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底辺小説家クラヤミ~始まりの‟生と死の階段編”~ あなたへのエール

 クラヤミ(21歳)。 夢は小説家。

クラヤミは大学に通う大学生。楽しい大学の日々。

だが、そんな日々の中でもクラヤミは悩んでいた。

それは趣味。

彼が書いている小説がまったく見向きもされないまま埋もれていくのである。

彼は底辺から這い上がろうと書き続ける。

だが、読まれず。ウケず。伸びず。

必死に書き続けてきた小説はもう400話を超えていた。

それまで書き続けてこられたのには理由がある。

最高だったのだ。

自分の中では最高の出来。もう自分が編集者なら喜んで自分を採用するレベル。

自分の作品が本当に面白くて大好きであった。


それでも、彼の物語を誰も見ず。

ただただ彼が読者を置き去りにした。


「くそッ…………なんでなんで。読まれない。もう400話を超えた。それなのに…………それなのにィ。ウウッ……ウウッッ………………」


悔しくて彼は自分の足を叩く。殴り付ける。

しかし、現実は変わらない。

彼はもう疲れはてていた。

底辺歴ももう長い。

彼よりも若い者たちは既に評価を大量に得ていてファンも数人得ていた。

新しく来た者にどんどん置いていかれる。

自分は底辺の中で何度、上へ行く者たちを見上げてきたのだろうか。

上へ行く者は誰もクラヤミに手を差しのべようとはしない。

さらに先へ。向こう側へと進んでいく。

まるで階段を登っていくようにどんどん上へと登っていく。

そして、上層から聞こえてくるのは「書籍化出来た」と歓喜する声。

その幸せそうな声は最下層にいるクラヤミの心を締め付ける。

巻き付く……蛇のように締め付ける。


「なんで…………なんであいつらが…………俺のよりもただ少しすごく面白くて、ただ少し世界観が独特なだけじゃねぇか……クソックソクソォォ」


しかし、クラヤミは分かっていた。

恨み辛みを吐き出しながら、若き成功者に八つ当たりしながら、彼は薄々気づいていた。

────才能!!

若き成功者たちは努力の積み重ねで才能を得ている。

現実は甘くないのだ。

チートやスキルなど創作物の中でのお話。

一般人の何の力もないクラヤミにそんな力は存在しない。

彼らは自らの手で才能を勝ち取っていた。

実際、彼らの努力は凄まじいものであった。

それがないクラヤミには届かない。

その天へと伸ばす手は決して届かない。

だから、クラヤミは見ていることしかできなかった。


「うああああああああああ!!!!」

グシャ…………。


遥か上層から落下してくる成功者を見ていることしかできなかった。

成功者が失敗し、再び底辺へと落ちていく様子を眺めることしかできない。

自分と同じ底辺へと誘うために口を大きく開けて、成功者を吸い込むのだ。

その感情は嫉妬。

成功者を祝福しつつ、心の中では妬んでいた。

人間の感情の1つ。

その感情が増大し、初期の頃の面影は彼にはない。

純粋に小説を書くことを楽しんでいた頃の彼の面影は消え去っている。

彼は堕ちたのだ。底辺へと……。




 数ヵ月後。

500話に到達しても彼は欠かさず書き続けていた。

終わらない。

書きたい設定。書きたいキャラ。伝えたい想い。読んでいる人がいるという信じる心。

それらが囁く。

まだ書き続けろと耳元で囁いてくるのだ。

だから、彼は終わらない。


「絶対に負けない。次の話は……次の話こそウケるんだ。次だ。まだ次がある。次の話こそ行けるんだ。驚かせてやるみんなを……。認めさせてやる俺の存在を……。登ってやる成功者への階段を……!!」


クラヤミはまだ諦めていなかった。

必死に設定を考えて書き続けていた。

彼は暗き部屋でライトの明かりだけで夜間も書く。

就寝時間を削りながら書き、講義に出て、また書く。

それを何日間も続けたのである。

──そして、ついに……。


「おっ……………終わった…………」


クラヤミ。処女作完結。

そして、完結作品の仲間入りを果たしたことで読まれる。読まれる。読まれる。


「アハッ…………ハハハハハハ!!!!

書き終えた。やったぞ。やった。やったやったやった~!!」


その読者の数は今までで一番多かった。

増えていく読者。ブーストがかかる。

彼は書き終えたのだ。自分の処女作をついに書き終えた。

つかの間の幸せ。

書き終えたことによるこれまでの作品内のキャラクターとの別れが恋しく悲しい。

だが、恋しいだけではなく、書き終えたことが嬉しかった。

恋しさ+嬉しさ。

彼はやりとげたのだ。作品を……物語を……書ききったのだ。

悲しい嬉しい。悲しい嬉しい。

ついにクラヤミは成功者への階段に向かって走り出す。

きっとうまくいく。そう考えたのだ。

そして、クラヤミは一歩、成功者への階段を登ろうとした。


ドクンッ……ドクンッ……。


しかし、ゾワゾワとクラヤミにまとわりつく嫌な予感。

成功者への階段に足をかけることができない。


「ああ……」


気づき。クラヤミは気づいてしまった。

確かに読んでくれている読者はこれまで以上に増えている。


「ああ……」「あああ……」「ああああ……」


だが、彼らが読んでいた場所。それは1話。

500話まで書いてきた彼の作品が読まれていくのは1話。

ボーリングで例えるならば、ストライクが決まらない。全てがガーター。

読者はボーリングの玉を投げただけ。

ストライクに行かない。

ボーリングの点数が0!!!!


「あああああああああああ!!!!」


絶望のあまりクラヤミは叫び出す。

悔しくて悔しくて悔しくて悔しい。


「くそッ……」「悔しい!!」「悔しい!!!」


彼の想いは読者に伝わることがなく。

彼のキャラクターたちは読者に見られることもなく。

彼の最高の結末は読者を感動させることもなかった。


「こんな……こんなことって……あるかよ。あり得るかよ。あっていいのか?

こんな残酷なこと!!」


読者を面白がってやると思わせることができなかった。

彼らは階段を登らない。一段目でリタイア。

500段のうち、1段目で登るのをやめたのだ。

あの日々をかけて書いた物が読まれない!!

──それは誰も悪くない。

読者もクラヤミ自身も悪い人ではなかった。

ただ、作品がダメだった。それだけである。

結果、彼は底辺から動けない。

その場所から一向に進むことができない。

彼は底辺にしか住むことができない。

ただ、そんな底辺に唯一の光があった。


「あっ……あれは?」


クラヤミには輝かしく見える光に満ちた扉。

底辺という暗闇に唯一見えた光。

その光は他の底辺の者も目覚めさせた。

虫を誘い出す光のようにその輝きは眩しく暖かい。


『出口』


「出口だ。いくぞみんな!!」


底辺にいた者の一人がそう叫ぶ。

すると、他の底辺にいた者たちも彼に続けて、その扉の向こうへと走っていった。

この暗闇から脱け出したいと必死に想いながら、その扉の向こう側へと入っていく。


「待って。俺もだ。俺もいく!! 置いてくな。俺もそっちへ行かせてくれぇぇぇぇ!!!」


もちろん、その扉に向かってクラヤミも走った。

ポロポロと涙を床に落としながら、彼らは走っていく。

底辺にいた者たちは半数以下が残り、クラヤミたちであるそれ以外の人物は扉から外へと出ていく。

まさに残酷。残酷な現実。ツラすぎる現実。これこそが現実!!

誰もが全員幸せになれるわけではない。

夢を捨てて扉の中へ。出口へ!!

彼らは小説を書くことをやめたのだ。



















 だが、数年後。

1人の男が底辺へとやってくる。


「…………ッ」


クラヤミ帰還。

再び底辺へと舞い戻ってきた!!

彼は頬についた涙を袖で拭いながら底辺に立つ。


「俺は一度挫折した。もうやめたいと嘆いた。

だけど、やっぱりやめたくないんだ。

書くことをやめたくなかったんだ。

だって…………俺は……」


言葉が詰まる。

もうクラヤミも就職して社会人になっていた。

その時期に彼はやってきたのだ。

現実と戦う日々を必死に生きてきた。

それなのに、彼は再びこの底へとやってきた。

不死鳥のように舞い戻ってきた。


「俺は最初から小説を書くことが大好きだったんだから!!!!」


彼の決意は堅い。

彼の執筆への愛はまだ枯れ果てていなかったのだ。




 それからというもの、クラヤミは必死に戦った。

仕事も全力。

そして、執筆も全力。

ライトノベルをまったく読まなかった彼は読み漁った。

無我夢中で調べものをする少年のように必死に読み漁った。

それすなわち展開を学ぶため!!

先人の成功者から学んでいく。

そして、書き方やウケる小説の違いも学んだ。

先人の知恵を食らい食らい喰らう。

自分の物にする。自身の血肉へと作り替える。

さらに、自分のため読者のために書くようになった。

決して読者を置き去りにしない。宣伝も忘れない。

知られるように……自分の存在を知らしめるように彼は動いた。

素晴らしい小説の書き方をひたすら学び、試す。


「書くしかない。書かなきゃ前にも進めない。俺が人生を変えなきゃ誰が変えてくれるというんだ。勝ち取るしかない。今を全身全霊でやっていかなきゃ勝負もできない。書くんだ。書き続けろ俺ッ!!!

未来の自分のために!!!」


書き、書き換え、書き、書き換える。

努力。

才能を掴み取るための努力!!!!


「ウオオオオオオオオオ!!!!」


そして時は来たれり。

クラヤミ、新作を投稿。

再び戦場に降り立った。

過去に大敗した戦場に再び足を踏み入れた。

その瞬間、今までに見えなかった物が視界に写り込む。


「久しぶりだな…………成功者への階段!!

見えるぞ。再び俺の前に姿を現しやがったな作品の生と死の階段!!」


それは階段。成功者への階段。

かつて、見えていたのにも関わらず、踏みつけることさえ許さなかった上層部へと通じる階段。

落ちれば底辺へと転がる作品の生と死の階段。

クラヤミは向かっていく。その階段を踏みつけるために!!




 その距離はあと1歩。

これで階段に足を乗せることができずに拒まれたら試合終了。

最初の方の話が読まれなければ、今後の作品のために取っておいた作戦が使用できない。

ドクンッ……ドクンッ……。

心臓の音が底辺全体に響き渡る。


「……やれる。俺ならやれる。俺はうまくやってきた。今度こそ俺は勝てる。いや、勝つんだ!!

俺は上へと行ける男だァァァ!!!」


そして、クラヤミは成功者への階段に向かって足を伸ばした。











 カツンッ。

シーンと静まり返る。

成功者への階段がクラヤミを弾かない。


「ああ……」


成功者への階段が彼の1歩目を許可したのだ。


「ああ……」「あああ……」「ああああ…!!」


両足で階段の一段目を踏みつけてみる。

しかし、弾かれない。

クラヤミは成功者への階段を1歩上ることが出来たのだ。


「やったー。やったぞ。やったんだ。俺は……俺は俺は俺は!!」


嬉しい。歓喜。最高。幸せ。逆転。大逆転!!

1人、彼の新作を気に入ってくれた人がいたのだ。

それが例え1人でも、クラヤミには本当に嬉しかった。

嬉しさが全身に満ちていく。


「ありがとうございます。ああああ、ありがとうありがとう……!!!!」


泣きたくなるような気持ちを押さえて彼は喜んだ。

この大きな1歩を踏みしめた。




 だが、彼は知らない。クラヤミは知るよしもなかった。

この成功者への階段。いや、生と死の階段はまだまだ上があるということを……。

さらに過酷な現実が待ち構えているということを……。

これは終わりではない。まだ始まりでもない。

命と時間とアイディアを賭けた闘いは、激しい戦となる。

天国を経験するか。地獄を経験するか。

それはこれからのクラヤミの努力次第。

そしてライバルたちとの勝敗の結果次第なのだ。

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