51
学園祭の内容も決まり、学園の新しい行事について、全生徒を集めて正式に発表と説明をした。
学年より1名ずつ代表を選出して、実行委員に任命する旨と、学年ごとに役割を振り、それぞれ実行委員に協力のもと小さな事でも良いので、参加するようにと伝えた。
選出には2週間ほどかかったが、1名ずつ選出され、担当を決めていった。
3年は農業科と公演の管理、賓客対応
2年は織布科と工芸科
1年はチケット管理、案内などの広報と構内の装飾
1ヶ月も過ぎる頃、なんとか動き出した“学園祭”に、生徒会一同ほっとしたのであった。
実行委員会を含めた会議では、学年ごとの仕事の洗い出しや、補佐の任命は可能か?などの相談など諸々を行った。
実際に研究成果や開発された製品については翌月アカデミーの各科の責任者や研究員数名を呼んで、直に触れてもらうこととなった。
***
会議が終わり、僕は2年の実行委員に声をかけた。
「ブロウズ嬢、お時間よろしいでしょうか?」
「はい、構いませんわ」
「…実は、服飾での発表の件なのですが、製作案は出来ており、後は候補から選ぶ段階でして」
「まぁ、そうなのですか?新しい生地を使った服飾の発表なんて、女性としてはワクワクしてしまいます」
「ただ、デザイナーは孤児院出身で、お店を出したばかりの子らと、孤児院にまだ入っている子でして。
ブロウズ嬢が気になるようでしたら、人を介しますがどうしますか?」
僕の言葉に目を瞬かせたブロウズ嬢は、次の瞬間には微笑みを浮かべて答えた。
「デザイナーと実際お話しして、作品作りに関われるのでしょう?誰にも譲りませんわ。
何処から生まれようが、私はその人の才能に敬意を表します。そういったご心配は無用ですわ」
「それはよかった。その孤児院が私の婚約者が管理するところでして、一度顔合わせをしておきたいのですが」
「それは是非。孤児院の管理をなさっているなんて、素晴らしいですわ。デザイナーの卵にも直接会えますの?」
「ええ、それはブロウズ嬢が宜しければ」
話が纏まったところで、顔合わせの日程を決め、会議室を出ようとした。
ふとブロウズ嬢の足が止まり、じっと何かを見つめていたので気になり、先に目を向けるとニコラウスがいた。
「?ニコラウス殿とはお知り合いで?」
「ええ、まぁ。…婚約者ですわね」
僕は驚いたが、声と顔に出ないように必死になった。「居たんだ」と喉から滑り落ちそうだったのだ。
そういえば一度、同年代で婚約者が居ない人を確認した時に、プロバースド家はリストになかった。
「それは…………存じ上げませんでした」
「まぁでも、変わる可能性の高いものですので、お互い決定するまでは不干渉ですわ。お気になさらずに」
「そうですか」
突っ込んだ事情を聞けるはずもなく、会議室を後にしたのだった。
***
その夜、自室にて。
「え?正式じゃない?」
「はい。といっても家同士の結びつきは絶対に成したいそうで、“家”の婚約者ですね」
「つまり、ニコラウス殿が無事家を継ぐと確定した場合に、婚約者になる…と。
そうか、騎士団長の家だからな。家督を継ぐのは一番強く秀でたものと聞いたことがあったな。次男は何歳だ?」
「現在10歳ですね。その下は娘で8歳です。噂によると、次男は既に才覚を発揮しているそうです」
「噂で“既に”か……ニコラウス殿、危うさには気付いているんだろうか…」
「それがその……お気づきじゃないかも知れません」
「だろうね。僕、まだ彼を気にしなきゃいけないんだろうか」
「殿下に確認なさっては?」
「だよね。殿下のお考えねぇ」
騎士団長の息子として鍛えてきた分、そこそこ強くはあるが、近衛騎士と比べるとまだまだ相手にならず、自ら鍛錬に励んでいる。
そして側近候補に選ばれたところで、傲ってしまったのかも知れない。
ニコラウスは一見、順風満帆のように見えるが、内実2年経った今でも彼は“側近候補”のままだったりする。
その内何かしらの役職に就くとしても、今のままでは次男の方が有力ではなかろうか。
覆す方法を考えたが、2年もお側に侍ってこれと言った実績がない今、頭を抱えるしかない。
僕はただただ、ニコラウスのために祈ったのだった。




