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 プランティエ殿下の元に急いで戻ると、ジュリは絶句した。この数時間で何があったのか……


 笑顔を崩さないまま、鏡の前に座るプランティエ殿下の元に進み寄ると、斜め後ろから声をかける。



「姫さま、用意が整いました……が、残念ながらまだお連れできないようです」

「まぁどうして?」

「何故殿下はそのように豪奢なドレスをお召しに?」

「美しいからよ?」

「姫さま……何故そんなに飾り付けを?」

「美しいからね」



 あぁ、この子、本当に残念な子なのね。と内心でため息を零すジュリ。


 そこで誉め殺しでコーロコロ作戦に乗り出した。



「まぁっなんてことでしょう!姫さまは自身がダイヤモンドの如く輝く美しさを持っておられるのに、どうして斯様なものでお隠しになられるのでしょう?もっと自身の美を追求なさるべきですわ!」

「まっまぁ、どういう事ですの?」



 ジュリは鏡越しにしっかりと目を合わせた。



「だってそうでございましょう?このような光を放つように美しく輝く髪に、このような大ぶりな宝石の花なんて不要でございましょう?」



 そういうと、髪飾りを取って、ぽーいと後ろへ投げると、その場にポカーンと立っていた侍女の手に落ちる。

 そして並べられた髪飾りの中から白い小花が流線的に着いたシンプルな髪飾りを耳上あたりに飾る。



「見てくださいまし!このくらいでないと、この美しさ引き立たせられませんわっ!」

「そ、そうなの?ね?」

「ではサクサクいきましょう姫さま!あなたさまの本来の美しさを私が演出致しますわ!さぁ皆様、このドレスを脱がせて頂戴!私は選んで参りますわ!」



 ジュリが選んだドレスは、袖のない、丸く鎖骨が見えるスクープドネックのAラインのドレス。張りのある絹の白に近いピンクの生地に幅の広いパステルピンクのレースが両肩から裾にそれぞれ縦に流れている。シンプルだが品もあり、それでいて愛らしいドレスだ。


 嫌そうな顔をした下着姿のプランティエ殿下をいなしながら着せて、胸元には小さなピンクの一粒ダイヤ。メイクも部分的に落として塗り直した。


 一からではなかったので、あっという間に変身したプランティエ殿下は、鏡の中の自分に目をパチクリとさせていた。



「ちょっと心許ないわ」

「何を仰いますか!その無防備さこそが……ではなくてですね、内から輝くような姫さまを見る周りの目をご覧くださいまし!」



 プランティエ殿下は、周りの侍女の顔を改めて眺めた。

 皆いつもの貼り付けたような笑顔ではなく、頬を染めて夢見るような面持ちでこちらを見ていた。



「え?皆こっちの方が良いの?」



 そういうと皆慌てて「いえっ」「そのっ」とモゴモゴと口籠もり、ソワソワとする。



「姫さまは王族でいらっしゃいますから、そのように質問しても素直に答えられる人なんてあまり居ませんのよ」

「あなたはどーなのよ」

「私は良いのです。美しいものは美しいと言いますわ!姫さまはどう思われます?」

「そうね、まぁ……悪くない?と思うわっ」



 つい先日サロンで、「隙なく飾り付けるには」というテーマで馬鹿騒ぎしたばかりのプランティエ殿下は目を泳がせていた。

 でも確かに鏡に映った自分は、飾り付けていなくても変わらず美しい。


 今日は1人だし、たまにはこういうのを楽しむのも良いわね。と思い直したプランティエ殿下は、鷹揚にうなずき、大きなレースのショールを肩にかけて、金糸で彩られた白い扇子を手にして「庭に出ます」と小さく告げたのだった。


***


 バルド殿下はエリスの先導によって、王宮の庭園を散策していた。


 バルド殿下はエリスによって、白を基調とした爽やかな散策スタイルに身を包んでいた。

 白いシャツは1つボタンを開けて着崩し、クリーム色のベストとキャメル色のパンツ。同色のジャケットは暑いと言って手に持っていた。特徴的な中分けのカールした髪は、風が吹くたびにフワフワと遊び、心地良さそうだ。



「こちらはロックガーデンでございます。高山の自然な風景を参考に作られております」

「おお、ガラッと変わるもんだなぁ」

「そしてその先にございますのが、バラのパーゴラでございます。白い木枠の大きな棚でございますね。

 ツルバラを這わしておりますので、下からも見応えがございます。…そしてその先にあるのが、一般的なガゼボよりも、横に3倍ほど大きく作られたガゼボです。王族の皆さまは、こちらで演奏させて寛ぎながら聞いたりしておられるそうです」


「ほぉー、そら優雅なものだな。見に行こう」



 バラのパーゴラにたどり着いたとき、エリスは踵を断続的に小さく打ち鳴らして響かせた。



『赤髪到着。準備せよ』



 それに気づいたバルド殿下はエリスに尋ねる。



「どうかしたか?」

「いえ、靴に小石が入り込んでしまったのでつい。失礼いたしました」

「そうか、気にせず取ってきて良いぞ」

「はい、そうさせて頂きます」



 控えめに微笑み、小さな剪定された木の影に身を隠したエリス。

 靴を脱いで石を取るのだろうと思ったバルド殿下は、視線を上に上げてピンクの花びらが愛らしい八重咲きの薔薇を眺めた。


 上を見たまま進んでいると、視界に白い布が霞める。ガゼボとの間に白いレースの布がかけられて、風に揺られて緩く舞い上がったようだ。


 レースの先にある池の湖面が光でキラキラと反射して輝いていたが、何か立っているのか、影が見えた。


 バルド殿下は、風に揺られるレースの布を軽く掴むと通れるように避け、先に歩を進めた。


 そこには今見たバラと同じ色のドレスを纏った、美しい少女が立っていた。

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