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 そして更に2週間経った頃。


 生徒会室で皆それぞれの作業をしている中、扉の外が騒がしく、なかなか治まらないようなので、僕はちらりとニコラウスに目をやった。


 やっと視線に気づいたニコラウスは、怪訝そうな顔をする。横っ面を叩きたい衝動を堪えて、目を合わせたまま顎で扉を指した。

 やっと気づいたニコラウスは、外に確認に行きーー何かを引き連れて戻ってきた。


 ニコラウスは荷物を自身の机に置くと、引き連れてきたエミリー=クラスターに感謝を述べて側に立ち、楽しげに話しだした。



 正直に言おう。他一同ポカーンである。



 そんな中ハリソン殿下は、その様子を一瞬だけ目を留めると、興味をなくしたように仕事に戻った。



「皆さまお忙しそうですねぇ〜」



 忙しい時に発せられる呑気な言葉ほど、癪に障るものもない。

 それはキャロリアーナ嬢も同じだったようで、席についたまま話しかけた。



「用事が済んだのなら、お帰りいただけるかしら?ここは遊び場ではないわ」

「アクストン嬢、エミリーは先生に書類を運ぶように頼まれて、善意で持ってきてくれたのだぞ」

「そう、それはありがとう。お帰りはあちらでしてよ?」

「わっっ私………」



 大袈裟に肩を跳ねさせたクラスター嬢は、入り口を指し示すキャロリアーナ嬢を無視して、ニコラウスの服の裾をキュッと摘み、ハリソン殿下をウルウルと見つめる。


 しかし目が合わないので諦めたのか、ニコラウスに目をやった。



「あの、お忙しそうなのでお手伝いできればなって」

「結構よ」「必要ないですね」「私も特には」


 ハリソン殿下以外から素気無く断られてしまったクラスター嬢は、軽く目を見開いたが、またウルウルとした悲しげな顔に戻る。

 ニコラウスは慌てて「でっでは私のを…」申し出た。

 僕は頭痛が起きそうな頭を押さえながら、咄嗟に止めるべく口を出した。



「ニコラウス殿、まさか一般の平民生徒に警備資料を手伝わせるおつもりですか?」

「平民とか……身分は関係ないだろう」

「はぁ、きちんと説明しなければ分かりませんか?警備資料を見せることの危うさを、まさかお忘れに?平民、貴族では情報の広まり方、影響の仕方が変わりますが、この学園内を危険に晒すと言うところは同じでしょう。

 その女子生徒が他で漏らさないという保証は?貴方の今の“場所”をかけるほどの信用が何処にあると?」


「それはっ……」

「お分かりいただけたら結構です。せめて扉までエスコートして差し上げては?」

「…すまない、エミリー。行こう」



 反論の余地が無い事をやっと理解したニコラウスは、クラスター嬢の背にそっと手を添えて扉へ向けてエスコートする。

 クラスター嬢は、慌てた様に部屋にいた面々に目を向ける。

 既に仕事を再開したウィズリー、無表情で様子を見る僕、書類を持ちハリソン殿下に確認を取るキャロリアーナ嬢。そして自分を外に出そうとエスコートするニコラウス。


 その様子を見てやっと諦めたのか顔を俯かせて、大人しく出て行った。

 通常運転に戻った室内で、ハリソン殿下は徐に口を開いた。



「アレはなんだ」



 瞬間ピタリと止まった空気をため息で破り、投げかけられた質問に答える。



「1年Aクラスの平民生徒です。ニコラウス殿の“仲の良いお友達”だそうですよ」

「まるで恋人の様に感じたのだけれど、違うのかしら?」

「まだの様です。しかし……少しずつ歪んできておりますね」

「その様ね。2人で出ていくなんて、意味がわからないわ」



 全くもってその通りなのだ。部屋の外までのエスコートを提案したのだが、扉を開けてクラスター嬢を促した後、戻る事なくそのままついて行ったのだ。

 普段無表情のウィズリーが、2度見なんて珍しいところが見られたくらいだ。


 休暇期間を待たずに決行するか、心を折る材料を増やすか悩ましいところである。

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