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翌日、僕はブロウズ嬢とフランシーヌの顔合わせを、昼食を摂りながらではどうかと登校早々に提案した。双方から了承の返事をもらうと、お昼休みに食堂棟の1階で待ち合わせた。
フランシーヌと連れ立って向かうと、ちょうど教室棟から食堂棟への渡り廊下で、颯爽と歩くブロウズ嬢の後ろ姿が見えた。
僕はフランシーヌに断りを入れて、早足で近づき、声をかける。
「ブロウズ嬢っ、お待たせしなかったようですね。安心しました」
「まぁ、タイミングが良くて何よりですわ。ここではなんですし、とりあえず行きましょう」
***
僕は食堂棟2階へ2人を案内した。
ここへ初めて来たのはフランシーヌだけだったようで、物珍しそうに見渡していた。
「初めて入りましたわ。植物で区切ってあるのね」
「区画ごとに利用出来る様になっているんだ。予約すれば誰でも利用できる。希望すればお茶や軽食、食事も出るから、お茶会や打ち合わせにも便利だよ」
予約した名前を告げると、席に案内された。
食事が運ばれてくる前に、お互いに紹介、挨拶を済ませると、お互いの事をきいたり、和やかに談笑しながら食事を済ませた。
最後に運ばれたお茶を口にしながら一息つくと、ブロウズ嬢が話題を振ってくれた。
「では、ウィンダリア様は、孤児院で教師もされているのね」
「教師だなんて。そのように大したことではございませんわ。少々思うところがありまして、基本的な文字や計算のお勉強だけ。でも、まさかデザイナーになる子が出るなんて思いもよりませんでした」
「宜しければ今度ご一緒しても?」
「ええ、勿論ですわ!ブロウズ様さえ良ければ、フランシーヌとお呼びいただけます?」
「嬉しいですわ。では私はメイアンと。ふふふ」
僕はもう必要なさそうかなと思いながらも、やるべき事だけを口にしておいた。
「すっかり仲良くなられて、安心しました。では、とりあえず忘れないうちに…
まずはアカデミーと孤児院出身、孤児院のお針子さん達で方向性をお決めください。デザインはそれから選びましょう。着てもらう人は、学園の2年生から選ぶのですが、選んだ方の了解を必ず取っておいてください。そして僕はお邪魔なようですから、まだ時間もありますし、お二人で存分に打ち解けあってください。
ではまた、ブロウズ嬢。失礼いたします」
そう言ってニッコリと微笑み礼を取ると、ポンとフランシーヌの肩に優しく宥めるように手を置いてから階下へ降りていった。
「ふふ、なかなか油断ならなそうな婚約者様ね」
「そうですか?ふふふ」
去った後に、そんなやり取りがあったとか。
***
2階から降りる際、上からやや見下ろすような角度で見える中庭。
外では旋風でも起きたのか、噴水からサァァっと水しぶきが少し舞い上がり、中庭に煌きながら飛び跳ねる。
その煌めきに目を取られた時、噴水の奥の一角で緑には馴染まない、見慣れた色が見えた。
僕は見直すように目を凝らすと、そこには今し方会った女性の婚約者が、中腰くらいの高さに揃えられた植栽の間に居るのが見えた。
あの低さであれば、地面に座っているのであろう。
ベンチがあるのにだ。何故?アレでは教室棟からも丸見えだ。
そして先ほどの水がかかってしまったのか、背中を噴水側に向けて、背を丸める様に身をかがめていた。
間を置いてから彼が体勢を戻すと、その陰からほっそりとした手が見え、彼の髪にかかった水しぶきを払う様に触る。
その行為を遮るでもなく嬉しそうに享受し、苦笑する彼ーニコラウス。
僕は絶句した。
頭の中ではフランシーヌには決して聞かせられない罵詈雑言が飛び交っていた。
そして脳内で色々考えた結果……とりあえず徹底的に調査。
精鋭を使って隅々まで。
プライベート?何ソレ?でやってやろうじゃないか。
そろそろ現実見させるのも良いかな。
ギリギリまで心を折って、従順にさせて、僕なりに鍛えてやろうじゃないか。
ある程度見られる様になるまで、我が敷地に迎えてやるのも良い。ニコラウスよ、泣いて感謝したまえ。
そうだ、そんな彼のスペアも必要だな。
弟の方も念のため調査と、見極めをしておくか。
僕はニコラウスのついでとはいえ、未だ会ったこともない10歳の男の子の育成計画も、淡々と立てるのであった。
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その日の夜、自邸に戻るなり僕はウィズリーにやるべき事を、つらつらと挙げていった。
手慣れたように手帳と万年筆を取り出すと、サラサラと書き連ねていく。
「今空いている精鋭をプロバースドへ向けて。人数は任せる。多くても構わない。情報はどんな小さなことでも持ってきて。ブロウズ伯が縁を繋げたい理由もついでに。
…そういえば地下に、石造りの大きな空き部屋あったよね。そこを早々に清掃入れて、外鍵を頑丈なやつに変えておいてね。それと……」
頭の中の計画を思いつくままに話していると、手帳に書き込みながら顔色が悪くなっているウィズリーが、珍しく遮った。
「ぁぁぁあのぉっっ!ちょーーっと宜しいでしょうか?」
「ん?何?」
「気のせいでなければ……気のせいでなければ……、これ、どなたかの監禁計画では……ないですよ……ね…と」
だんだん言葉尻が小さくなり、最後は蚊の鳴くような声で発するウィズリー。僕は片眉を上げて呆れたような笑みで答えた。
「ウィズリー、人聞きが悪いよ。ちょっと、長期間お話し合いと鍛錬をするだけだよ?」
監禁なんて、まさかまさかとニッコリ笑ってそう言うと、何故だか肩を跳ねさせて口がわななくウィズリー。
「大丈夫、犯罪にはならないから」
なぜだか顔色が白いウィズリーを、とりあえず置いておく事にしたのだった。
あ、皆の良い訓練相手になるよね。楽しみだなぁ〜。
書いてる本人が言うのもなんですが
ニコラウスくん、強く生きてっっっ




