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改修案はそのまま採用されて、翌日には工事に入った。解体できる所や修繕できる所から先にしてしまう為だそうだ。
僕は空いた時間を使い、木工製作を主とする工場の職人を呼び寄せて制作を依頼した。
「箱でございますか?」
「そうだ。簡単に運べる物がいい。そして丈夫」
「そうですね、大きさはいかがいたしましょう?」
「子供が2人余裕で座れるほどの幅と高さで。上か横部分が開けて中に物が入ると良いな。どうだろうか?」
「では、上部分を開けるようにして、座るなら取っ手は無くして手を入れる部分に凹みをつけるかその形でくり抜きましょう。荷物を入れると重くなりますので、コロをつけるのはどうでしょうか?」
「コロか…座った時に動いてしまわないか?」
「では片側にだけつけて、反対側の上部に一本棒をつけてハンドルのようにして…」
職人は懐から紙を出すとサラサラとペンで大まかな形を描き出した。
「農家で使う二輪の手押し車の原理ですね。これなら大した力は必要ないですよ」
「うん、良いな。これを2週間くらいで12個頼みたい。届け先は孤児院だ」
「12個ですか?孤児院に??
分かりました、とりあえず急ぎ1つ作ってお持ちしましょう。複雑な作りはしていないから、明日にでも可能かと。なんとか頑張りましょう」
「ありがとう。頼むよ」
***
木工職人は言葉通り翌日には、見本品を持ってきた。
「昨日素早く描いた物が、目の前にあるのは感動するね」
「表面は軽く研磨してありますので、大丈夫と思います。どうぞ触って確かめてください」
「ああ、ありがとう」
僕はそう言うと床に置かれた箱に、そっと触れて確かめた。側面に窪みをつけて手が入るようになっていて開けやすい。どかっと座ってみても丈夫なのか、軋みもしない。片側につけられた2輪のコロはあるが、ズレる感じもなかった。まずまずな感触に感心してしまう。
コロが無い側へ回って、持ち手として付けられた棒を持つと少し動かしてみた。
「思った以上に軽く動くな!これは驚いた」
そうですか?と嬉しそうに照れる職人に手際の良さも合わせて褒める。
布や書類を入れて動かしても動かせたので、すぐに12個製作してくれるように依頼した。費用は僕のお小遣いの範疇で収まり、出来上がりを楽しみに待つことにした。
***
そしていよいよ改修工事が終わったと連絡を受けた僕は、孤児院へ直接向かった。
フランシーヌは伯爵と一緒に向かうそうだ。
お迎え行きたかったなぁ。
馬車の中でフランシーヌを独り占めしたかったなぁと、少し残念な気持ちになりながら着いたそこにはフランシーヌが出迎えてくれていた。
「フランシーヌ、久しぶりだね!」
「エリオット様、お忙しいとお聞きしておりましたがもう宜しいの?」
「もう平気だよ。ダーヴィルズ伯爵様もお久しぶりです。改装完成とお披露目に呼んでいただきありがとうございました」
「ああ、君には世話になったから、是非見てもらいたくてね。さぁ入ろう」
伯爵はさりげなくフランシーヌをエスコートして、中へ先導してくれた。なんとなく手持ち無沙汰のまま中へ入ると、その開放感に目を奪われて思わず感想を漏らしてしまった。
「…思った以上に…広く感じる」
「遮る物がないからだろうな」
伯爵は揶揄うような微笑みを浮かべながら答えてくれた。僕はそうですねと苦笑しながら、そのまま順に変わった場所を見て回った。
「お父様、早く子供たちに見てもらいたいですわ!」
「もうすぐ連れてくることになってる。そろそろじゃないかな?」
伯爵はそう言うと内ポケットから懐中時計を取り出して確認した。
出入り口に向かうと、そこには子供たちと、数名の大人が集まっていた。伯爵は前に進み出ると先に子供たちに声をかけた。
「全員揃っているようだね。さぁ子供たちは自分の部屋を見ておいで」
はしゃいで周りをキョロキョロと見回す子供たちのことは使用人に任せて、伯爵は残りの大人達を連れて中に入り院長室へ向かった。僕とフランシーヌも伯爵の後に続いたのだった。