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 トビーが最後にそう話を向けると、同じく椅子に縛られていた男子生徒は、顔を青ざめさせて震えていた。

 僕は近衛騎士を入れるように、レイへと指示を出した。



「君、遅れてきた後、さり気なく殿下の側にいて窺っていたよね?」

「そ…それはたまたまで……」



 僕は入ってきた近衛騎士にお願いして、男子生徒の所持品検査を行った。

 縛られたままだが、足首からくまなく探すと、制服の上着のポケットから白い布に包まれたものが見つかった。



「じゃぁこれは?」

「あっ…!あのっ何でもない、何でもないんだっ!」



 そのまま布を広げるようにお願いすると、中からスプーンとフォークが現れた。

 険しい顔をした近衛騎士に、男子生徒は言い訳をする。



「いや、違う。さっき慌ててて、入れただけなんだっ」

「苦しい言い訳だね。この検知薬で確認してもらえますか?」



 レイは、持っていた検知薬を小分けしていた瓶を近衛騎士に手渡して、検査をお願いした。


 近衛騎士は、検知薬を慎重な手つきでカトラリーへ少量垂らす。垂らされ検知薬は、カトラリーや包まれた布に触れた瞬間、黒く変色した。


 その反応を見た近衛騎士は、証拠品として保管すると男子生徒に告げた。



「王族、王太子殿下殺害未遂ですね。一族郎党拷問の末に打つか縛るかの違いでしょう」

「では、彼の尋問をお願いします。私は殿下にお知らせします。レイは他の近衛騎士に知らせて当たらせて。その後学園長に知らせておいて。トビーは他の近衛騎士が来るまでジュリと待機。その女からも引き出せる物があれば全部吐かせろ。手法は好きにしていい」


「「「「はっ」」」」



 僕はレイを連れて倉庫を出ると、すぐに別々に分かれた。


 僕は食堂棟へ戻ると、様子を見ながらハリソン殿下を探し、周りに視線を巡らせながら進んだ。



「どこだ?……」



 1階席に見当たらず、まさかと思いつつ2階席に進む。2階に上がると、一番奥の席に着いているハリソン殿下と、その後方に立ち控えているニコラウスが見えた。


 そして共に座っているのは、虫の親玉であるヴォリシウス侯爵家当主だった。


 僕はその恐ろしく、無謀な賭けに出ているハリソン殿下を見つめて考えを巡らせた。考えたのは一瞬だった。そのまま足を進めて、僕はハリソン殿下の元まで歩を進めた。



 ハリソン殿下の座る席には、ヴォリシウス侯爵、2年に在籍する娘グロリア、後ろには数人の使用人が控えて居た。僕に気がついたハリソン殿下に、そのまま近づき、耳打ちする。



「反応が出ました。尋問中です」



 僕はニコラウスと同じようにハリソン殿下のすぐ斜め後ろに控えた。それを気にしたヴォリシウス侯爵は、少し眉間にシワを寄せて不快そうにする。

 ハリソン殿下はそれを見逃さず、すぐにフォローを入れた。



「申し訳ない、今日の予定を確認してもらったんだ。急ぎはないので安心してくれ。それで、何だったかな?侯爵」

「そうですか。いえ、殿下の運の良さに毎回感服しておりまして。スムーズに王太子にもなられて、周りにたくさん助けられているとは、運の良いお話だと…」


「そうだな。皆に助けられているのは確かだ。

 何せ幾つか公務もこなしている身なのでな。手を借りられる事は、ありがたいと感じている。侯爵もそうだろう?」

「…そうですな。ところで、我が娘はご存知であったかな?2年に在籍しているグロリアです」



 侯爵がそう言うと、座ったまま頭を下げてから微笑みを向ける娘ーグロリア嬢は、意味ありげな視線をハリソン殿下に投げかける。



「なかなか器量よしでしょう?控えめで従順な娘ですよ」

「そうか、卒業されたら御婚約者と結婚されるので?」

「いえ、まだ相手はつけておりません。もしかしたら妃になるやもしれませんので」

「おや、どこかの国へ打診しているのか。それは失礼した。しかし、近隣では年齢の合う方は……もしかしたら南端のハレムと言われるところへ?」


「他国には出す予定はありませんよ、殿下」



 少し機嫌を損ねたのか、侯爵の下がり気味な口角がますます急降下だ。



「そうなのか?まぁいつかは何処へかは行くであろうが…。バッジの1つくらいは取得せねば、何処かへの妃としては…」



 そう言ってハリソン殿下が、彼女の着ている制服に目をやると、グロリア嬢は羞恥で顔を染める。



「これからですよ、殿下。きっと今年はいただける筈ですから」



 侯爵も娘に目を向けるが、その視線は冷ややかだ。身を縮こませたグロリア嬢は、視線を下げて嵐が過ぎ去るのを待つかのように、息を潜めた。



「もしかしての時のスペアは、重要ですからな」



 フンと鼻を鳴らしたヴォリシウス侯爵は、口角を上げた。



「しかし、スペアの方が良いこともありましょう?何にしても」

「さぁ?スペア?私には不要のもの。比べたり、在庫として腐らせるくらいなら、それぞれ違う場面で有効に使うのが賢いやり方だろう?」



 終わりの見えない当て擦りの応酬は、突然終わりを迎えた。近衛騎士数名が2階席へ上がり、ヴォリシウス侯爵の周りを囲んだからだ。



「ヴォリシウス侯爵様、とある件について至急お伺いしたいことがございます。王宮までご同行願えますか?」

「なんだ、騒々しい。急にそのような事、無礼ではないか?」

「ご協力頂けない場合は、手荒く拘束せねばなりませんが、この場でそうさせていただいた方が良いでしょうか?」


「………。よい、案内せい」



 ヴォリシウス侯爵は忌々しげに口元を歪めると、席を立ち憮然とした顔で近衛騎士に囲まれて連れて行かれる。

 事態が飲み込めずに周りを不安げに窺っていたグロリア嬢や控えていた使用人も、近衛騎士に促されて連れて行かれた。


 張り詰めていた空気が、ヴォリシウス侯爵がいなくなった事で緩まり、僕らは深く息を吐き出したのだった。

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