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この世界は何処?

夢を見た。

向こう見ずに世界を生きて、いつか夢は叶うと無邪気に信じていたあの頃の夢を。


つまらない世界だ。

夢の一つも叶いやしない。

ぐしゃぐしゃに丸めて捨てる紙屑の様に、浅はかな記憶を吹き消した。


やがて、静寂のみが広がった。


とても居心地が良い。ずっとここに居られたなら。


そんなことを考えていると、何時から有ったか、扉を叩く音がした。


居留守を決め込もうとした。


「大丈夫か。生きているだろう」

聞いたことの無い声だった。不思議と、その声に興味を持ってしまった。

恐る恐るながら、その扉を開けると、眩しい光が差し込んできて―――



「………ここは………?」

どうやら倒れた後、気絶してしまっていたようだった。

辺りを確認すると、すぐそばに人影があった。

「助けて、くれたのか?」

声をかけると、その人影はこちらに振り返った。と。

『目が覚めたか。体調に問題は無いか?』

暗がりで少し分かりづらいが、どうやら少女であった。ただ、何かおかしい。と、そのたたずまいに少し違和感を感じていると、料理をしていたらしい少女は立ち上がり、僕のすぐ近くまで来て、首もとに突如手をあててきた。

「んぐっ……!?」

『安心しろ、害意はない』

確かに、首を絞めてくる訳でもなさそうなので、くすぐったさを堪えて成り行きに任せることにした。


『血圧:下.73、上.136』

「……へ?」

血圧?計っているというのか?検査道具もなしに?

『脈拍:71/m』

『体温:37.2』

『栄養状態が芳しくない。微熱にも注意』

どうやら淡々と僕の体調を調べているらしい。凄く機械的、と言うよりは。

「……ロボット?」

『Yes。正確には、人類緊急保存用アンドロイド。最初で最後のNo.0』

『ヒトは私を「イージス」と呼んだ』

限りなく人に近い存在だ。

仕草も僅かな違和感をのぞけば殆ど人間のそれだし、体の各所にある機械のパーツが無ければ、人と信じて疑わない人も居るだろうと思えるほどだった。

『胃袋内に食糧らしき反応無し。空腹と判断。粗末だが、食え』

差し出してきたのは、スープだった。どうやら先刻の熊の物と思われる肉と、僅かな野菜の入った、確かに粗末なスープではあったが。

「頂きます………うん、美味しい」

久しぶりの食事は、何よりも美味しかった。

『……光栄だ』

イージスはその表情に少しの笑みを浮かべていた。その限りなく自然な微笑みに、彼女は本当にアンドロイドなのか疑いたくなった。



『少しは休めたか?』

「うん。ありがとう」

疲れきっていた身体は、彼女が汚れた空気をどうにかして防いでくれたこともあって、大分調子を取り戻していた。

『では、少しついてきてくれ』

イージスが立ち上がるのを見て、僕も立ち上がった。何処に行くのだろう。

『このエリアはまだ探索しきっていない。食糧を逃さないようにする』

そう言ってイージスは建物から外に出た。そのとき初めて、彼女の髪と瞳が蒼いことに気付いた。透明な、綺麗な色だった。

廃れた風景に鮮やかな色を保つその姿に見とれていると、彼女は外の瓦礫の山を漁り始めた。慌てて僕も駆け寄る。

「僕も手伝うよ」

『では、その辺りを頼む』

二人仲良くゴミ漁り。なんとなく楽しいと感じるのは気のせいだろう。


『ふむ、鯖の缶詰か』

さくさくと瓦礫を除けて缶詰を取り出しているイージスに対して、僕は中々缶詰を発見できなかった。

それでも、大きめな瓦礫を何とか動かしたときに、あるものを見つけた。

「これは……」

写真だった。風雨に晒され色褪せてはいたが、それでも四人写っているのが分かった。

『それは、「写真」か?』

イージスが興味深そうに覗きこんできた。

「そうだね。四人写ってる。家族、なのかな……」

『少し貸してほしい』

何か気になるのかな。そう思いながら僕はイージスに写真を手渡した。

『スキャン開始。…………………完了。凡そ7年前の物と特定』

「え、そんなこと分かるの?」

『Yes。大昔であったり、風化しすぎていない限り、特定は可能だ』

すんごい高性能だな、と感心する一方、さりげなく気になることを言っていたことを言及した。

「7年前って、随分最近だけど、何があったの?」

『何って……』

イージスがどうやら戸惑っている様だった。何か不味いことを言ってしまったのだろうか。


『……失礼。貴殿は何処からきた?』

何処から来たのか?……そうか、そう言えば自己紹介をしていなかった。失礼なことをしてしまった、と反省。

「ごめん。まだ名乗ってなかったね。ついでに自己紹介させてもらうよ。僕は東川(あずまがわ)(のぞむ)空路(そらみち)市出身。だけど、ここ、違うよね?」

『ノゾムか。よろしく頼む。それより、ソラミチだと?』

『随分昔の名を使っているのだな』

「……え?」

何を言っているのか分からなかった。最初、僕はここは自分の居た世界とは全く異なる場所だと信じた。それほど、風景が違った。

しかし、彼女は空路市を「昔の名」と明言した。つまり、それでは。

「……ここの、名前は?」

『エリア61-22-3。旧名は今ノゾムが言った、空路だ』

嘘だ。

ここが、空路市?あり得ない。だって、ここには四つ程の崩れた建物しか無いじゃないか。

いや、急いてはいけない。確認しなければ。

「……隣町の名前は?」

『北から時計回りにエリア61-22-1、61-22-2、61-21-10、61-21-11、61-22-5。旧名はそれぞれ北境、宮海原、東果見、西果見、下央だ』

―――一致している。完全に。その事実が僕の全身に突き刺さる。つまりここは、社会、いや世界が崩壊した後の世界ということになる、のか?それとも、所謂タイムスリップ?


『どうした、大丈夫か?』

イージスの声で我に帰る。危うく笑みが溢れるところだった。

社会が終わるなど、これ程嬉しいことがあるか?

『何故、喜んでいる?』

「え?」

『感情の昂りを検出。まるでこの世界を望んでいた終末主義者の様だ。理由を問う』

どうやら、気付かれていた様だった。どうせ終わってしまっているなら、どれ程の罵倒雑言を吐いても、僕にダメージ等無い。

「簡単だよ。僕は、社会が嫌いだった」

『それは、何故?』

こんな話に興味があるのか、と不思議に思いながら、それでも聞きたいなら話そう、と思った。

「初めて社会に疑問を持ったのは中学生の頃だったかな。僕はその頃夢を見失っててね、何をするのが良いのか全く分からなかった」

イージスはただ僕の話を聞き続けていた。

「そんなこんなで進路の話だ。子供の頃から描いた夢が壊れて、何をするにも不安が湧いて出てくる状態。そんな中、周りはどんどん進路を決めていく。不思議だったよ。何で皆そんな簡単に道を決められるのか」

少しずつ、腹の奥底に淀みとなって溜まっていた黒い感情が溢れてくるような気分だった。

「やることが分からないから取り合えず進学した。でも、高校では更に早く進路についてを問われて、何でも良いから社会の役に立てみたいなことを周りから言われるような日々になった。先生に相談したって、『だからと言って何もしないのか』の一点張り。親を失望させたくないから、親にさえ相談できなくなって、その内どす黒い感情が、何処と無く心地よくなった」

イージスの表情に感情を見出だすことは出来なかったが、構わずに進めた。

「僕みたいなのは社会に必要ないって思ったのはそれから間もなくだ。マジョリティは何もできやしない、ってね。だから、死のうと考えた。なのに、ビルから飛び降りたらこんな場所に来て、過酷な環境だけど、それでも社会亡き世界に初めて居場所を感じたんだ。気が狂ってるって思ってくれて構わない。でも、この喜びは紛れもない本物だ」

「僕は、狂ってたんだろうね」


話を終えると、俯きながら聞いていたイージスがぽつりと言葉をこぼした。

『周囲からの疎外感』

「……?」

尚も、イージスは言葉を少しずつ吐き出す。

『成りたかった自分』

『己との葛藤』

『愛した世界だからこそ』

『何よりも自分を嫌った』

『社会と自分を』

『切り離したかった』

『大変だったな、ノゾム』

唐突な言葉に、僕は一瞬どう反応すべきか分からなかった。

『話が変わった』

イージスはすっと立ち上がると、僕を真っ直ぐに見つめた。

『ノゾムは違う世界の住民だ。今の話ではっきり分かった』

『ならば帰らなければならない。でも、その前に』

『世界を、この世界の結末を知って欲しい』

イージスは何を言っているのだろう。

分からなかった。分からなかったが、何かを伝えようとしているのは明確だった。

『ついてきてくれ、ノゾム』

『これから、少し旅に出る』

『そこで最後に頼み事をするかもしれない』

『いいか?』

何故旅に出るのかは分からなかったが、助けてもらったお礼がある。それに、この居心地の良い世界にもう少し居たかった。ならば答えは一つ。

「分かった。よろしく、イージス」

『感謝する』


こうして、少しだけ長い旅は幕を開けた。

その先には何が待つのか。

僕には知る由もなかった。

愛するあまりに己を刻む。


どうも、私です。

急に長くなってしまいました。結局かよぉ!

青年の名前は望でした。夢無き子にノゾムは何か可哀想かも?

それはさておき、やっとこ旅に出ます。どう持っていくか悩んだ結果、無理矢理に。

やっぱ文章構成下手くそなんだなぁとしみじみ。


最後に、この作品をお読み頂いた全ての皆様に感謝申し上げます。

ではでは。

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