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ウズヴェリアのバルド殿下が、王都に到着したという報告が来たのは、休暇期間が終わる1週間前だった。
その前日にウズヴェリア王国から早馬での手紙が届いており、内容は急な訪問に対する謝罪と一時滞在による保護(捕獲?)の依頼だった。
僕はバルド殿下到着時間の確認をすると、諜報員のジュリとエリスを連れてハリソン殿下の執務室を訪れた。
「ご機嫌麗しゅう、殿下。早速ではございますが、バルド殿下が王都の屋台で立ち食いをされた後に王宮へ来られる様です。以前申し上げた、こちらで用意いたしました使用人を紹介致します。
2人とも、殿下にご挨拶を」
僕の後ろで使用人のお仕着せを纏って静かに控える2人は、見える位置にずれて綺麗にカーテシーを見せる。
「お初にお目にかかります。ジュリとエリスと申します。期間限定ではございますが、精一杯お世話させて頂きます」
「…ほう。そなたらが。よく似ているが姉妹か?」
検分するように見るハリソン殿下は、僕へ答えを求めるように視線を戻した。
「いいえ、こう見えて姉妹ではありません。似せてはいますが」
「なぜ似せる必要が?」
「恐れながら殿下、直答をお許し願えますか?」
そう発したのはジュリだ。殿下は「許す」と短く言うと、ジュリは下げていた頭をあげて綺麗な姿勢で答える。
「ありがとうございます。似ていると興味が引かれてつい隙が出来ますし、どちらかが素早く動いたとしても勘違いと思われ易いのです」
「油断させるためか。面白い。手強い相手と思うが、尽くしてあげてほしい」
「「はい。承りました」」
再び恭しく礼をした2人は、殿下の専属執事に任せて連れていってもらった。
王宮のお仕着せに着替えたり、一通りの場所の説明など、準備をするのだろう。
「女性でよかったのか?」
そう切り出したハリソン殿下は、僕にまっすぐ視線を向けた。
「ええ、2人ともおっとりとした、人の良さそうな外面とは全く違いますので、ご心配なく。悪戯心が湧かない限りは、(恐らく)人畜無害です」
「ん?悪戯?」
「まぁ、おいおい分かるでしょう。それより殿下、お出迎えするのですか?」
「事前の連絡もない訪問だからな。少人数での出迎え、謁見は陛下の予定を調整して後日だな」
それはそうだ。此方は秘密裏に情報を得た上で準備はしているが、正式(?)には昨日訪問を願われたものだ。
それも最近発表された庶子。本来なら受け入れを拒否されても文句は言えない。だが、それを受けるのも、プランティエ殿下の出荷先になり得る可能性があるからこそだ。
「プランティエ殿下はお出に?」
「……………どう思う?」
「場を整えてが最善かと」
「うむ、同意見だ」
「では王族居住区から離れた西門がよろしいでしょう」
「では手配を。こちらでも手を回そう」
「はっ」
そのままハリソン殿下の執務室を出た僕は、騎士団詰所に向かった。
そこでは、バルド殿下の護衛を任せるべく、ニコラウスが最終確認を行っている最中だった。
「失礼する。ニコラウス殿、少々宜しいか?」
「オースティン殿。どうかされましたか?」
「少々変更が。まだ時間はありますが、本日午後に西門に到着されますので、そのおつもりで準備をしてください。正式訪問ではございませんので、出迎えは少人数となります。
専属で就かせる侍女も用意しましたので、時間前に向かわせます。宜しいでしょうか?」
「はっ。承知いたしました」
ニコラウスは頼もしく返事をした後、騎士に向き直り、即座に変更を落とし込み、配置変更をする。
うんうん、成長しているなぁとまたもや感心してしまったのであった。