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 廊下を足早に進むと、その先にプランティエ殿下の後ろ姿が見える。どうやら止まっているところを見ると、バルド殿下を見つけたのかもしれない。


 頭が動かずに、固まったように止まっていたからだ。


 僕は距離を置いた位置で一旦止まり、プランティエ殿下の視線の先を辿る。

 その先ではバルド殿下が、女生徒を抱きとめ、被っていたパナマハットがずれて落ちるところだった。


 その女生徒は一向に離れず、バルド殿下の胸元に手を添えて目を見つめている。一見すると、抱き合ってるように見えるそれを、プランティエ殿下は呆然と見つめていた。


 そして後方から小さく声が聞こえた。



「エ…エミリー…」



 その声に振り返ると、ニコラウスも驚いたような面持ちで、その光景を見つめていた。僕はニコラウスだけに聴こえるよう、小さく尋ねた。



「ショックですか?」



 ニコラウスはハッとしたのか、肩を跳ねさせる。



「いえ、私は想いを寄せていましたが、想いを交わし合ったわけではありませんし。彼女のあの姿こそが答えなのでしょう。私が勘違いしていただけだと…理解しました」

「そうですか。先を急ぎましょう。殿下をお守りするため、最善を尽くしますよ」

「…はい!ボヤボヤしている時間は無いのでしたね、オースティン殿!」



 苦さを含んだ笑顔で答えたニコラウスは、そのまま進んでいく。僕はウィズリーと視線を交わして、その後に続いた。


 進む先にいたプランティエ殿下を追い抜き、バルド殿下のご一行まで近づくと、横を通り過ぎる前に、まだ抱き合っている……と言うか離れないエミリー嬢を抱えたバルド殿下の肩に軽く手を置き、小さく忠告を落とした。



「お探しの彼女に見られていますよ」



 それだけ言うと、僕はそのまま通り過ぎて食堂棟に繋がる渡り廊下へと出た。


 僕の言葉を受け、すぐに周りを見渡したバルド殿下が、遠くから凝視していたプランティエ殿下を見つけたのだが、その後どうなったかは、きっと長文の報告書で知れるだろう。


***


 食堂棟に入った僕たちは、それぞれ分かれて行動した。


 ニコラウスは異常や不審者が居なかったかの聞き取り、ウィズリーは配膳などの確認。検知薬準備と、影からの情報収集だ。


 ここの警備の中に、レイは毒味係の一員として、トビーは給仕担当の生徒として、紛れ込ませている。

 話を聞くフリをして近づき、異常がないか聞くと、給仕担当の生徒が1人来ていないと。


 展示でも見ているのか、遅れているだけか…と言ったところだそうだ。念のため、警戒対象に入れる事を指示しておく。


 厨房を覗くと、アカデミーの教授も見守っていたのか、入り口で守る護衛の横から中を覗いていた。

 僕が後ろから声をかけると、教授は振り返り、朗らかな笑顔で返事をした。



「あぁ、オースティン様。ここで会うとは奇遇ですな」

「教授こそ、気になりますか?」

「ええ、丹精込めて作った作品は、私の子供のような物ですから。ここから少しでも美味しくなるように、念を送っているんですよ」



 冗談まじりにそう言った教授は、厨房へ視線を戻し、食材が料理人の手によって様々な料理へ変わっていくのを嬉しそうに見つめていた。


 僕も同じように料理人が忙しく動き回る厨房を並んで見つめ、異常が無いと判断し、教授へ小さく断りを入れてからその場を離れて客席へと戻った。



 その時、中庭から音楽が流れてきた。


 1回目のショーが始まるのだなと皆の視線がそちらへ向く。少ししてハリソン殿下と、顔がやや赤いキャロリアーナ嬢が到着した。



「まぁ、始まりましたわ!楽しみにしておりましたのよ」



 そう言いながら、中庭に面したガラスの壁に皆近づいていった。



 優美なワルツが流れる中、白いスーツにベスト、空色のシャツに藍色の艶のあるネクタイ、藍色のハットを被った青年が、ゆっくりとリズムに合わせて歩き、中庭の中央で止まると教室棟に向かい、帽子を取って胸前に当てて慇懃に礼をした。食堂棟に向かっても同じ様に礼を取ると、帽子をかぶり直した。


 後ろから同じ様に、ドレスを纏った女性が登場する。

 白いスレンダーラインのドレスに風に揺れる軽やかな生地をスカートの後ろ半分だけに腰から覆い、やや長めのロングトレーンにして流している。

 軽やかなのに艶があるのか、陽を反射して見える様はとても幻想的だ。

 青年は女性が礼を取ると、手を取り、その場で1フレーズのワルツのステップを踏み、くるっと回転した後、女性の手を自身の腕に誘い、エスコートしながら中庭を回る。


 そうしているうちに次の男女が順々に出てくる。ガウンを取り入れたリラックススタイルや、街中を歩くときに楽しめそうなワンピース。軽やかな生地を肩から流して指に繋ぎ、大きくとった生地が、ダンスで回ると綺麗に広がって揺れたり様々な服を魅せた。



「まぁ、素敵ですわ!あの白い生地が全て新しく開発された素材で出来ているのですね!」



 そうなのだ、今回どこに生地が使われているか、すぐに判別できる様に、使われていない部分で色を使ったのだそうだ。

 最後の見せ場が終わると、まだ幼い少女もいる10名ほどの人が出てきて、深々とお辞儀をした。すると至る所から拍手が湧き起こる。


 今回のデザイナーとお針子たちだ。


 皆達成感でいっぱいな、満足そうな顔をしている。招待客の反応も良さそうなので、注文も多く舞い込むだろう。


 フランシーヌは感動して泣いているかな?

 傍で一緒に見たかったが、今日ばかりは仕方がない。その集大成を見て、僕も気合を入れ直したのだった。

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