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運命の出会いを果たした気がした

血塗れのシャツを着たセシルとライチを見るや否や、ジーナは「汚い!」と叫んで小屋から締め出してしまった。

体を洗うまで入って来るなということのようだ。


「服、またダメにしちまったな」


セシルはライチの真っ赤なシャツを見る。

灰色のそれは、お腹のところにバッサリと穴が空き白い腹が見えていた。


「慣れてますから良いんです」


「……俺が言えたことじゃねえがお前の元いたチームは本当ロクでもないな」


ライチは苦笑する。

それはそうなのだろう。だがそれでもライチを拾ってくれた恩はあった。


セシルが先に体を洗えと言ってくれたので彼女は先に血を洗い流し小屋へと戻る。

ニコとオニツカがソファに座って談笑していた。


「あ、血取れた?」


「服はダメでした」


「折角街に出たなら買ってくりゃ良かったのに」


「それどころじゃなかったんだよ」


ニコはやれやれと首を振った。咄嗟にライチは「すみません」と謝る。


「どうしたの? まさかライチちゃんも自治チームに喧嘩売った?」


「そんなフリーズみたいなのがもう1人いて堪るか……。

ちょっと元いたところとのゴタゴタに巻き込まれたんだよ」


「ま、待ってください。自治チームに喧嘩売ったってなんですか……」


あり得ない言葉にライチは思わず口に出していた。


「……アレはね、自治チームのある人の武器を盗もうとして、その取り巻きに切りつけられたんだよ」


面で目元は分からないがニコの声は疲れ切っている。相当嫌な思いをしたらしい。横に座るオニツカも遠い目で中空を見ている。


自治チームに盗みを働くなんてあり得ない話だ。

そんなことすれば、自治チームの持てるだけの力を使って粛清されるだろう。

ライチは首を振った。濡れた黒髪が揺れるのも構わず、恐ろしい話を振り切りたかった。


「そんな、そんなバカな……」


「サワンちゃんはバカなの」


「救いようがない」


「大変だったなあ……。いや、もうこの話はやめようか。

ライチちゃんはどうして血塗れだったの? なんか会うたび血塗れな気がする」


オニツカの質問にライチは口ごもる。そんな彼女に変わってニコが返答した。


「元いたチームの人が彼女にひどい仕打ちをしたんだよ」


「あら」


「でもソレはちゃんと殺しておいたから大丈夫。エメンタールチーズみたいになってたよ」


「あらら」


「……私がもっとうまく対処出来ていれば、死なずに済んだのかもしれませんね……」


ライチの瞳が暗く濁る。

もっとやりようがあったのではないか……謝るだけでなく上手く説得出来ていれば……。

そんな彼女を2人はジッと眺めていた。


「セシルがなんでライチちゃんをあれだけチームに入れたかったのかよく分かるよ」


「え……?」


「アレは変態だからね」


「え?」


ライチは2人の顔を交互に見る。どういう意味だ。


「……まあそんなことはともかく。

ライチちゃんの元いたチームは中々厄介そうだ」


「すみません」


「君が謝ることじゃないよ……身を置く環境は選ぶべきだと思うけど、選べないこともあるし」


オニツカの目が細められた。言葉は優しいがその視線の鋭さにライチは思わず顔を背ける。


「後でセシルが話すと思うけど例の件、対処しようと思ってるんだ」


「虚偽報告の件? 面倒だな……」


「このまま放っておく方が面倒になるから」


「ジーナはなんて?」


「ああ……怒るかな……。

ライチ、ちょっとジーナとフリーズに決まったこと話して来て?」


「わ、分かりました。

2人はどこに?」


「部屋にいないみたいだから外に出て化け物の頭並べてんじゃない?」


ライチは頷いて外へと繋がる扉を開けた。

薄暗い夕闇の中2人の人影が見える。


*


オニツカの言葉通りジーナとフリーズは化け物の頭を並べていた。

今日は3つだ。カゴは使わなかったらしい。


「およ? お帰り」


「戻りました。

化け物……任せてしまってすみません。手伝います」


「もう終わったわ。

で? 何の用?」


ジーナの瞳が冷たく光る。

ライチは今後の予定を2人に話した。


「ハアー……めんどくさいめんどくさい」


フリーズは嫌そうに頭を振る。その度に角にかかった髪の毛がピョンピョンと跳ねた。


「す、すみません」


「フン、どうせ私たちはなんもやらないわよ。

ニコとオニツカに任せておけば良い」


ジーナは並べられた首を丁寧に揃えながら吐き捨てるように話す。


「どういう意味ですか?」


「私もフリーズも化け物を殺すのは得意だけど人との駆け引きは苦手だから。

特にフリーズなんて引っ掻き回すだけでなんの役にも立たない」


「何言ってんだ、オレ様が本気出したら」


「教祖様に敵うとでも?

私たちは化け物殺してれば良いわ」


それだけ言ってジーナは小屋へと戻って行く。供物を捧げるのだろう。


「……教祖様ってなんですか?」


「ニコのことだよ。カルト教団の教祖だったんだって」


「え!?」


ライチは目を剥いた。あの華奢な、兎の面をした、ちょっと変人の男が……?


「あんな若いのに……!?」


「あれで30越えてるらしいな。40近いんじゃなかったか……。

まあこの世界で年齢なんて無意味だけどよ」


絶句し、言葉が出ない。ライチは小屋から出てくるニコを見つめ続けた。

カルト教団の教祖で40の男……。


「熱い視線を感じる」


「……なんでニコなんか見つめてんだ」


「なんかってひどい」


「い、いえ! なんでも……」


ライチの目がふよふよと泳ぐ。それを見たセシルはますます不服そうな顔になる。


「どうしたんだよ」


「ニコが教祖様って言ったらビックリしたみてえだ」


「僕のこと言い触らすのやめてよ!」


「本当なんですか……」


呆然とした言葉に彼は肩を竦めた。


「こんなとこに来るまでの話だよ」


今まで会った人達の中にも不思議な経歴の持ち主はいた。

だがニコのそれは他の衝撃とはまるで違う。こんな世界で教組に出会うなんて。


彼女はセシルの方をチラリと見る。豹の密猟をしていた男。

彼も恐らくとんでもない経歴の持ち主なのだろう。ではオニツカは、ジーナは、フリーズは。


「皆色々だよ」


ニコの囁く言葉にライチは頷いた。

彼女自身も"色々"あるのだから……。


*


それで、とセシルが口を開く。

供物を捧げ終わり、食事も終わったなんとなくダラダラとした時間を過ごしていた時だった。


「死体はあったか?」


「死体……ああ! あの森の奥?

やっぱり強いのが隠れててうまく探せなかった」


「……その強いのを倒して罠として使えなくするか。

その後どうなるか様子を見よう」


「お!? 強いの倒すのか!? オレ様が倒してやろう!」


意気揚々とフリーズが立ち上がる。

だがセシルは一目くれることもなく首を振った。


「ジーナと俺で行く。

複数いるとジーナも巻き戻しにくい。

ジーナもそれで良いな?」


「問題ありませんよ」


「ハア!? オレ様がいなくてあの化け物倒せるわけないだろ! やらせろよ!」


「後でな。まだ他のとこに強いのがいるかもしれない。

温存しとけ」


フリーズは不服そうに「イイトコ見せたいだけだろ」とブツブツ呟いている。

だが一応納得したらしい。またソファに座って黙り込んだ。


「残りは?」


「人のいるところで罠があることを言っておけ。

注意しておくに越したことはない」


「ついでに化け物狩り?」


「フリーズとニコがいるんだから平気だろ。

怪我しても治らないから注意しておけ」


「はいはい」


オニツカは面倒そうに返事しライチを見た。


「ライチちゃんも?」


「……そうだ。一緒にいて、守ってやれ」


彼は今度は返事をしなかった。ただライチを観察するように見ている。

……また足を引っ張ることにならないと良いが……。彼女は不安を感じ喉奥を鳴らした。


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