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私用により次回更新は0時とさせていただきます(汗
日々受ける報告に、頭痛が止まらない。
僕はフランシーヌとの時間を日々死守するために奔走しているというのに、何故ヤツはのほほんとしていられるのか。
早朝鍛錬後に差し入れをもらっていちゃつき、空き時間に警護している近衛騎士に異常がないか何故か偉そうに確認して、偶然(?)通りかかったクラスター嬢に褒められ、またもいちゃつき、昼休憩を中庭の植栽の間に腰掛けながらいちゃつき、放課後は放課後で気がつくと何処かしらでいちゃついている。
報告書をくるくると巻いて、ヤツの後頭部に思いのまま振り抜きたい。
“お話し合い”と“訓練”はニコラウスの言動によってどんどん過酷さを増していき、それを垣間見てしまったウィズリーは、無表情だったが、持っていた手帳が伝わった震えで揺れていた。
「そうだ、この期間は父上もいない方がいいよね。エルクォータ国までちょっと行ってもらおうか。無事戻るまで2ヶ月はかかるよね?」
「取引には、財務の要職に就いている侯爵様を必要にさせる……という事でしょうか?」
「そうだね。こちらが誠意を見せる必要がある状況にしなきゃねぇ……」
僕は椅子に深く座り、手を組みお腹の上に置くと背もたれに身を委ねる。息を吐きながら、天井を仰いで考えにふける。
「……宮に篭っている暇人を使うか。そう言えば、3年にあっちの留学生が居なかったっけ?」
「5名ほど交流生として在籍しております」
「野心家なのは?見目はいいのかな?」
「中心的なものがそうです。見目もいい方です。しかし婚約者が居ますが…」
「野心を持って誘いにあえて乗ってしまったのなら、自己責任だよね。でも、立場上暫くは誠意を見せなければ………ね?」
「……では城内でそれとなく誘導しましょう。トビーを一旦戻して行かせます」
「そうだね、そうして?」
母上には、たくさん社交に出てもらえば良いだろう。ついでに第二王子派の動きも探ってもらおう。
マティアス殿下は、試験期間後すぐにウズヴェリア国に飛び立つだろうから、追加の情報仕入れて渡して…
「…はぁ、目まぐるしいね。そういえば、マティアス殿下に取られたセリは、こっちに居るの?」
「いえ、暫くして彼方に。無事彼女付きの侍女に収まったそうです」
「そうか。じゃちょっと密書でも。“良い情報を集めてマティアス殿下に”と」
「承知いたしました」
****
目まぐるしい日々の中で、束の間の癒しとして参加している、ダンスの授業を堪能する。
女子生徒は皆同じクリーム色のドレスを纏い、男子生徒は体の線が判る様に、ぴったりとした白シャツに黒のパンツだ。
フランシーヌはどんな姿でも、やはり僕にとって一番輝いて見える。
授業は2つに分かれて指導される。
1つは踊った事がない者ーほぼ平民生徒と、何かしらの理由で習わなかった貴族生徒。
こちらは基本ステップと姿勢を指導。一人で基本ステップをクリアできれば、パートナーと組んでダンスをする。
もう1つは踊れる者としてパートナーと組み、基本ステップから踊り、個別にチェックが入れられる。
課題となるダンスのチェックを全てクリアできれば、今学期中の授業は自由にできる。
僕とフランシーヌは、共に踊れる側に分けられた場所に行き、壁際で順番が回ってくるまで待つことにした。
フランシーヌをいつもの様にエスコートしていると、小走りでやってきた女子生徒ークラスター嬢がフランシーヌの先で足を止める。そして意を決したように、スカート部分をギュッと握り、赤い顔で声をかけてくる。
「あのーっエリオット様っ」
瞬間、周りは息を潜めて注目するのがわかった。僕はフランシーヌを庇い前に出ると表情を消して無感情に見つめながら、口を開いた。
「君に名を呼ぶ事を許した覚えはない」
「えっ」
まるで、予想外のことを言われたかの様にキョトンとするクラスター嬢に、僕は不快感がじわじわと湧き出てくるのを感じた。
「あっっえっと…良かったら、私のダンスのパートナーになっていただけませんか?」
ゆっくりと眉間に力が入ってしまうのを押さえながら、「断る」とだけ返事をする。
「えっっでも、優しく教えてほしいなぁなんて…?」
「君は私に、教師の真似事をしろと言うのか?」
「ちがっっ、でも、この時期だし…。そうよ、決まったパートナーがいた方がいいと思うしっ」
「私のパートナーは、永遠に決まっている」
僕の言葉に何故か目を輝かせたかと思うと、驚愕の形で固まる。
フランシーヌが僕の腕に手を絡ませて身を寄せ、存在を主張したからだろう。
僕はフランシーヌへ顔を向けて、優しく微笑みかけるとクラスター嬢が急に喚き出した。
「あなたなんなのよっ私の邪魔する気?!」
「私の婚約者だ。君に罵倒される筋合いはない」
「えっっっ婚約者?!って他のクラスでしょ?」
「私の婚約者は入学からずっと同じクラスだ。君、私のフランシーヌを侮辱するなら、相応の覚悟があるのだろうな?」
フランシーヌを馬鹿にされて、この僕が黙っておけるはずもない。僕はクラスター嬢を睥睨した。
顔色を悪くしたクラスター嬢は、「ヒェっ」と小さく漏らしてから慌ただしく逃げ出した。途中慌てすぎたのか、ドレスの裾を踏んで転びかけていたところ見ると、もう絡んでこないだろう。
僕はフランシーヌが絡ませてくれた手に、自身の空いている手をそっと重ねて、微笑む。
「主張してくれてありがとう。嬉しかったよ」
「だって、“私のフランシーヌ”なのでしょう?」
当たり前だわと、悪戯っ子の様に頬を染めながら微笑むフランシーヌ。
すみません、お持ち帰りは可能でしょうか?
反則すぎる可愛さに顔を押さえて呻くのだった。