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 学園祭はなんとか無事終わりを迎え、僕らは急ぎ王宮へ向かった。


 王宮へ向かう馬車の中で、トビーからあの男子生徒の尋問内容を聞いた。


 あの男子生徒は、過去に家の借金で首が回らなくなっていたところ、ヴォリシウス侯爵に助けられた。今回学園祭で見かけたため挨拶をしたところ、あのカトラリーを渡されたと。何の説明もされなかったが、断ることもできず、有無を言わせない雰囲気に気圧されて受けてしまったとのことだった。


 情状酌量の余地はあるが、采配は陛下がなされるだろう。温情ある結果であることを願うしかない。


 その尋問によって、王宮では急遽査問会が開かれることになり、ヴォリシウス侯爵家には騎士団による徹底的な家宅捜索が行われることとなった。


 ヴォリシウス侯爵自身は読めない笑みを浮かべていたらしいのだが、既に潜ませている僕の諜報員がいい仕事を見せてくれるだろう。

 次々と上がってくる証拠に、あの顔が崩れる様をじっくり眺めるとしよう。


 そして僕はトビーにいくつか指示を出して別れ、第一王子ハリソン殿下の執務室に着いた。


 中に入ると、ハリソン殿下とキャロリアーナ嬢、ニコラウスが既に居て、満面の笑顔のジュリとエリスが応接セットに座るハリソン殿下達の近くに立っていた。



 ……今度は何をしたんだ。



 僕の頭は、あの2人を見逃してもらえる謝罪方法を検索する事で、いっぱいいっぱいだ。


 ひとまず様子見を決め込み、応接セットに進むと、ハリソン殿下が前のソファに座るように促される。

 ニコラウスも促され、僕と横並びで座る。



「で、どう致しましたか?」

「何がだエリオット?」

「この2人を呼んだのはハリソン殿下では?」

「ああ、そうだな。エミリー=クラスターの尋問内容を聞くためだ」


「そうですか。では一つ、私から内容を聞くにあたり、お願いがございます」

「エリオット様、あの慮外者を擁護するおつもり?」



 憤慨するキャロリアーナ嬢から睨み付けられるが全くの見当違いだ。



「いいえ、そちらではありません。この2人に関してです」



 全くの予想外な方向に、キャロリアーナ嬢はキョトンとして、ハリソン殿下の横に立つ2人を見る。



「この2人がどうかしまして?凄く笑顔ですけれども」

「悪癖がございまして、面白いと感じたものは壊れるまで弄り倒す癖がございまして。

 飽きれば次に行くのでいいのですが、おふざけが過ぎると、ちょっと発言に無礼さを感じるところが多少あるかと。内容を聞く間、そこら辺をご容赦くだされば、私は構いません」


「「ふうん?」」



 ハリソン殿下とキャロリアーナ嬢がジュリとエリスを観察し、ニコラウスは直視しないように視線を逸らせている。



「まぁ良いだろう。聞かせてくれ」



 ***



 舞台における台本は、その主になるヒーローによって用意されており、選択肢や自分磨き(?)によって効果とその結果が変わる。


 そのヒーローと脚本に従って、うまく仲を進めることを“攻略”といい、うまくいけば結婚や恋人になり、失敗すれば最悪の場合、捕まるのだそうだ。


 用意されているヒーローは、ハリソン殿下、マティアス殿下、僕、チャールズ、ニコラウス、そしてその脚本を進める上である一定以上の条件を満たした場合に追加されるヒーローが、バルド殿下とレイだとか。



「それでですね、この自称“世界の真ん中なヒロイン”こと、エミリーちゃんが言うには、ヒーローなる者に設定があるらしくって……ブハッッッ!主様は、冷徹機械人間だそうですよっ!

 なんでも、世界全てに興味が無かった主様は、婚約者と見合わせられても変わらず興味を持てず、街で出会った自称“ヒロインちゃんの無邪気な笑顔”にズキューンと来て、忘れられずに学園に入って再会。毎日学園で触れ合うたびに溺愛していくのだそうでっっすっっブハハ!」


「ハリソン殿下は、王族のサラブレッドと持て囃されて、完璧を求められ過ぎて疲弊しているところに、自称“私に惚れない男はいないのっ”なヒロインことエミリーちゃんに出会い、素朴さに惹かれて、王様になることを決意するそうですー」


「「それでニコラウス君はぁ〜」」


「騎士団団長である父に認められたくて努力するも、弟の才能に焦りを感じて?ひたすら努力するけどそんな日々に疲れを感じていて?」


「ひたすらに努力するオレを認めてくれて?」

「流す汗や剣技を試すオレを褒めてくれて?」

「近衛騎士と話すオレをかっこいいと言ってくれて?」

「「純粋なお目目で褒められて惚れちゃうってどんだけ〜〜!!」


「ぐぅぅっっ!!!!はっ!!」



 悪ノリな2人にやられて、ニコラウスは前のめりで床に倒れ込んで頭を打ち付けている。

 僕はジュリとエリスに向かってストップをかける。



「おい、ニコラウス殿が塵になる前にやめておけ」

「「はぁ〜い」」


「それでですね……」

「まだあるのか」

「「もちろんでっす♬」」


「それぞれのヒーローには、お邪魔虫として婚約者や親族がいるのですが、それはハリソン殿下でしたらアクストン様、主様とチャールズ様にはフランシーヌ様、ニコラウス君にはブロウズ様と言った風に。

 その容貌が、これまた……!」


「どう言うことですの?私がなんですの?!」


「アクストン様は、行き過ぎたお化粧と高く結い上げ過ぎた髪型姿だそうです。フランシーヌ様はドリルのような巻き毛に吊り上がった目が特徴だそうです。ブロウズ様は、男勝りなところがある、一歩引いた姿勢のご令嬢。

 そして我らがプランティエ殿下は、ゴテゴテな服装のお綺麗な者が大好きな女王様だそうです…!!プッっくくく!!」



 現在のおもちゃであるプランティエ殿下が出てきて、ジュリは笑いがこみ上げてきてしまったようだ。



「何?プティもその脚本に出てくるのか?」

「はい、『バルド殿下は私のお気に入りよ』と言って邪魔をするみたいです」

「そうなのか、その脚本を見てみたいものだな」


「そして終幕前にはいろんな事件が起こるのです。

 ハリソン殿下の脚本では、第二王子派が起こす毒殺事件から身を挺して庇う。主様は毒殺事件に巻き込まれたヒロインちゃんを助けて返り討ちにする。ニコラウスはいじめを受けたヒロインちゃんを守って、ブロウズ様を断罪なんだそうですよー」


「私だけ事件の種類が色事?!」



 ニコラウスが床に腕をついて泣き込みそうだ。可哀想なので、気にするなと言うように肩を叩いておく。



「バルド殿は?」



 ハリソン殿下はプランティエ殿下が出たことで気になった脚本の最後を聞き出そうとしていた。



「ヒロインちゃんに出会って、その強く優しく美しい心根に心打たれて、王様目指すから、一緒にウズヴェリアに行くことになるんだとか」

「……。それって、今のウズヴェリアの王太子殿下を押し除けて政変を起こすと言うことか?安定している今を覆すと…?」


「はい、殿下。そう言うことをやっちまう脚本となるみたいです。

 いやぁ、強く優しく美しい心根というのは、野心を滾らせてしまうのでしょうか?ジュリには、全く予想もつかない脚本ですね〜。これは第三者の介入を疑うしかありません」

「第三者か…この国に来てそのように考えたというなら、我が国の貴族か……?」


「というわけなので、下手に近づいてきた貴族のリストがこちらになります〜」



 ピラリと何処からか出した紙には、数人の貴族名が記載されていた。それを受け取ったハリソン殿下は、サッと中身を見ると、キャロリアーナ嬢に回した。



「ほぼ第二王子派の者共だな。よくぞ記録してくれた」

「殿下、あまり褒めると被害が広まりますのでその辺で。現在ジュリとエリスがかかりきりになっている、ロイヤルラブロマンスとやらに邪魔だった要素なのでしょう。決して立派な志からじゃないのですよ」



 ヤァねぇとブーブー抗議する2人をそのままに、僕はハリソン殿下に考えを口にした。



「攻略はどうあれ、所々その内容が合致する節があるのはわかりました。前世の記憶だかなんだかと、荒唐無稽な事を言っていますが、何処からか情報が漏れていたのかもしれません。

 放逐するにも、政治に関する事をうっかり口にされても困ります。僕は北の修道院に送る事を提案します」

「北のか……入ったら最後出てこれず、無駄話もせず日々只管神に祈りを捧げると聞く。確かにそこであれば、影響される者もないな。手配しよう」



 これでやっとあの頭のおかしな女が視界から消えると思うと、安堵のため息が漏れてしまった。


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