土山との出会い
今日は高校生活7日目。
俺の名前は青空真。あおぞらしんって読む。
親がいつでも真実を見つめる欲しいっていう思いを込めてつけたらしい。だったら、まことでいいんじゃないかって思ったが。って誰に言ってるんだろう、これ。まぁ、そんな親の思いを裏切るように成長しているわけだが。
俺はクラスの人気者……とまではいかないが、話しやすい人だと自分で思う。それは、頭が良くて、スポーツ万能で、イケメンだからっていうのには全て当てはまらない。
ただ、合わせるのが得意だから。俺には自我というものがない。俺の心は空っぽだ。
だから、俺は他人に合わせて行動する人間だからみんなに好かれているって訳だ。そんな俺が真実を見つめるなんてたいそうなことが出来るはずがない。
俺はこのまま高校生活を続けていようと思っているところだ。
そんな中、彼女、土山凜音は俺の前に立ちはだかった。
「ねぇ、私と一緒に野球部に入らない?」
「へ?」
何とも情けない声を出してしまった。いきなり、美少女が俺なんかに声を掛けてきたから仕方がない。
「ねぇ、私と一緒に野球部に入らない?」
「……土山さん?いきなりどうしたのかな?」
「ねぇ、私と一緒に野球部に入らない?」
「リピートかよ!?」
ダメだ。このままでは、こいつのペースにはまってしまう。思い返せばあの時もそうだった。そう、あれは6日前。高校初めての自己紹介の時だ。
「じゃあ、自己紹介を始めて行こうか。まずは、出席番号1番、青空真」
(出席番号1番のやつって絶対人生損してるよな……)
俺はそんなことをか考えながら席を立つ。
「初めまして、空丘中学校出身の青空真です。一人は寂しいので、どんどん話かけていって、みんなと友達になりたいと思います。一年間よろしくお願いします」
と、こんな風にごく普通の自己紹介をした。なにも特徴もない。空っぽの挨拶だ。
そして、彼女の番が来た。
「初めまして、私の名前は土山凛音です。私は野球部に入ります。そして、私がみんなを甲子園に連れて行きます!!」
一瞬の沈黙の後、大爆笑が起きた。
それもそうだ。いきなり、甲子園に連れて行くなんて言い出したんだ。しかも女子が。
「分かってんのか?女子は甲子園に出れないんだぞ?」
クラスの誰かが挑発するように彼女に尋ねた。
「大丈夫!!」
(……一体何が大丈夫なんだよ)
俺は彼女に尋ねるなんて、野暮な真似はせずにクラスのみんなに合わせて笑った。
そして、俺は一つ決心をした。
絶対にコイツと関わらないって。
──って感じのことが合ったんだが、あっちから俺に関わりを持とうとするなんて考えてもいなかった。
土山凛音は可憐な少女であるが、一つ一つの言動に知性が見られない。だが彼女の言葉にはどこか芯があり、人を惹きつける魅力があった。
「俺とは真逆な存在だな……」
「うん?何か言った? 」
口に出ていた……。俺は慌ててごまかす。
「何でもないよ」
「そう、それならいいや。ねぇ、私と一緒に野球部に入らない?」
何回リピートするんだよ……
「ゴメン。この後用事があるんだ」
もちろん用事なんてない。土山とは関わらないほうが身の為だと思ったからだ。
「分かった。じゃあ、すぐに野球部の部室に行こうよ!」
「うん、ゴメン……って人の話を聞けよ!!」
「ほら、早く!!」
土山が俺の腕を引き寄せる。
これが彼女との始めての出会いだ。