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 プランティエ殿下は、ガゼボの上から掛けられたレースの布を小さく避けて、池の景色を眺めていた。立ったままだったので、用意された長椅子に座ろうと、後ろを振り返った。


 するとそこには見たこともない、燃えるような赤髪の青年が立っていた。


 急に現れたが微動だにしない人物を見て、プランティエ殿下自身も驚き過ぎて声が出なかった。

 2、3瞬きをする間に、その青年が吐息とともに言葉をこぼした。



「妖精だ……想像以上に綺麗だ……」



 え?妖精?どこ?とキョロキョロと視線を左右に振るが見当たらない。見えないということかしら?と青年に視線を戻すと、今度は「う、動いた……」と感動している。

 何なのかしらと、声をかけてみることにした。



「ちょっとあ「話せるのか?!凄い!」ってえ?話せるわよぅっ!」



 あまりの勢いについ返してしまった。

 これでは、この何とも知れない男のペースにハマってしまうわ。落ち着かなくては!



「なーなー、やっぱり薔薇の妖精なのか?ていうか妖精っているんだな?」

「ちょっと、何なのあなた!」

「あ?俺?一昨日ここに来たんだけど、ちょっと散策に来たんだよ」

「あら、そうなの?初耳だわ」

「そら妖精に、お客さん紹介しないでしょー!」



 ん?なんだか噛み合っていないわ?と気づいたプランティエ殿下は、キッと睨み付けて言った。



「私は妖精ではなくってよ!」

「そうなのか、精霊か?すまん、その辺は詳しくないんだ」

「いや、そうじゃなくって……」



 その時になってようやく気づく。

 この青年は、プランティエ殿下自身を、妖精のように綺麗と言っていることに。

 上辺だけの褒め言葉じゃなく、私を綺麗と心から言っているのだと。


 なんの飾り気もない、今の私を?こんな目をして言った男はいなかった。皆褒めてはくれたけど、この青年のように純粋に言ってくれていた?


 そう思うと気恥ずかしくなり、そっぽを向いてしまった。



「私は人間よっ。分かるでしょっ」



 そう返すのが精一杯だったが、自己紹介が「人間です」って何かバカみたいじゃないかしら。と思いはしたものの、今更名前を言う気になれなくて、どうしたものかと考えていると、青年が返答した。



「あぁ!そうなのか?ごめん、あんまりに夢みたいに綺麗だったから。いや、ごめんごめん」



 そう言って真っ赤な髪を乱暴に搔く青年は、恥ずかしかったのか、頬も赤く染まっていた。



「んで、お嬢さんはココで、一人でお茶してたの?」

「そうよっ悪い?」

「悪いなんて言ってないだろ。でも間違えても仕方ないよな。あんな綺麗な薔薇のアーチの先に居たんだから」



 綺麗綺麗と連呼するので、もう何と言っていいのかわからず、視線を彷徨わせてしまうプランティエ殿下は、いつものようにお茶に誘ってしまった。



「お暇なのでしたら、ご一緒させてあげてもよろしくってよ?」



 いつも取り巻きに言うような言葉が、何故こんなところで飛び出るの!と唇をキュッと後悔で引き結ぶ。



「オッいいの?ちょうど小腹が空いてきてたんだよね。あんた綺麗な上に優しいんだな〜。こっち座っていい?あ、そうか。ちょっと待って」



 そういうと、プランティエ殿下に手を差し出すバルド殿下。粗野な言葉から差し出された手の意味が分からず、何?と怪訝な目を向けてしまう。



「お手をどうぞ?お嬢さん?」



 え?と思ったら片眉をクイッと動かして「さぁ」と促してくる。



「よ、よろしくてよっ」



 なんだか悔しくてツーンとそっぽを向いたまま手を重ねた。


 そのかけられたレースの布の奥では、侍女、護衛が息を潜めて成り行きを見守っていた。



「見ましたか皆さん!ロイヤルラブロマンスの幕開けでございますわ!2人はお互いの素性を知らぬまま出会ってしまわれた…!純粋に愛らしさに心惹かれる青年と、純粋な言葉に戸惑う少女。

 でも皆様、これからなのですっここからが盛り上がりどころなのですよ!なので分かっておりますわよね?行末を見守るべく、他言無用でございますわよっ!」



 まるで物語の様な一幕を、自身の目で見てしまった使用人一同は、薄らと頬を染めながらコクコクと頷くのであった。




 ***▼主人公視点▼***



 その日の夕暮れ前、自邸に戻るべく馬車止めに向かう僕は、いつのまにか後ろを歩くジュリに気づき、ため息を溢してから近くの空き室に入った。


 扉を閉めた途端に、興奮気味のジュリが鼻息荒く今日のあらましを語った。



「んもう、初々しい一幕でしたわ!なので、私達からご提案が」



 若干ゲンナリしつつも、僕は先を促す。



「焦れ焦れハッピーエンド作戦です!」

「なんだそれは」



 僕は死んだ目にならない様にするので精一杯だ。悪癖もここまでくれば天晴れだなと他人事のように考えた。



「これはですね、お互いの素性を知らず惹かれ合い、若干すれ違い、最後には両想いなんじゃ?!そしてゴーーーーールイン!という流れなのです!」



 おおざっぱー。毎度変なことを言い出すが、今回は格別だなと思った。



「素性を知らせないと言うのは、今の状況を維持するのだな。すれ違うと言うのは?また何度か引き合わせるのか?他は勝手に誘導してくれ」


「他はなんとかしますわ。ただ、王宮以外でも会わせたいですわね。……学園祭はダメでございますか?」

「言い出すんじゃないかと思ったよ。

 そうだな、調整しよう。考えが纏まったら提出を。分かったな?暴走するんじゃないぞ?」


「主様、話が分かる方で私、幸せでございますっ!」

「そう言うのはフランシーヌで間に合っているから、さっさと行ってこい。学園祭まで2週間なんだからな」


「畏まりました!では失礼いたします!」



 そう言うとまたもや走り去って行くジュリ。

 その背中を見送り、学園祭の警備プランの変更を頭に書き込むのであった。

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