気のせいだろうな」

「うん?何か言ったシン?」

「い、いや何でもないよ」


 どうやら、また無意識に口に出していたらしい。前まではこんなことなかったのにな。


「シン! 早くグラウンドに行こうよ! 先輩達も待ってるみたいだからさ」

「そうね行きましょう青空君」


 二人の美少女に腕を引っ張られて足が自然と前に出る。この状況を端から見ればまさに両手に花って言うやつなのかもしれない。

 だけど、グラウンドからにらんでくる先輩達と目が合った俺はこの状況をじっくり楽しむ余裕がなかった。


「よう、良いご身分だな一年生」


 一人の先輩が冗談っぽく言ってきた。


「いや、これはその……」


 俺はしどろもどろに誤魔化す。

 俺に話しかけたのは、昨日キャッチャーをしていた先輩だ。


「青空君、土山さん。来たみたいだね。それじゃあ自己紹介でもしようか」


 キャプテンが話しかけてきた。


「じゃあ、集合!!」

「「「おう」」」


 部員全員が返事をして、円陣をくむ。


「「は、はい」」


 俺と土山ワンテンポ遅れて返事をする。


「じゃあ、学年順で自己紹介をしていこうか。まずは俺からだな」


 キャプテンが円陣の中へ一歩踏み出した。


「俺の名前は中石恵斗。学年は三年で、この野球部のキャプテンだ。ポジションはファーストで右投げ右打ちだ。三ヶ月と短い間だけどよろしくな」


 周りの部員が拍手する。


「じゃあ、次は俺だな」


 キャプテンと入れ替わって、キャッチャーの先輩が一歩中へ踏み出す。


「俺の名前は中石慶治なかいし けいじ。学年は三年で、副キャプテンをやっている。ポジションはキャッチャーで右投げ右打ちだ。よろしく」


「あれ?キャプテンと同じ名字?」


 土山がはてなマークを頭に浮かべながらつぶやく。


 キャプテンと副キャプテンは同じ苗字で同じ年齢。つまり双子か?


「ははっ、よく言われるけど俺とキャプテンは赤の他人だよ」


 そんなことなかった。


「そっか~」


 のんきに土山は答えた。 

 土山は男の先輩8人と話しているが、いつもと変らない様子でのほほんとしていた。普通の女子なら怖がるような状況だが、どうやら土山は性別は気にしない正確らしい。


「次は俺だ!」


 小さい体から威勢の良い声が聞こえる。さっき、部室で会った相沢先輩だ。


「俺の名前は相沢鷹士。学年はもちろん三年生だ!ポジションはサードで右投げ右打ちだ。さっき礼儀の無い後輩が居たから、敬語を使わないやつは許さないから覚悟しとけよ!」


 最初から凄むような自己紹介をしてきた。

 俺に目線を向けて。


(しかし、これが舐められないようにって思うと可愛いな……)


「あぁっ!?」


 相沢先輩が俺をにらむ。


(やっぱりこの人怖いよ……)


「じゃあ、次は僕かな?」


 長身で細身の先輩が一歩前へ出た。この人は初めて見る顔だ。


「僕の名前は中井鉄平なかい てっぺい。学年は三年でポジションはセンターで、左投げ左打ちです。短い間ですけど、よろしくお願いします」


 礼儀正しい先輩だ。やはり先輩はこうじゃないとな。


「これで3年生は終わりだな。次は二年生に行こうか」


「じゃあ……」


 望月先輩が大きな体をのっそり動かし一歩前へ踏み出す。


「俺の名前は望月恭介。学年は二年生で、ポジションはレフト。右投げ右打ちで……これで終わりか」

 

 またのっそりと自分の位置へ戻る。

 入れ替わりで山岡先輩がうつむいた表情で一歩前へ踏み出した。


「……俺は山岡葵。二年でショートで右投げ左打ち」


 やはりしゃべりたがらないのか、必要最低限の言葉で自己紹介を終えた。


「じゃあ、ラストは川岡!」

「は、はい!」


 キャプテンの呼びかけに甲高い声で返事をする。


「は、初めまして。僕は川岡龍平かわおか りゅうへいです。学年は二年生で、ポジションはセカンドです。あと……、右投げ右打ちです。宜しくおねがひ──」


 あっ、噛んだ。


「……」


「これで、上級生は全員だ。次は1年生よろしく!」


 沈黙の後、キャプテンが仕切り直し、俺たちの自己紹介の番になった。


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