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感想、ブクマ&誤字報告、誠にありがとうございます。

後半ニコラウス視点が入ります。

 僕が出席する数少ない授業“マナー”。


 これは実地で行い採点されるので、パスはできなかったのだ。この日のマナーのお題は“お茶会”だった。


 僕らは6人で組み、ホスト役にはチャールズが挙手した。

 僕らはゲストとしてテーブルに着こうとすると、後ろから声を掛けられた。



「まぁっチャールズ様、押しつけられたのね?良かったら私、代わります」



 なんだなんだと視線が集まる中、中心にいた僕らは何のことかと呆気にとられてしまった。



「あ、そうすると席が足りなくなっちゃうわ。あなた他のところへ行ってくれる?」



 そう言ってニコに勝手な指示を出した後、さぁさぁと張り切り出すピンクゴールドの髪の女子生徒は、満面の笑みでチャールズ、僕とマティアス殿下に触れようと手を伸ばしてくる。

 僕らが手を避けるため、一歩引いたのと同時にフランシーヌが手にしていた扇子で止めた。



「おやめなさい。失礼でしてよ」

「なっ!あなたには関係ないじゃない。私がホストなんだから、オモテナシするのは私の役目よっ」

「横から入ってきただけではありませんか。貴女にホストをお願いした覚えはないわ。それに、知り合いでもない男性に無闇に触れるのは、マナー違反でしてよ」

「他人じゃないわっクラスメイトよ!それにチャールズ様とはお友達なのよ!」



 瞬間教室中から「そうなの?」という視線に晒されたチャールズは、ブンブンと音が鳴りそうな勢いで首を横に振っていた。



「違うそうだけど?」

「そんな、チャールズ様っ!毎日お話ししてるじゃない!」

「一方的な挨拶だけだよねっっ誤解を招く言い方はやめてくれ!」

「貴女、見苦しいですわ。今は授業中でしてよ。先生が授業のために用意されたものを、台無しにするおつもり?」


「でもっでもっ」

「お下がりなさい」



 ショックを受けた顔で小さく震える女子生徒は、傷つきましたと言わんばかりに「ひどいっ」と叫び、ジャグの乗ったワゴンにぶつかり、お湯を溢して走り去っていった。



「片付けないのか。仕方ない」



 チャールズはこう言った授業のための専属使用人を呼び、片付けをお願いした。



「まぁ、走り去るなんてはしたないこと。減点ですわね。さぁ皆様。本日はお茶会マナーについてです。ホスト役の生徒はホスト役の位置について、ゲスト役の生徒も座って頂戴。始めますわよっ」



 パンパン!と手を打ち鳴らした先生は、和やかに、優しく的確に授業を進めていった。



「フランシーヌ、さっきは矢面に立たせてすまなかった。あまりの奇行っぷりに思考が固まってしまった。助けてくれてありがとう」

「まぁ、エリオット様。ふふふ、婚約者を守るのは当然ではなくて?」



 女神のように美しく優しいフランシーヌは、そう言うと悪戯っぽい笑みで僕に笑いかける。僕の女神が頼もしいとか、無敵ですか?



「助かったよ姉上。一方的な挨拶で友達に昇格していたとは、露ほどにも思いつかなかったよ」

「俺はチャールズとよく行動しているが、挨拶以外は話しているところなんて記憶になかったぞ。思わず密会しているのかと勘ぐってしまった」



 そう言ったマティアス殿下は、「すまん」とだけチャールズに言い、お茶のお代わりをお願いした。



「“押しつけられた”なんて。どうしてそんな事思ったのかしら?」



 テーブルに着いた面々は互いに見交わし、傾げる。それもそうだ。思い当たる節などないのだから。



「チャーリー、アレが以前に言っていた?」

「そうなんだよ。ね?変だよね。最近は挨拶後に、お天気の話とかをつけてきたりで、長引かせたいのが伝わってくるんだけど」

「チャールズが生返事しか返さないのに、言いたいことを言ったらすんなり去っていくんだ。見てて薄寒いよ」



 どうやらその女子生徒の様子に、一緒にいたマティアス殿下も引いたようだ。



「1人付けるべきかな?どうする?チャーリー」

「相手は平民の子だし、まだ良いかな。無理そうなら頼むよエリオット」

「わかった。いつでも言ってくれ」



 そう言いつつも頭の中で、何人かピックアップするのであった。



***


── 一方学園内とある訓練場近くの渡り廊下にて。



 空き時間だったニコラウスは、自主訓練後に次に出席する授業に行くため、着替えを終えて、更衣棟から出てきた所だった。


 教室棟への渡り廊下に差し掛かったところに、人影が見えた。


 その人物に視線を向けてみると、先日自分の早朝自主練を見ていた女子生徒だった。



「クラスター嬢。こんな所でどうしたんだ?」



 そういうと、彼女エミリー=クラスターは、パッと勢いよく振り返り、一瞬喜びを顔に浮かべたかと思うと俯き、制服のスカートを掴んでいた。



「ー?それは…濡れてしまったのか?」

「あ…これは…」



 気まずげに言い淀む姿にハッとしたニコラウスは、思わず追及するような言葉を口にしてしまった。



「それは…誰に?」



 エミリー嬢は俯いたまま緩く首を横に振る。



「あのっちがっ………これは私が悪いんです…」



 その姿にやはりと確信して、濡れた部分に目をやると、胸ポケットから真新しいハンカチを差し出した。



「よかったら使ってくれ。少しはマシになるだろう」

「えっ、そんな。でもありがとうございます」



 パッと嬉しそうに両手でハンカチを受け取ったエミリーは、ハンカチを片手に持ちなおし、濡れた部分が見えるように広げると、ニッコリと微笑んで言った。



「今日はお天気も良いから、きっとすぐ乾いちゃいますよねっ」



 先ほどまでと違い、晴れやかに笑う姿にニコラウスは、胸が高鳴る音が聞こえた気がした。



「いつでも力になる。いつでも相談にきてくれて構わない。クラスター嬢」

「あ、じゃぁ…あの、エミリーって呼んでもらっても良いですか?」

「それは…分かった。エミリー嬢。俺のことも名で…ニコラウスで構わない」


「はい、ニコラウス様!」



 健気で可愛らしい…とつい緩む口元、勝手に染まる頬に戸惑いながら、少しの間エミリー嬢と談笑してその場を立ち去ったのだった。

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