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「そうか、無事迎えられたか。ありがとう」
ハリソン殿下はそう言うと、手元の手紙の最後にサインを書き記した。
ウズヴェリアへのお返事だろうか。壁際に控える専属執事を呼び寄せて後の処理を任せる。
「ハリソン殿下はこの後、陛下の謁見の立ち会いでしたね。その間に他は進めます。気にしておく事など、何かありますか?」
「助かるよ、エリオット。気がかりはプティの事だ。そこがうまくいかないと、マシューの交渉にも影が差す」
実の妹より異母弟の方が気になりますか。僕も同意見ですが。仕方ないので、悪ノリする諜報員に餌を与えてみましょう。
「要は、バルド殿下とプランティエ殿下が仲良くなれば良いのですよね」
「オースティン殿、何か良い案が?」
「いえ、まだ分かりませんが。お近くに居られるのです。様子を見ましょう」
「そうだな」「そうですね」
2人の返事が重なったところで、本日はそれぞれの仕事へと散っていった。
***
僕はハリソン殿下の執務室を退出した後、またもやバルド殿下に与えられた客室前に来ていた。
部屋前を守る騎士は、僕を見かけると軽く頭を下げてから用件を尋ねてきた。
「オースティン様、バルド殿下にご用でしょうか?」
「いえ、中にいる侍女のジュリを静かに呼び出してもらえるかな?お仕事で追加することがあってね」
「畏まりました。少々お待ちください」
部屋前で静かに待っていると、小さく扉が開いてジュリが体を滑り込ませる様にして出てきた。
「ああ、すまないね、ちょっと良いかな?」
近くの空き部屋に入り、扉を閉めると、ジュリは「まぁっ」と小さく声を上げる。
「主様ったら、お仕事場で大胆ですわ…こちらのソファで宜しいかしら?」
「…まったく、おふざけはそこまで。君たちのお仕事に追加があってきた」
シナを作ってクネクネしていたジュリは、僕の言葉にシャンと姿勢を正し、顔を引き締めて立った。おふざけが無ければ凄くやり手で、良い諜報員なのだけど。
「無理にでは無く、誘導で彼と王女殿下をくっつけて欲しいんだ」
「…………え?!!」
普段言わないことを言った僕に、言葉を理解した瞬間に驚きの声を上げるジュリ。
「因みに調査をすればわかると思うが、王女は厄介な性格をしている。料理方法は任せるが、無理矢理や既成事実は使わないように。良いね?」
「……と、言うことですと、王室同士の嬉し恥ずかしなロイヤルラブロマンスを、私たちで演出してしまって良いと…?それを特等席で、堂々と観察できてしまうと…!?」
「真っ平にして俯瞰すればそうなるね」
「ふふ、うふふふふ……!畏まりました!最高のポジションでロイヤルラブロマンスを遂行致します!
はっ!こうしてはいられませんわっ、エリスに相談して計画を立てないと!では行って参ります!」
そう言うと、サササッとすごい速さで去っていくジュリ。興奮し過ぎて、天井裏に突っ込んでいかなかっただけマシかな…?
「さて、エサの効果を待つとしましょう」
***
にっこり笑顔でバルド殿下の客室に戻ったジュリは、早速エリスに報告した。
『王女とのロイヤルラブロマンスの指示がきたわっ』
『なにそれ詳しく!』
『この方とウチの王女くっ付けたいらしいわ』
『手法は?』
『無理矢理以外で』
『ラジャ』
「お、おい、なんかカタカタ鳴ってるし、すんごい笑顔だな。どうかしたか?」
「「いぃえー?どうもしませんわ」」
「そ、そうか?」
こうしてロイヤルラブロマンスの幕が、ジュリとエリスの手によって無理矢理開かれるのであった。