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 学期末試験まであと3週間といった日。


 いつもの様にフランシーヌ、チャールズとニコ共に馬車から降りて教室棟に入る前に、一層豪華な装飾の馬車からプランティエ殿下が降りてくるのが見えた。


 もちろん周りは何事もない様に取り繕ってはいるが、チラチラと視線が集中しているのがわかる。


 そして馬車から降りる際に手を貸していたのは、従者ではなく、当学園の男子生徒であった。

 焦げ茶色の髪を斜めに分け、多めの前髪をゆるく撫でつけ、嬉しそうに細められた目は黒色、筋の通った鷲鼻に薄い唇。整った顔立ちだが纏う色から、隣国エルクォータ国の出身だとわかる。


 僕は内心アレがそうかと言う気持ちと、誘導したとは言えなんと単純で愚かしいのかと、残念感でいっぱいだった。

 なにせ、プランティエ殿下は嬉しそうに腕を自ら相手に絡ませて、楽しげに話しているのだ。


 周りを見ると教室棟の窓からも、生徒が見ているのがわかった。

 そうしていると、プランティエ殿下とバッチリ目が合ってしまった。



「あら、オースティン様ではなくって?ご機嫌よう。今日も仲がよろしい様で羨ましいわ。それより、あなたもご一緒に如何?」

「おはようございます、プランティエ殿下。いえ、ご遠慮申し上げます。大事な人をエスコートしておりますので。それに殿下も良い方との時間を邪魔されたくはないでしょう?」


「ふん、まぁそうね。ではまた」



 そう言うと、2人は先に教室棟へと向かう。

 前を通り過ぎる際、その男子生徒にギッと睨まれ、勝ち誇った顔をされたが。

 …あの一瞬で、器用に表情を変えるものだと感心してしまったほどだ。


 僕らも教室棟へ足を進めたとき、チャールズがあの人物について僕に尋ねた。



「殿下をエスコートしていたのって、3年の交流生だよね。確か侯爵家の。王城に滞在していると聞いたから、それで知り合ったのかな?」

「多分ね。プランティエ殿下も何をお考えやら」



 知らないふりを通した僕は、そう言って興味をなくした様に別の話題に移ったのだった。


***



 その日から、学園ではプランティエ殿下の噂で持ちきりだった。



 一緒に何処にいたとか、一緒にお昼を摂られていたとか……抱き合っているところを見たなど。噂の上で熱愛っぷりが日増しに加速しており、遂にお相手が殿下に求愛したとまで至った。


 ーそんな日の生徒会室、会長席にて。


 片手でこめかみを押さえながら、いつになく眉根を寄せて渋い顔をしたハリソン殿下が、深いため息をついていた。


 なんとなく見当がついていた僕だが、素知らぬ顔でハリソン殿下に声をかける。



「殿下、どうかされたのですか?」

「うむ………プティがやってくれた」

「プランティエ殿下ですか?」

「エルクォータ国の交流生とな」

「エルクォータ国の生徒も、王族からの誘いに断れずに一緒に居られた…なんて事はなさそうですね」



 事情を聞くと、大凡予想(予定?)どおりだった。


 盛り上がり愛を乞うた交流生は、プランティエ殿下に、「あなたの婚約者より?」と聞かれてコレはイケると踏み、自己判断で自国の婚約者の家に、婚約破棄を手紙で叩きつけた。


 それを読んだお相手は、一家揃って侯爵家に直談判に行ったのだが、野心家の父もまた野心家だった。



「相手が王女様では仕方ないでしょう」



 と皮肉気に笑って、一蹴したそうだ。


 一方的に話を切り上げられた娘の父は、怒り狂って城に行き、事実確認をしたところで、事が表沙汰となり、問題となっているという。


 そりゃそうだ。国の王女の結婚が事前の打診も根回しもなく決まるわけもない。

「真実の愛」か何かは知らないが、交流先から手紙一つで相手を変えるなんて事がまかり通る訳もない。


 なので、現在事実確認と事態の収拾で動いているが、プランティエ殿下の言い分が酷かった。



「私、一緒にいたいと言うから側に侍る事を許し、好ましいと言われたので、『誰よりも?』と聞いただけだわ。結婚したいとか、そんな話は一度もしていなくってよ?」



 コレである。「相手が一方的に暴走したため」で逃れようとし、一向に反省しないとのこと。



***


「なんと言いますか…お疲れ様でございましたね」



 そしてゴメンなさいと心中で謝罪した。



「エルクォータ国の交流生は、今後どうなるのですか?」

「そうだな…交流先で相手国の王族を巻き込んだ騒動を起こしたので、責任を追及されるが、こちらにも非が有ったようなのでな。爵位の降爵、婚約者の家には賠償金の支払いと言ったところか。だが、暫くはこちらが下手に出て関係改善に動かなくてはならん。

 相手は罰を受け、王族だからお咎めなし……ではな」

「早々にお相手を決めて、出荷しましょう」

「まだ話が調整段階でな。それにしても、どうしてああなったのか……」


「資質の問題では?現に、マティアス殿下はあの家の考えには染まらなかったではありませんか」

「そうだな。同腹の兄妹よりマシューの方が近しく感じるくらいだ」



 お疲れのハリソン殿下の癒しになればと、マティアス殿下の試験に向ける熱意とその原因を伝え、「応援なさってください」と言うと、いつものキラキラしい笑顔が戻ったので良しとした。

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