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 早朝。エリオットは身支度を整えると、ニコラウスが居るであろう客室に向かった。


 客室の扉を開けると、ニコラウスはベッドに腰掛け座っていた。眠れなかったのか目の下に薄らと隈を作り、虚ろな顔で僕を睨めつける。


 それを気にする事なく中へ進み入り、用意された2組の1人がけのソファに座ると、空いているソファーにどうぞと勧めた。

 ややあって、のそのそと移動して座ったニコラウスは、暗く陰鬱な顔を俯かせて黙り込んだ。


 僕は返事を聞くべく、明るい声色で話しかけた。



「おはようございます。よく考えられたようで何よりです。答えは決まりました?」



 明るく声をかけても陰鬱さは変わらず、暫くするとその重たい口を開いた。



「………私は、平民にはなれない。貴族でありたい。

 これまで通り…いや、これまでとは違い、爵位を継承できるように目指したい」



 ニコラウスは苦渋と、自己陶酔も入り混じった顔をしながら「くっ」と悔しそうな声を漏らした。

 僕は一瞬鼻白んだが、笑みを深めて「分かりました」と返した後、パンパンと軽快に手を打ち鳴らす。



「皆、本人が了承したっ!本日これよりオースティン家特製訓練メニューを実施する!全員これへ!」



 急に声を張った僕に、目を瞬かせたニコラウスは、次の瞬間には驚愕に目を見開き、口が半開きになっていた。



「「「「「はっ」」」」」



 僕の後ろに揃った10名ほどの人物を凝視したニコラウスは「どっっどこから?!」と小さく溢して狼狽える。そんなニコラウスを無視し、席を立って振り返り、今後の予定を告げた。



「メニューは昨日ウィズリーが配った通りだ!やりたい事が有れば随時希望を事前に提出するようにっ!

 これより地下へ移動する。数名は彼を地下へ運搬、念のため繰り返すが、薄皮一枚までだ!逆じゃないぞ!心して楽しむように!!」


「「「「「はっっ!」」」」」



 指示を聞き終わると、集まった面々は素早く移動する。

 同時にニコラウスの両脇、前後に人が立ち、「ではっ」と腕と胴体を引っ張り上げて立たせると棒立ちにさせて、ニコラウスの後ろで横一列に並んだ。横へと転倒させるように足払いすると、床へ着く前に、傾肩辺り、腰、足…とそれぞれがっしり受け止め、小脇に抱えるように持って、えっほえっほと運びだす。


 数人に小脇に抱えられ、運び出されようとしている状況で、ニコラウスが「待った!」と叫んだ。



「こんな扱いは許されない!俺は帰るっっ、帰るぞっ!書状は昨日握り潰したから無効だっ!!分かったらさっさと離せ!降ろせーーー!!」



 僕は諦めの悪すぎるニコラウスに、懐から出した書状を笑顔でまたも眼前に突き出した。

 それをニコラウスが確認できたと見ると、サッと引いて綺麗に畳んでしまい込む。



「昨日のは“写し”ですよ。当たり前でしょう?」



 ニッコリ笑って手を振ると「行け」と指示を出す。

 弾むように出て行った諜報員の後ろ姿を見て、計画の順調さにウンウンと頷いたのだった。


***


 地下に着いたニコラウスは、その日から手を替え品を替え様々な訓練メニューに明け暮れた。


 朝は剣術、昼は体術、夕方は戦術、夜は報告の記入と過去の纏め。


 何とか抜け出そうと、ある日ふと油断したように僅かに開かれたドアからこっそり抜け出すも、何故か外へ続く窓やドアが開かず、見かけたメイドに詰め寄るも暗器で攻撃されてあえなく捕縛され……


 盤上遊技を用いた戦術訓練はボロクソに罵られ、過去の警護報告書を纏める練習も何度もやり直させられ、優しく心情を汲んでくれた侍女のお仕着せを着た女性にポロポロと話をすると、これも諜報員の1人で、「情報ゲット♪」と言われハニートラップみたいなものだと説明されて、若干人間不信になりながら……



 とまぁ、エゲツなく容赦なく、鼻先に爵位をぶら下げられ、メニューを素直(?)にこなしていった。


 その日から休暇期間明けまでニコラウスは姿を消すのだが、さして誰にも気にされなかったと言うのはまた別の話。

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