表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/110

53

 翌日。


 僕は授業のない空き時間に生徒会室に入ると、生徒会長席まで突き進み、アルカイックスマイルでハリソン殿下に向かい、まずは挨拶を口にする。



「本日もご機嫌麗しゅうございます、ハリソン王太子殿下。少しお時間を宜しいでしょうか」

「……なんだ、まぁ今はこの通り1人だ。話せ」

「では」



 僕のいつにない対応に、片眉をピクリと上げたハリソン殿下に、笑みをスッと消して尋ねる。



「殿下はニコラウスをどうしたいので?」

「どうとは?」

「未だ“候補”のままで手元に置いてらっしゃる。正直4年もの間、“何やってんだこいつ”と言う思い以外、湧いたことがございません。必要なのですか?どうしたいのでしょう?お聞かせ願えますか?」



 ハリソン殿下は面白そうに口角を吊り上げて笑った。



「『仲良く』やってくれているなら構わないが」

「私なりに『仲良く』陰ながらフォローはしておりましたが、正直本人の変化が見られません。もし、どう変わっても宜しいなら、私が弄っても構いませんか?」

「随分溜め込んだのだな。ククっ好きにして構わない。母上からの“お願い”だったからな。騎士団長も一縷の望みをかけたのではないか?」


「…成程、根本が違いましたか。では、彼も親の願いなら仕方ありませんよねぇ。何時になるか分かりませんが、彼は暫く姿を見せませんが、宜しいでしょうか?」

「構わない。今のままでは、居ても居なくても変わらんからな」

「承知いたしました。では、次の授業は出席しなくてはいけませんので、御前失礼いたします」



 僕はそう言うと、踵を返して扉に向かった。

 多少前後してしまったが、ハリソン殿下の言質は取れた。これで心置きなく計画を練って実行できる。

 自然と上がる口角を押さえながら、生徒会室を後にしたのだった。


 ***


 2日もすると、ある程度の情報が集まってきた。

 自室で報告を受けていると、思わぬ名前が飛び出てきた。



「エミリー=クラスター?って同じクラスのピンクゴールドの髪の?」

「そのようです。話す姿は親密そうで、知らない者が見れば恋人同士と思うほどです」



 では、あの時ニコラウスの影にいたのはその女子生徒か。どこで知り合った?僕は呟くように疑問を口にした。



「学年が違うだろう。ニコラウスの早朝訓練は知っている者は知っている程度のはず。1年のエミリー=クラスターが偶然知った?」

「どうでしょう?使われているのは、更衣棟のさらに奥です。偶然知るには離れ過ぎています。通りかかるのは無理があります」

「だよねぇ。何か目的があって………?

 まぁこの程度じゃハッキリするはずもない。暫く泳がせる」


「あの………ではいつ(監禁の)決行を?」

「休暇期間かな。今いなくなったら、周りが騒がしくなってしまうだろう?」



 僕って優しいよね?と言うと、顔色の悪いウィズリーは、手に持つ手帳をギュッと握り締めて「左様でございますか」とだけ口から漏らしていた。



***


 何事もなく過ぎる学園生活。

 皆初めての“学園祭”にどこか浮き足立っている。

 まだまだ先なのに、気が早いなと思いながらも、初の試みに楽しんで参加されているようで安心する。



─── 一部を除いては。



 例えば、“貴族”を履き違えた傲慢な者。

 例えば、この王太子殿下の発案主導が気に入らない者。


 例えば、教室棟側の中庭で、あまーーい言葉を婚約者以外に吐いている者。



 風で揺れる木々のそばで、ウフフアハハと話し、ニコラウスが口を閉じたと思ったら



「私…いや俺は……エミリーの事が気になっているみたいだ」



 なんて言葉を吐くではないか。

 

 は?あれだけ散々あま〜〜い言葉を吐いておいて、今気付いたというのか?


 察せないことにはピカイチなニコラウスくんだからなのか?

 教室棟3階の窓から下を眺めていた僕は、呆れて半眼になってしまった。



「え?なぁに?何か言った?」



 彼の言葉にそう返したエミリー=クラスターの言葉に僕は驚愕した。



 3階の僕に聞こえて、お前に聞こえないだと?!



 なるほど、道理で周りの忠告を聞かないはずだ。聞こえていなかったのか。


 僕はエミリー=クラスターの情報に「難聴の可能性あり」と書き込み、不快でしかない景色から離れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 難聴の可能性有りに大爆笑しちゃいました。 言い得て妙すぎますねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ