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 開会の挨拶が終わった後、招待客や生徒たちは学園祭を思い思いに楽しみ始める。


 その招待客の中に賓客として、バルド殿下が紛れ込んでいるのだが、悪目立ちしないようにパナマハットを目深にかぶっている。

 服装は白シャツにチェック柄の濃いブラウンのネクタイ、黒味を帯びた赤いダブルボタンのベスト、紺色のパンツという出立だ。


 3年の接客担当や護衛、侍女などを後ろに引き連れて、開会の挨拶が終わったハリソン殿下の元へ挨拶に来た。

 ハリソン殿下は、いち早くそれに応対する。



「バルド殿、学園祭へようこそ。あの会談以来お時間が取れずに申し訳ない。明日以降は時間が空きますので、今日はこの催し物を楽しんでくれると嬉しい」


「ハリソン殿、無理を言ったみたいですまない。新しい取り組みと聞いてどうしても見たくなって。後、聞きたいことが………

 最近王宮で見かける金髪の令嬢が、この学園に在籍していると聞いたんだが、知らないか?」

「申し訳ない、貴族の子息令嬢は皆通うもので……金髪は貴族に多いのですが、それだけでは……」


「はは、ですよね。すまない。自身で探してみます」



 眉尻を下げて困ったように笑うバルド殿下は、そう言うと周りに視線を巡らせながら、接客担当に続いて講堂を出て行った。


 次の準備に掛かるため、生徒会役員揃って講堂を出た。そこで馬車止めに馬車が入っていくのが見えた。あの装飾は王家のものだろう。


 教室棟に入るまでの道のりをゆっくり歩き、降りてくる人物に注目していると、やはりと言うか、プランティエ殿下が降りてきた。



 しかし驚くのはその服装だ。

 とてもシンプルなのだ。キラキラを通り越してデコデコギラギラしていた装飾は取り払われ、シンプルで愛らしい髪留めのみ使っている。


 きっと皆気持ちは一緒なのだろう。キャロリアーナ嬢なんて、あっという間に扇子を広げて目元以外を隠してしまっている。


 皆何も言い出せずにいる中で、強心臓のハリソン殿下が先に切り出した。



「おはようプティ。少し遅かったようだね。

 残りの1年生の担当は、展示会場でのお手伝いが少しあるくらいだよ」

「ご機嫌よう、お兄様。ちょっと出掛けに色々あって……」



 そう言って制服を触るプランティエ殿下。

 よく見ると後ろに控える侍女の中にジュリが居た。視線を向けるとニンマリと口角を持ち上げる。この「色々」とはジュリのことなのだろうな。しかもすれ違わせるために、ワザとか。


 学園内は、侍女では同行できないので、この後は影に紛れて誘導するか、はたまた制服を着用して堂々と闊歩するのか。


 僕は諦めのため息を溢して、袖口のカフスボタンを弾いて暗号だけ送るに留めた。



『赤髪は教室棟の展示へ。程々。』



 ジュリは小さく頷いて、紛れるように静かに集団の後ろへ下がると、姿を消した。



「そ、それよりお兄様、お聞きしたいのだけれど。今日賓客の中に、赤い髪の方はいらしたかしら?」



 プランティエ殿下の声に、意識をそちらに向ける。こちらもまだ気付いていないとは……勉強不足と、徹底した情報規制(※プランティエ殿下に限る)のおかげ(?)なのだろう。


 部下の手際の良さを褒めていいやら、悩んでいいやら複雑である。

 ハリソン殿下も、複雑であろう心中を一切表情に出さずに答えていた。



「さぁ、実行委員に任せているから詳しくは……もし居るなら、今頃中で展示会を楽しまれていると思うが。赤髪の誰かが気になるのかい?」

「い、いいえ?全然?まぁったく?!私が気にかけるなんて事無くってよっ」



 言い切ると、ツーーーンとそっぽを向くプランティエ殿下。

 よく見ると笑いを堪えているのか、肩が微妙に揺れているハリソン殿下。隠しきれない目元が開きまくっているキャロリアーナ嬢。ポカーンなニコラウス。安定の無表情で耐える僕とウィズリー。


 止まった時間を壊すべく、大きく咳払いをして「殿下、お時間が」とワザとらしく告げた。



「あら、お兄様、お引き留めしてごめんなさい。ではまた」



 そう言って足早に教室棟に向かうあたり、さっきの指摘を肯定しているのだが………


 さぁ、イレギュラーが目の前を通過したところで、後を追う形となるが教室棟の中を通り、食堂棟へ向かうことにした。



 ***


 観劇は舞台を整えて1時間後に第一公演。

 短い演目で午前と午後の2回公演だ。


 招待客もそれに合わせて、入れ替わると予想して、時間をずらして試食会や展示の説明を行う。


 今、教室棟の展示で使われている部屋の前を通っているのだが、そこまで混雑していないのはその誘導のおかげだろう。



「兄上ー!」



 遠くから早足で寄ってきたのは、マティアス殿下だ。担当は早めに終わると聞いていたので、終わったところなのかもしれない。



「マシュー。もう終わったのか?」

「はい、俺の招待客がもうすぐ到着するから、今から迎えに行くんだ。時間がある時でいいんだけど、連れて挨拶に来ていいかな?」

「ああ、構わない」

「ありがとう!じゃ、また後で!」



 あっという間に跳ねるように去って行ったマティアス殿下の後ろ姿を見て、キャロリアーナ嬢が、僕らへ質問を投げた。



「誰か重要な方が別で来ますの?侯爵はもう来てましたわよね?」



 僕はそれに口角を上げて答える。



「彼の想い人を招待したのだそうですよ。来られるかは、わからないと言われたそうですけど……間に合ったようで何よりです」

「ええ!マティアス殿下の?!初耳ですわよっ」

「ウズヴェリアでは、才媛と名高いご令嬢だそうです。詳しくは殿下へお聞きください」



 僕はワザと話をハリソン殿下へ振った。ここで話す内容では無いしね。キャロリアーナ嬢はそれに気付かず、そのままの勢いで、ハリソン殿下に尋ねてしまう。



「ハリソン殿下、マティアス殿下の事、詳しくお聞かせくださいませっ!」



 にっこりと笑みを向けたハリソン殿下だが、空気がやや重い。



「おや、キャロは私に他の男のことを聞かせろと、そうねだるのかい?」

「え……いえっそういう意味合いでは……は!嵌めましたわねっエリオット様!」


「なんのことかさっぱりです。ニコラウス殿、ここは近衛に任せて先に参りましょう」

「そうですね。近衛の皆さま、お願いします」



 僕はニコラウスとウィズリーと共に、ハリソン殿下ご一行を抜けて先に進んだのだった。

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