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*最初 レイ視点です
「ねーねー、バルド様〜、まだ食べるんですか〜ぁ?
そろそろ行かなきゃいけないって、さっき言ってなかったですっけ〜?」
「ああ、そうだ。しかし、次いつ食べられるかわからないからな。レイ!あれはなんだ?あの刺さっているやつは?!」
「いちご飴と鶏団子っすね〜って、両方一気に?!斬新だーぁ」
「そうか?なかなかいい味だな」
目についたものはぜーんぶ見て回り、気になるものは片っ端から食べたい!な欲張りバルド殿下。
本当なら、昨日には王宮入りしても良い日程だった筈なんだけどーぉ?
主様に聞いたら、「足止めになるし問題なし」と返事が来ちゃったので、仕方なく一緒に楽しんじゃってる訳だけども。
徐々に誘導して西門が一番近い通りにたどり着いたし、もう押し込んじゃって良いかなぁ〜?とか考えていたら、王宮前の庭園の向こうに西門が見えた。
僕らフラフラとしながらここまでやって来たのか。凄くない?
ちらりと横目で窺うと、お口に串をモッキュモッキュと差し込みながら、西門とその前の庭園の風景を眺めているバルド殿下。
王族って偉いんだっけ?って思ったのはきっと僕だけじゃないはずだよね。
串を食べ終わったみたいだから、袖で口を拭きそうだったから、そうなる前にハンカチ渡しておいた。
すっごい拭くね、殿下。しかも返されたし。
ずっと眺めたまま、バルド殿下は聞いてくる。
「大きい門だな。あれが王宮か?……なぁ、レイ。他国の王宮ってどうやって入ったら良いんだ?」
ぅええええ?!今更そこに思い至ったの?!
僕はアングリと口を開けたまま、バルド殿下を呆れの目で見ていた。
いや待て、ここで「やっぱ帰ろ」ってなこと言われても逆にどーなの?ぐるぐる考えてたら、後頭部に小石が当たって、ハッとなった。これはトビーだな。
後でお礼を言っとこう。
僕は頭の後ろで手を組んで当てて、殊更暢気に答えた。
「ふつーに、こんにちわぁ〜〜!で良いんじゃないですか〜ぁ?殿下が行ったら、いらっしゃ〜い!って言ってくれますって〜」
バルド殿下は、それを聞くと可笑しそうにお腹を抱えて笑い出した。
「レイ、家じゃないんだからさっっヒーィ!」
確かにバカっぽいこと言いましたけど、バルド殿下がやっている事って、僕が冗談で言ったこととそんな変わんないんだけどねぇ?
とりあえず治まるまで待つと、「そうしてみるか」と小さく言って僕に振り返った。
「レイ、世話になった。お前が貴族で、俺の国の者だったら着いてきてもらいたいんだが、そうも行かないしな。またどっかで会えるか?」
「そーだねー。案外すぐ会えるんじゃないかなぁ?」
「フハッそうか。お前が言うとそうなりそうだ。んじゃ、行ってくる。ありがとな」
そう言うと、最後は颯爽と去っていった。
すぐ会えるよ。学園祭で。僕、お手伝いするしね。
****▼主人公視点▼****
その日の午後。僕はお出迎えのために西門で出迎えの者と待っていた。
僕とニコラウス、専属侍女2名(諜報員)、護衛を5名。ハリソン殿下は公務を優先させた。つまり、自国の王族の出迎えが一切無いのだ。
それも無理からぬ事。気にしない質なら良いのだが…
今か今かと待つ中、小さく風を切る音がして、空を見上げた僕は、小石大の物が飛んでくるのが見えた。
左手を軽く胸前に広げて掌を上に向けると、ヒューッと弧を描いてポスッと綺麗に収まった。
僕はさすがトビー。と思っていると、隣でニコラウスが僕の手と空とを交互に見て、目を白黒させていた。
手の中を見ると、くしゃっと丸まった紙の中に小石が入っていた。小石は重しで使ったのだろうから、紙をきれいに広げてみると、あの暗号で書かれていた。
『ー西門前到着 完食次第中にー』
僕は僅かに口角を上げて肯き、そっとポケットに仕舞い込んだ。そして声を張って、皆に聴こえるように発した。
「間も無くお見えになります」
その瞬間に緩んでいた空気が引き締まる。
さぁ、さっさと来い。
そう思っていると、西門前の庭園をズンズンと進み寄ってくる人影が見えた。
その人影の主、ルビーの様な真っ赤な髪を気持ち良さげ風に撫でられながら、堂々とした態度で鉄で作られた格子状の門前までやってくると、僕らを視界に入れてから、息を吸い込み大きな声で言い放った。
「えー、こんにちはーぁ!!ウズヴェリアから来ましたー!」
一瞬、間が開いたが皆表情や、姿勢に出さずに笑いを堪えていた。
僕は誰かが吹き出す前に、応対するために閉じられた門を開けるように門兵に指示を出す。
鉄でできている門は、音を鳴らしゆっくりと開かれ、バルド殿下を中へ誘う。
僕とニコラウスは、バルド殿下の前に進み出ると挨拶をした。バルド殿下は、少人数ながらも出迎えに人がいるとは思わなかったのか、薄い目蓋をパチパチと瞬かせていた。
「さぁ、お疲れでございましょう?部屋を用意しておりますので、先に参りましょう」
色々突っ込まれる前に、移動させてうやむやにしようという算段である。皆続け!!




