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 そして遂に学園祭当日。


 僕は今、まだ明けきらない早朝から学園の馬車止めに降り立っている。


 残念ながら、フランシーヌとは別行動だ。断腸の思いでここに立っている事を察してほしい。

 教室棟へ入り、周りに聞こえる程度の声量でどこへともなく声をかけた。



「誰かいるか?」



 すると音もなくフワリと目の前に降り立ったのは、トビーだった。



「はっ、主様。ここに」

「警備させてすまないね。異常なかった?」

「入り込もうとした輩が数名居ましたので、捕縛し、倉庫へ押し込めております。他はございません」

「尋問はどう?」


「もちろん。……いろんな手法で」



 ん?そんな口籠るほどの手法?僕は瞬間脳内に浮かんだ2人の人物の所業を思い出した。

 しかし、アレらはバルド殿下に付いているので無理なはずだ……と思いたくて、恐る恐る尋ねた。



「まさかとは思うが、ジュリとエリスは……」

「夜中に交代で来ました」



 トビーの回答に、僕は顔を一瞬歪めたが、済んでしまったことなので仕方ないと捨て置いた。



「……捕縛した者は無事なのか?」

「大きな外傷はありませんが…」

「分かった。入り込んだ方が悪い。自業自得だ。忘れよう」

「はっ」

「他の者はいるか?」



 トビーの後ろに向けて声を投げかけると、10名ほどの人影が現れる。その面々を確認して、次の指示を出す。



「馬車に制服を用意している。数名は学園祭に生徒として紛れ込んでくれ。適度にお互い連絡をとり、全体に目を配るように。今日が終われば少しはゆっくり出来る。頑張ってくれ」


「「「「「はっ」」」」」


「其れにしても、皆今日は嫌に静かだな。どうかしたか?」



 最後に気になった事を聞くと、皆視線で会話をした後、その中にいたレイがいつものように気の抜けた話し方で切り出した。



「主様が朝の癒し(フランシーヌ様と)の時間がなかったから〜。いつにない威圧的な空気が漏れ出てまーす」



 そうか。くだらない事をする奴がいなければ。いっそパワーバランスとか気にせずぶっ潰せたら、フランシーヌと一緒に学園祭を楽しめたのに……そう思うと無意識に苛立った気持ちが漏れ出て空気を重くしていたのかもしれない…やはりイラっとする。



「主様〜ぁ、悪化してま〜す」



 はっ、いかんいかん。落ち着いて、冷静に!



「すまない。世の中の馬鹿どもを駆逐出来ない事につい苛立ちが。気にしないでくれ。皆今日は頼む」

「「「「「はーい」」」」」



***



 辺りが明るくなり、準備のために早く登校する生徒も見られるようになった。

 騒めきが聞こえる構内で、僕はウィズリーとリストを持ち、入ってくる劇団や業者の持ち込む品物のチェックを行う。


 護衛の騎士にはニコラウスが指示を出し、運び込みを手伝ってもらい、特に食堂に持ち込む食材からは目を離さない様に気をつけた。


 実行委員は運び込んだ研究結果や、作品を手早く展示していく。慌しく人が行き交う中、ハリソン殿下がキャロリアーナ嬢を伴って、様子を見に来られた。



「ハリソン殿下、開会の準備は?」

「ああ、大丈夫。問題ない。そろそろ招待客を講堂へ引き入れる準備に入るところだ」

「そうですか。順調そうで何よりです。ニコラウス殿は?」


「今は舞台裏の方へいるはずよ。自分でもチェックするんですって。以前ならやらなかったのに、凄い変わりようだわ」



 僕はキャロリアーナ嬢の言葉に、乾いた笑い声を返した。



「ははっ。さて、こちらももうすぐ終了です。終わり次第そちらに向かいます。どうぞお先に向かって下さい」

「わかった。では後程」



 そう言うと、周りの視線を引き連れながら、婚約者の腰を抱いて堂々と歩き去るハリソン殿下。


 僕は残りのリストを消化して、講堂で行われる開会の挨拶に向かうのだった。



 ***



 講堂の正面口を開放して、招待客と生徒を引き入れ始めた。人数が多いので、普段使わない2階席まで使い切る予定だ。


 全て埋まり、落ち着いた招待客たちは、司会として立った副学園長に注目して静かになる。皆次に上がるであろうハリソン殿下の言葉を待っているのだ。


 次にハリソン殿下が壇上に登ると、水を打ったように静かになる。

 玉座を目指して王太子になられてから、自然に頭を垂れてしまいたくなるような威厳を放っている。

 ゆっくりと周りを見渡してから、開会の挨拶を口にした。



「本日はお忙しい中、ご出席をいただき、感謝いたします───」



 皆がハリソン殿下の言葉に聞き入っている中、2階席の一部から場違いな鋭い視線を感じた。

 舞台裏の幕影から、そちらに視線を向けると、そこにはヴォリシウス家当主がふんぞり返り、上から見下ろしていた。



 監視対象だが、もっと影をつけるべきか?


 今日までケチな企みは全て潰してきたのだ。相当苛立っているに違いなかった。


 何事も見逃さないよう、僕は幕影からその姿を見つめ続けた。

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