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 ジュリとエリスの行動は早かった。


 プランティエ殿下の趣味嗜好、行動パターンを入手、分析。どうやってかは報告書に一応書いてあった。

 大勢いるプランティエ殿下の侍女に紛れて、「お手伝いですぅ」と言い、事あるごとに出現していたみたいだ。

 もちろんバルド殿下も分析。おそらく寝る時とトイレ以外は一挙手一投足、それこそ視線の先まで調査済みなんだろう。こっちは見放題だ。実に恐ろしい。


 そして僕は今、ジュリとエリスに囲まれている。



「「出会いは一番重要なのです!!」」



「パパッと会わせれば?」と、やや投げやりに言った僕への返事がコレである。



「ロイヤルラブロマンスの演出ができる、最大の機会なのですよ!一回だけしかできないのです!拘りたいのです!!」



 ジュリが拳を握り、熱く語る。その横で力強く賛同するエリス。情熱的に語っているところ悪いが、2人とも笑顔が不穏だ。



「そうは言っても、王女殿下はやらかし過ぎて、謹慎中。出会いの場がねぇ」

「「それなんですよねぇ〜」」

「バルト殿下、ハリソン殿下との会談で、相手見たさ半分、遊びたさ半分ってところだったそうだよ」



 僕が昨日話したハリソン殿下との会話を思い出してそう溢すと、ジュリは頬に手を当てて困った様な微笑みを浮かべる。



「そうなのです、バルド殿下はヤンチャさんなのです」



 同じ仕草、同じ顔で微笑むエリスと顔を合わせて「ねー?」と言い合っている。



「1日2日で随分気安くなったのだな」



 僕が呆れまじりにそう言うと、ジュリは「そりゃそうですよ」と言い出す。



「バルド殿下は、私たちと同じ、貧困層で育ちましたでしょう?考えが掴みやすいですわ〜」

「そうなのか。まぁ良い、出会いは通常で行けば数日後に顔合わせの会を設けてとなるな」

「「色気もへったくれも無い」」



 …バッサリ斬られた。

 この2人は揃うと勢いが増して口が一層酷いのだ。



「それ以外だと、観劇とか、庭園でとかになるが?」

「本当は街で偶然で会って……♡とかが萌えるのですが!」

「王族をおいそれと街に行かせられない」



 過去に行ったことあるけど、あれはハリソン殿下の手配で、かつ良識のあるお二人だったからこそ叶ったのだ。



「「ですよねぇ」」

「仕方ないですわね。しっかり演出致しましょう」


「決して無茶はするなよ。下手に勘づかれて両方にそっぽを向かれたら、厄介この上ない」

「「はーい!」」


****


 ジュリとエリスは、“お話し合い”の間に居てもらった王宮侍女に礼を告げて戻り、笑顔でバルド殿下を囲った。

 狼狽えて、思わずソファの背もたれにグッと背中を押し付けてのけ反り、距離を取ってしまったバルド殿下は、引きつり笑顔のままジュリとエリスに尋ねる。



「な、なんだ何かあるのか?」

「いえ?お時間もありますし、お着替え致しませんか?」

「「私たち、手が空きましたの」」



 何故かこの2人には敵わないと思ってしまうのは、漂う雰囲気に感じる懐かしさなのか、糸のように細められた目から感じる、得も言われぬ何かを感じるからなのか。

 変な汗をかきながら、「す、好きにしたらいいんじゃないか?」と漏らしてしまったところ、物理的にも持ち上げられ、湯あみをさせられて着替えさせられた。


 着替え終わると、紅茶を勧められて一息つく頃には昼になっていた。



「あれ?1人いないぞ?」

「お片付けをしております。お気になさらず。では、お茶の後にでも、王宮自慢のお庭に出てみませんか?せっかく良い天気ですし」

「そうだな。そうしよう」


***


 その頃ジュリは、プランティエ殿下の元へ忍び込んでいた。


 実は湯あみの準備を王宮の使用人に手伝ってもらい、その間ジュリは1人抜けてプランティエ殿下の元へ忍び込んだのだった。


 朝からつまらなそうに、豪奢な白いクラシックスタイルのカウチソファへ足を伸ばして座り、背もたれにクッションを当ててもたれかかっていた。


 そこへ忍び込んだジュリは、素知らぬ顔で他の侍女に紛れて様子を窺っていた。そこへ良い思いつきをした!とでも言うように、提案を口にした。



「姫さま、良いお天気ですし、庭園のパーゴラを通って、その先の白いガゼボの下でお茶でも致しませんか?庭師に聞いたのですが、八重咲きのピンクのバラが見頃なのです。

 あ、そうだわ!全て薔薇に合わせて淡いピンク色で統一してみませんか?どうでしょう?」



 まるで綺麗なものへの憧れを語る少女のように、顔を輝かせて提案する侍女を目にして、プランティエ殿下は、その意見を蹴散らそうかと考えたが、全て色を合わせるという提案に興味が湧いてしまった。



「全部合わせるって?」

「淡いピンクのワンピースに白いレースの肩掛け、金糸とピンクのレースを使った上品な扇子。ピンクに染めたマカロンなども如何でしょう?

 私、そのように美しく愛らしい光景に、姫さまが優雅にお茶を楽しまれる光景が見たいですわ〜」


「ふん、面白そうね。いいわ、ここに居ても退屈だし、そうしましょう。言い出したあなたが場所を整えなさい。いいわね?」

「まぁ!良いのですか姫さま!是非!」



 そう言うと、お着替え担当とお化粧、髪結侍女を集めて指示を出した。



「テーマは自然の美と可憐さですわ!」



 そして双方を磨き上げている間に、厨房に駆け込み、ピンク色のマカロンと軽くつまめるサンドイッチなどの軽食を、パーゴラの先にあるガゼボに届けるように伝えた。

 最後にリネン室でレースのテーブルクロスを数枚、クッションなどをワゴンに突っ込むとガゼボへ突進していった。


 バラのパーゴラを抜けた先にある白いガゼボ。その間に余ったレースカーテンで目隠しの演出。ガゼボの池側に面した柱にも綺麗に飾り付けた。


 白い鉄製のガーデンテーブルと長椅子、1人掛けの椅子などを配置して、クッションを並べて、料理人から届いたお菓子類をセットして……


 とまぁ、ガゼボは乙女心満載な風景に早変わりした。


 自分の仕事に満足していたジュリは、息つく間もなく王女殿下の元に走って戻って行ったのだった。

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