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新たなる宇宙シリーズ

惑星紛争

作者: 尚文産商堂

旧惑星暦、つまりファイガン暦で使われる事になる、1万年以上も昔の話。

惑星統一政府が使いはじめた惑星暦は、3957年にファイガン暦になる。

そして、その惑星暦のさらに前、実質旧惑星暦82735年。

すでに、歴史からは忘れられたが、いたるところで未だにその残骸を目にする事が出来る。

宇宙で最初の文明国と呼ぶにふさわしい国が出来た事を祝して、作られた暦だった。


そして、その年、390の国々が集まる国際会議がおこなわれた。

これらの国は全てファイガン星にある国である。

この国際会議では、このファイガン星について話し合われた。

即ち、惑星全土の緊急提言、極力の戦争回避、さらには停戦交渉も、この会議で担当されるのであった。

複数の部会がこの会議の下にあり、それらはそれぞれの国の内政に干渉する権限が付与されていた。

そして、この会議は本来の目的よりそれて、巨大な罪の擦り付け合いの場となっていた。

そのうちのひとつ、平和部会でひとつの国が、この会議から脱退する事になった。

理由は、国際社会に対する失望。

この会議が最初に開かれたのは、旧惑星暦31325年。51410年前の事であった。

最初は、複数の植民地を支配する、宗主国と植民地にされた地域との差別を無くすのが、元々の目的であった。

しかし、植民地も50000年前の戦争により独立を勝ち取り、その後、この会議に参加するようになった。

そして、この会議の名前を世界平和会議と表し、唯一の超法規的機関であり、唯一の国際会議でもあった。

今、脱退した国はこのファイガン星の中でも、最も豊かな国のひとつといわれる、経済的先進国グループ、通称EACGの代表格でもあった。


「我々の国、メルコプール共和国は、本日、82735年4月1日を持って、世界平和会議より脱退させていただく。すでに、目的を逸脱している行為が目立っておる。国際社会は、再び最初の目的を取り戻す必要がある。よって、本日付で当会議の全ての部会及び世界平和会議共同議長職から、さらにすべてのメルコプール国籍を有するものは、全て辞職させていただく。現時点を持って、全ての条約の一方的な破棄を宣言し、ここから立ち去らせていただく」

そして、メルコプール共和国代表はそのまま会議場を後にした。


翌日から、新聞社はその話題で持ちきりだった。メルコプールは軍事力、経済力、人口、製造力、何を取っても世界でもトップクラスの能力を誇っていた。それが、世界平和会議と言う唯一の全惑星機関から脱退した。誰もが皆、戦争の足音を聞いたような気がした。


脱退してからの翌年までの間、メルコプール側の国々が次々と脱退を表明。

新たなる国際機関を創り、世界平和会議と対立を鮮明にした。

その国際機関の名前は、メルコプール国際協力条約機構、通称MICAMと言われた。

さらに世界平和会議も名称を変更し、ファイガン星政府間協力特別機構、通称FICSMという組織になった。

両方とも軍備増強に走り、世界平和という秩序は砕け散っていった。


そんな中、FICSM側とMICAM側の男と女が、偶然にも国境で家を作った。

ちょうど、脱退する数年前。まだ、世界平和会議が正常に機能している時だった。


現FICSM側にいたのは、カーパン・ヤオアン、FICSMで、国境警備員をしていた男で、今は現役から退いている。

一方、MICAM側にいたのはサヴィア・フランソア、MICAMで研究員をしていたが病気にかかり、数年前からここで闘病の生活をしている。

彼らは、このような事になるとは思ってもいなかった。この前の戦争は50000年も昔の事。

今となっては果てしない過去の話でしかなく、人々は戦争と言う言葉を、歴史の教科書でしか読んでいなかった。そのような程度の知識だった。


最初は、挨拶程度の隣人だった。しかし、そのうちに、それぞれの家に上がるような仲になり、そして、付き合いはじめた。

だが、そのような中で、FICSMとMICAMの中が悪化の一途をたどっていた。

彼らは、時々会い、戦争の危機を忘れさせるような話をした。一晩中話もした、それぞれの両親にもあった。そして、結婚の約束もした。


時は流れ、82737年4月1日。3年間の軍備増強をし終わったFICSM側が、MICAMに対し宣戦布告。世界大戦が始まった。


その余波は、彼らの生活にも暗い影を落とし始めた。


楽しげにはねる暖炉の火を見て、標高4000mと言う高度帯に住んでいる二人は言った。

「ねえ、戦争が始まっちゃったわね」

「そうだな…でも、俺らには関係ないだろ?なあ、サヴィア、そうだろ?」

しかしサヴィアは、暗い顔をしたまま、下をずっと見つめている。不意に、顔をあげて言い切った。

「ねえ、あなた。逃げて。どこへでもいいから、生き延びて。早くしないと、ここにもMICAM軍が来てしまう」

「どういう事だ?ここは、標高4012mだ。早々来ないだろう」

「でも、早く逃げないと。あなたの命が…」

「……………」

カーパンは、こんなにも一生懸命に生き延びて欲しいと繰り返すサヴィアを見たのは初めてだった。彼は、ゆっくりと座っていた椅子から立ち上がり、暖炉を背にして言った。

「もう会えないかもしれない、それでも」

彼の後ろからは、すすり泣く声が聞こえてくる。それを我慢し、サヴィアが続ける。

「それでも、私はあなたに生きて欲しいの。死んでは、もう会えない。でも、生きてれば必ず、どこかで会える。私はそう信じているの」

そしてサヴィアは、カーパンにある物を渡した。

「それは?」

「これはね、私のお守り」

それを二つに割り、片方を彼に、もう片方は自分がそれぞれ持つ事にした。

「それを持っている限り、私達は絶対に再び会えるの。それが、どんな状態、どんな状況、どんな過酷な場所であったとしても。これで私達が分からなくなった時に、生きて行けるようになるでしょ」

サヴィアは、微笑んだ。微笑みながらも、泣くのを我慢しているようだった。カーパンは、そんなサヴィアを強く抱きしめ、言った。

「ああ、そうだな。これで、生きて行ける」

そして、カーパンはゆっくりと抱いていた手を緩め、顔同士を合わせて言った。

「必ず生きて、出会おう」

サヴィアは、涙を一筋、頬にたらしながら言った。

「はい、必ず」

もう一度抱き合ってから、カーパンは家から出て行った。


FICSM陸軍、第2戦車大隊31分隊。すでに標高3100m付近にて、作戦展開中。

「この先には、一般住民が住んでいます。さらに、雪山で地盤が非常に悪いです。この時期、雪が解けてきて、雪崩も多くなる時期です。戦車が通るのは、非常に危ないかと…」

「しかし、国境沿いには全て展開するのが、長官からの指令だからな、このまま行く」

その時、誰かが滑空するのが見えた。

「隊長!誰か降りてきます!」

それは、査察兵の報告だった。

「第2種戦闘態勢!」

「いえ、味方のようです!」

スキーで降りてきていたので、隊列の前で止まった。

「申し訳ありません」

「貴様は誰だ。所属国名、氏名、年齢、兵役時の所属、国民番号を述べよ」

「カーサス・ハペン連邦共和国、カーパン・ヤオアン、21歳、国境警備員、689285930」

「確認……………確認良し、本人です」

「よろしい」

隊長は一歩前に出て、カーサスに対して言った。

「ところで、なぜ上から降りてきた?」

「俺の家は、上にあるもんで。ちょっとした町があるんです。その町の離れに住んでいます」

「敵の軍隊は、どこにいるか分かるか?」

「残念ながら…しかしながらも、恐らく敵側も同じような事を考えていると思われます。上から降りてくる時に、重低音が聞こえましたから」

「そうか、敵も戦車で来たようだな。お前はそのまま下に降りろ。それと、これを大本営にいる、ファットン大将に渡しておいてくれ」

隊長は手紙を懐から取り出し、カーサスに渡した。

「承知しました。では、御武運を」

「ああ」

カーサスがその場から離れると、再び進撃を始めた音が響いていた。


翌日、翌々日と、カーサスはひたすら雪山を滑り降りていた。そして、ようやく山のふもとの村に到着した。ここには、空軍の基地も併設されており、住人の90%は軍関係者だった。


「すいません、大本営のファットン大将に手紙を言付かっている者なんですが。どこにいるでしょうか」

第5空軍基地受付の人に、聞いた。

「では、あなたの国民番号をおっしゃってください」

「689285930」

「処理します…………処理終了。では、氏名をおっしゃってください」

「カーパン・ヤオアン」

「処理します…………処理終了。では、誰からの手紙かをおっしゃってください」

「陸軍、第2戦車大隊31分隊隊長」

「処理します…………処理終了。では、隊長の名前をおっしゃってください」

「コーサス・シャンピン少尉」

「処理します…………処理終了。分かりました。では、大本営までお送りします」

「どうしてだ?場所さえ教えてくれたら俺が歩いて行きますが?」

「あなたの祖父が、どなたかお知りですか?」

「いや?だれなんだ?」

「あなたの祖父は、FICSM海軍省大臣です。そのお孫さんの足を煩わせる事など出来ません」

そして、カーサスはそのまま飛行機で、大本営へ向かった。


一方で、分かれたサヴィアは、家にこもっていた。

「寒い…カーパンは、元気にしているかな…」

その時、扉を叩く音がした。無視していると、もう一回。さらにもう一回。のぞき穴から見ると、MICAM軍の、服を着ていた。ドアを開けると、中に入って来た。

「失礼する。我々は、MICAM陸軍の第47旅団40分隊の者だ。ここは、国境に最も近い家でな」

「何が言いたいのかは既に分かっています。どうぞ、ご自由にお使いください」

「それは結構。では、好きなようにつかわさせてもらうよ」

そして、この家に臨時の駐屯地が出来た。

2階から、偵察兵が外を双眼鏡で見ていた。突然、敵襲と言う声が家の中を駆け回った。

「なに!敵か!どこの部隊だ!」

「戦車分隊です。主力戦車2台。自走砲1台。火薬車1台です」

「よろしい。では、火矢の準備を。攻撃を仕掛ける」


翌朝、サヴィアは戦闘前に無事に脱出していたが、この家とその中にいたものは全員死亡。戦車分隊側も、この戦闘により発生した雪崩に巻き込まれ、全員行方不明。これが、今回の戦争での最初の戦闘となった。


大本営の、ファットン大将に手紙を届けるカーパンは、未だに飛行機の中にいた。大本営付近での警備が厳しくなっており、その影響で郊外の飛行場でまたされているのであった。カーパンは、飛行機の中で戦闘があった事を伝えられた新聞を読んでいた。

「………サヴィア…」

知らず知らずの内に呟いていた。しかし、誰も乗っていなかったので、誰にも聞こえる心配はなかった。カーパスは、サヴィアからもらったお守りをつかんでいた。ネックレスのようにして、ひもを通し、首からかけていた。新聞はこの戦闘で、敵兵12人を殺した事を伝えていた。しかし、こちら側の被害の事は、伝えられていなかった。


「そうか、あの山で初戦闘か」

「はい、しかし我々の損害も相当数にのぼりました。現在、その戦闘によるFICSM陸軍第2戦車大隊31分隊、計31名が行方不明。これによる雪崩によって、ふもとの村も一部損壊を受けました」

FICSM大統領及び軍関係者による特別会合が設けられたのは、宣戦布告をする前日だった。以前に作られた法律「戦時規定法」によって、戦時内閣が組閣された上、国会、司法の権限は全てこの戦時内閣に移譲させられた。

「さてと、今日の報告はそれぐらいか?」

「はい、とりあえず、現在入っている状況は以上です」

その時、扉を叩く音がした。

「入れ」

「失礼します」

カーパンが入ってきた。

「申し訳ございません、閣議中に」

「構わん、たった今終わった所だ。用は何だ?」

「はい、既にお耳には入っていると思いますが、アルポス山にての戦闘についてです」

「何か知っているのか?」

「いえ、FICSM陸軍所属第2戦車大隊31分隊隊長から、手紙を言付かっておりまして」

「渡せ」

「これでございます」

カーパンは懐から手紙を取り出し、大統領に渡した。大統領は封を切り、中身を読みはじめた。そして数分間経った後、

「これは、確かに、隊長から渡されたものだな」

と、念押しをされた。

「はい、そうです」

「そうか……お前、復職する気はあるか?」

「無論です」

「ちょうど今、お前にぴったりな部署が空いていてな、それにこの手紙だ」

「その手紙にはなんと書かれていたのでしょうか」

大統領は少し笑い、読み上げた。

「FICSM陸軍、第2戦車大隊31分隊隊長より、御奏上申し上げます。惑星暦82737年4月に入りまして、アルポス山へと侵攻します。もし、仮にも私の部隊が全滅した場合、今後の事を、これを届けた青年に託します」

少しの沈黙が流れた。

「この隊長は、未来を見通す力を持っていた。元々は俺の護衛官だったんだが、不吉な事をいうんでな。それで、前線に送り込んだんだ。さて、そんな事よりも空いている部署と言うのが、俺の護衛官だ。それと、軍関係省の海軍部局か。さて、どちらがいい?」

「自分が選んでも構わないのでしょうか?」

「ああ、もちろんだとも」

大統領はにこやかに笑った。そして、カーパンは選んだ。

「では、貴方の護衛官にならせていただきます」


サヴィアは雪山を下り、MICAM側の町に出た。この町は、この地域の総括をしていた。降りてきた時、上に向かう戦車群を見た。人々は口々に噂をもたらしていた。

「やっぱりね。FICSM国側が、MICAMに対して戦闘して共倒れになったって」

「でもね、そもそもの戦争はこちら側が吹っかけたから、MICAMは勝たないといけないのよ」

サヴィアがあちこちを見ていると、軍のスローガンが翻っていた。

「撃ちして止まぬ」

「行け!我が国軍よ!我が国の勇者達よ」

「進め!敵などは下等生物だ!」

サヴィアは何も見ないようにして、この町を通り過ぎた。


しかし、町を出たらすぐに捕まった。

「サヴィア・フランソアだな」

「はい、そうです」

「来てもらおう。我々はMICAM軍部最高指導者直属の、兵器・戦闘関連研究所の特殊兵士だ」

サヴィアは、従うしかなかった。


それから、半月がたった。すぐに終わると両方とも豪語していたが、一向に戦況は変わらなかった。両方の指導者は焦りを感じ始めていた。


「なぜ、我々が勝てない!MICAMなど、赤子の手をひねるよりも簡単に倒せるだろうが!」

FICSM大統領は、閣議で喚いていた。

「怒らないで下さい。なにせ、こちらはこれからが勝負です。MICAMなど、すぐに叩き潰せるでしょう」

発言をしたのは兵器関連大臣だった。戦時内閣下、通常の大臣は休職扱いになり、その代わりに戦争で必要な方面に力が注がれていた。

徐々に総力戦の様相を示し始めていた。

「それはなんだ?」

大統領は聞いた。

「ファイガン史上最強の兵器、超高密度非核型特殊爆発物搭載型爆弾、通称TBESDNESE「ツベスデネセ」です。これは、現在発電で使用されている核エネルギーをウラニウムなどを利用せずに発生させて、そのエネルギーを利用して特殊爆発物を爆破します。直接爆発被害半径は約30mで、間接的に被害を与える場合の間接爆発被害半径は約1500mです」

「素晴らしい。なぜ、今まで言わなかったのだ?」

「これは量産が非常に難しく、さらに輸送の際は丁寧に扱う必要がある品物です。実践で使うためにはさまざまな制約がありました。それをクリアするまでは発表をしないべきと思ったのです」

「ならば、その制約については、めどがついたのだな」

「その通りです。但し、工場を始動させるのは、もう少しお時間が必要となります」

「極力急げ。今回の戦争、早めに決着を付けたい」


一方で、MICAM側、軍部独裁となったこの条約機構で、サヴィアは最高方針決定会合で発表をしていた。


「我が研究所は核を利用した爆弾、いわゆる核爆弾の製造に成功し、秘密裏に実験を成功させました」

それを言ったとたん、全員から拍手が起こった。

「ならば、それは実践で使えるのだな?」

「実際に爆発をさせるまで結果は分かりませんが、我が国に多数存在するプルトニウムより抽出し、濃縮をした特殊な物質によりこれが実現しました。いつでも、飛行機に乗せて発射できます。ただし、あまりにも重いので、特別な飛行機が必要になります」

「それを作るための費用は?」

「それは、私達が考える事ではないので」

そして会合を去った。残された指導者達は、相談を重ねこれを用いる事を決定。

戦争開始から、1ヵ月が経った5月1日。とうとう両軍は戦術兵器も投入を始めた。この時点で、両軍の死傷者は約4500万人。無理な行軍、不衛生な戦闘現場、不完全な治療体制、さらに不衛生な現場から伝染病が流行り、歩兵大隊がそれで全滅するほどだった。


サヴィアは、そんな時、核兵器を積む飛行機を見ていた。ダークグリーンの機体に、極力空気抵抗を減らした船体。現時点での最高の技術力を投じて作られた機体であった。

(これにあの人がいる国に対して、何にもしていない人達に対して、なんで私はこんな事をしているんだろう…)

彼女は、1ヶ月前に半分に分けたあのお守りを握っていた。思いつめている顔を見て、偶然そこを通りがかったMICAM兵器大臣は、近寄ってきた。

「どうした?サヴィア主席研究員」

「あ、大臣…いいえ、なんでもありません。ただ…」

「ただ、どうした?」

「実は、私の好きな人が…いいえ、なんでもありません」

そのまま、どこかへ走って消えた。大臣は考えた。

「好きな人が、彼女の好きな人が…FICSM側に、サヴィア主席研究員の好きな人がいるのか…だが、この件を報告する事はやめておこう…」

何かたくらんでいる顔をして、大臣も飛行機から離れた。


同じ頃、戦時内閣閣議において、翌日、ツベスデネセの発射が決定された。その事は、首席補佐官になっていたカーパンが伝令していった。しながらも、彼もまた、彼女のことが気がかりだった。

(開戦してから1ヶ月。サヴィアについて、一切の情報がない…彼女は元気なんだろうか…)

彼は伝令が終わると、いつも首から提げているあのお守りを握った。すこし、痛かった。


翌日、両軍共に最終兵器の投入を正式に決定。同日、FICSM首都標準時が正午になると同時に、ツベスデネセ発射。2分後に予定通り大気圏外へ脱出。17分後に予定通りに大気圏内に再突入。目標位置から390m離れたところに着弾。周りは何もない荒地だったが、光だけは地平線のかなたまで届いた。着弾地点から50mはすり鉢状になり、さらに数キロ離れたところまでえぐられた砂が飛んでいっていた。周囲数十キロは衝撃波が襲い、生命系は完全に消失した。MICAM側は報復として、同じような場所に対し、核兵器を投下。プルトニウム型核兵器として、初めて投下された地点の、約10km以内は、高高濃度の放射能により永久的に汚染された。着弾地点は目標から840m離れた場所だった。しかし、両国政府は和睦などする事もなく、ただ、このような兵器を互いの首都に対して狙っていた。


数ヶ月間、最終兵器同士の射ち合いのみの戦いとなった。さまざまな都市に対して投下されていっていた。しかし、それが破られる事となった。それは、平野の国境帯から始まった。


旧惑星暦82737年11月16日、MICAM側に設置された検問所をトラックが強行突破。直後、爆発。FICSMが製造した無人爆破装置だった。そして、破壊された検問所を悠々と通過したのは、大統領直属特殊戦闘部隊だった。一気にこの戦争を終わらせるつもりだった。


MICAM側は、その話を聞いて驚いていた。情報官は、報告を続けていた。

「………です。さらに悪い情報に、爆破された国境帯より巨大な戦力が我が領土を蹂躙しております。戦車10000〜12000、上空哨戒機4000〜5000、兵士輸送用トラック5000〜7000、武器・弾薬輸送用トラック4000〜9000、長距離自走型砲台30〜50、地対空ミサイル輸送砲台100〜200、地対地ミサイル輸送砲台30〜50、さらに、海側からも、海上護衛艦400〜500、原子力空母5〜10、潜水艦推定不能。以上です」

その直後に爆発音がし音声は途切れた。MICAM最高方針決定会合によって、さまざまな戦略がとられ、出来るだけ相手の戦力を削ろうとした。核兵器の自国領土内使用、ゲリラ戦法、対人及び対戦車地雷の敷設。しかし、全ては一瞬に読み取られ、半月で首都及び周囲地域以外が全て占領された。


最高方針決定会合は、敗戦色濃厚となった今でも戦争を続けるようだった。

「いざとなれば、この首都もろとも自爆して消滅してやる」

会合議長は言った。


サヴィアの研究所は首都の中心付近にあり、なおかつ研究所内部に周囲10kmを灰燼に帰すような強力な爆弾が眠っていた。そのスイッチを持っているのは、会合議長であり、彼の一言で一瞬で首都は消えるのであった。但し、それについては研究所主席研究員の認可が必要となっていた。さすがに、世界平和会議時代、世界第2の都市の消滅は出来るだけ避けたかった。その主席研究員というのはサヴィアだった。


会合議長によって召集されたサヴィアは、主席研究員の自爆許可を取るためだとすぐに悟った。しかし、冒頭からそれを言うのはさすがに危ない橋を渡るようなものだったので、いわなかった。

「何の用でしょうか」

「君に、頼みたい事がある」

「なんでしょうか」

「首都自爆許可を出して欲しい。MICAMを守るために」

「では、一つお聞きします。あなた方はそれが最良の選択と思っているのでしょうか」

「そうだ。だからこそ、君に許可を求めている」

「私の答えを言いましょうか?」

「ああ、よろしく頼む」

「私は、そのような事はばかげていると思います。確かに、今まで爆破権限の最終的許可は会合議長で、それをセーブする機能としての研究所主席研究員の許可と言う存在でした。しかし、今では違います。あなたは、爆破する気があり、なおかつこの世界第2の首都を崩壊させようとしています。現在、この首都50km圏内には、避難民も含め5900万人がいます。これは、爆破によって少しでも被害を受けると想定されている範囲です。最低を知りたいのであれば、首都10km圏内に1480万人います。この数値は確実爆破圏であり、この範囲内ならば、間違いなく消滅します。あなたと言うたかが一人のために、それほどの人が犠牲にされるのはおかしいでしょう」

「そうか、それがお前の答えか」

「はい」

堂々と答えた。

「そうか、それなら仕方ないな。現時点を以て、お前は主席研究員の職から解く。ただ単なる研究員だ。代わりに主席研究員になるのは、この私だ」

そして、サヴィアは政治犯となり、逮捕された。その後、裁判なしで収容所送りとなった。


1週間後、FICSM軍がMICAM首都に侵入、同時刻、MICAM首都自爆。被害は周囲47kmまで及んだ。しかし、その爆破の光と音は数千キロ離れていても聞こえたという。


さらに翌日、MICAM最高方針決定会合代理議長によって休戦に合意。1週間後、停戦に合意。これをもってメルコプール国際協力条約機構は解散した。ファイガン星政府間協力特別機構も目的を失った事により消滅し、再び国家群による統治が行われた。世界平和会議は復活したが、メルコプール共和国は会議に参加できなかった。なぜならば、国自体が消滅したからであった。


停戦をしたことによって、昔のような物資のやり取りも始まった。カーパンもそれに混じって、旧MICAM首都に入った。


「何だ…これは…」

それは直径10km程度にわたって広がっているクレーターであり、また周囲約50kmにわたって広がっている極度戦災被害地域であり、さらに各地の設置された収容所の中で最も首都に近かったメルコプール国立収容所であった。その収容所の中に、サヴィアはいた。衝撃波をもろに受けたが地下だったので、彼女は助かった。収容所の瓦礫に前に一人立っていた。そして、カーパンは彼女を見つけた。


「サヴィア!」

振り向いたのは、彼女だった。

「カーパン?」

「ああ、そうだ、俺だ。カーパンだよ」

「カーパン!会いたかった…」

しかし、彼女は足下がふらついていた。だが、どうにか彼の胸元に飛び込んだ。

「ああ、俺もだよ。もう戦争は終わったんだ。MICAMもFICSMも解散した。また、世界平和会議が発足して戦後処理に当たってる」

サヴィアはそれを聞きながら、首にかけていたお守りを彼のとあわした。ぴったり一致した。その途端、緑色の光を出し一つにつながった。それは、一瞬の後、完全な円となり、再び分離した。今度は、完全な円が二つ。サヴィアとカーパンはそれを見ていた。周りには誰もいなかった。


そのお守りをみながら、カーパンはいった。

「これで、ずっと一緒にいられるな。家、どうしようか…」

「あなたといれば、どこでも天国よ」

「そうだな…」

そして、二人はどこかへ歩いていった。


数年後、世界平和会議はメルコプール国際協力条約機構(MICAM)とファイガン星政府協力特別機構(FICSM)との、戦争の被害の報告を出した。それによれば、

「MICAM側、確認死亡者5900万人、確認負傷者8300万人。

  戦災被害者1億5800万人、確認倒壊家屋2億5900万棟、確認半壊家屋6億300万棟。

  戦災孤児者1億3200万人。

 FICSM側、確認死亡者3800万人、確認負傷者1億5800万人。

  戦災被害者4億1500万人、確認倒壊家屋3億1900万棟、確認半壊家屋8億5900万棟。

  戦災孤児者7900万人。

 報告書注記:死亡者・負傷者内には軍関係者及び一般人含む。

  確認倒壊家屋・確認半壊家屋内には焼失家屋を含む。

   戦災被害者には負傷者・家屋倒壊者・家屋半壊者を含む。」

とのことだった。


さらに、世界平和会議議長は、全兵器についての破棄を明言。しかし、それを実行する前に、おそらく軍部によって暗殺された。カーパンとサヴィアがどうなったかは、誰も、知らなかった。

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