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 翌日も、もちろんフランシーヌと一緒に登校した。朝から当たり前のように会える幸せで、既に心は満タンだ。


 1年生用の階にたどり着くと、じっとりとした視線を感じた。

 さり気なく辺りを見渡しても、特に虫派閥の生徒は見当たらないし、まだ変なことしてない筈だが??と内心首を傾げていると、教室の入り口からサッと引っ込んだ何かが見えた。


 僕はとりあえず、ニコに視線を向けるとニコは小さく頷いて先に進んでいった。

 ニコが教室に入った事を確認して、フランシーヌと歩調を緩め、チャールズに話題を振り何気なく外の景色を口にして視線を誘導する。



 「まぁどうされました?入り口を塞いでは危ないわ。避けてくださらない?」

 「あ、アンタまた!!ちょっっ押さないでよっっっ」



 チャールズは商会の荷馬車でも並走できそうだと口にしていて、フランシーヌと3人で笑い合った。



「さぁ、フラン行こうか」

「エリオット様っ!2人きりの時だけって申し上げましたのにっ」



 この顔がまた愛らしいので、可愛いの化身様に横っ面を殴られようが、鳩尾を殴られようが止められないのだ。



「ごめんごめん。さぁ教室に入ろう」



 エリオットったらって言いながら、腕掴むのもまた可愛い。今日もやっぱり可愛いなぁ。



***



 模擬授業期間は、全ての授業に顔を出した。

 フランシーヌは気になる科目を見て、図書室に行きたいと言うので、渋々ながら途中別行動とした。


 常に一緒に居たのは、チャールズとマティアス殿下、ウィズリーだ。


 授業では概要を聞き、早期テストを希望した。

 どの教師も、僕の希望を聞くとギラリと目を光らせ、挑戦的に、時には嘲るように見てくる。もちろんきっちり返り討ちで終わらせたけれども。


 それにしても広い校舎だ。選択科目間の移動でも授業によっては、かなり距離があったりする。

 フランシーヌには、基礎科目の間に入れる選択科目には気をつけるように忠告しよう。

 そう心に書き込んでおいた。



「あのっっっ」



 次の教室へ移動しようと席を立ったところで、近くから声がした。1Aの教室に居た生徒だなと思っていると、続けて話し始めた。



「私のこと、覚えていませんか?!」



 なんだ? 僕に言っているのか?


 視線は合っている気がするが。ぁあ、平民の生徒か。それならルールを知らなくても仕方ない。

 かと言って僕が懇切丁寧にルールを教えれば、下手に歪曲された噂を立てられるのがオチだ。女子生徒側は、他の貴族のご令嬢方に非難される可能性もある。


 ここは相手にせず立ち去り、ニコに貴族側の独特なルールがある事を、間接的に言うように指示するのが最善だろう。



「記憶にないですね。失礼、次を急ぎますので」



 それだけ告げると、足早に次の授業の教室へ向かった。



***


 放課後、役員の顔合わせということで、生徒会室に向かう。

 フランシーヌは待つと言ったが、いじらしい言葉に湧き出た抱きしめたい衝動を抑えて、チャールズと先に帰ってもらった。


 遅くなるのは申し訳ないし、僕がいない時に誰かが声をかけるのも嫌だしね。


 ウィズリーには1つニコ宛の用件を言い、終わったら追いかけてくる様に指示して、先に生徒会室へ向かった。


 生徒会室に入ると、部屋の一番奥に会長執務机があり、その間に縦に向けた長机を2台並べ、間を通れる様に十分に間隔を開けて、置いてある。


 会長執務机の前に進み、椅子に深く腰掛け背もたれに背を預け、どこか疲れた様子のハリソン殿下に声をかけた。



「珍しくお一人なんですね」

「殆どの科目を終えているのでな。存外自由だ。キャロとニコラウスは選択科目だ」

「お疲れの様ですが、何かございました?」


「……うむ…プランティエのことだ」

「そういえば、模擬授業期間ですが、お見かけしませんね」

「癇癪をおこして引きこもっている」


「…左様ですか。無理させずとも良いのでは?(訳:居ない方が平和じゃない?)」

「だめだ。示しがつかない」



 そうでしょうとも。


 この学園は3代前の国王陛下が建てられた。

 貴族の子供を預かり、基礎知識の確認、歪んだ思想がないか、危険な人物ではないかの確認と監視を兼ねている。そして子供を預かることによって、中央への意識を絶えず持たせる……などその他諸々の目的が含まれている。



「この2、3年は大人しくされていたのですか?」

「気に入った相手を侍らせようと、無駄にかき回しては母上に窘められていたが。それでも野心を持った奴は利用しようと、乗ってくる。頭の痛い話だ」

「以前に出させるとお聞きしていたのですが…その話は?」


「…ああ、一つ考えた先があったのだが、相手が決まってしまったそうだ。それにアレでは務まらん」

「ああ、そっちじゃないですよ。後で出てきた方はどうです?仕舞い込めずに出すと聞きましたが」

「…まだ持ってない物だな。何処から?」



 頭を抱えていたハリソン殿下が、胡乱げな眼差しを向けてくるが、僕は明後日の方向へと逸らす。



「それはまたいつか。マティアス殿下の取引に乗せてみては?」

「……検討しよう。それにしても、エリオットにも粉をかけていたと聞いたが、よく避けれたな」

「きちんと愛する婚約者がいると、お伝えしましたよ。それにお蔭さまで、大変忙しくしておりましたので。(訳:殿下を逃げる口実に使いました。)」



 初のお茶会以来、別のお茶会やら、サロンへのお誘いやら、何くれと手紙を送って来ていたのだ。

 その度にきっちり理由をつけて、手紙と共に王妃様経由で返信をしていたのだ。

 きっと何の立場もない侯爵子息だと、応じないわけにいかなかったのだろう。本当、ハリソン殿下様様である。



「ククっ…私を使ったか。まぁそういう事でなら、いくらでも使ってくれて構わない。そんな物にお前を取られるわけにはいかんからな」



 そうしてしばらく待っていると、ウィズリー、キャロリアーナ嬢、ニコラウスが揃ったので、改めて顔合わせとウィズリーの紹介をした。


 ________________________

 生徒会長:ハリソン殿下

 副生徒会長:キャロリアーナ嬢

 会 計:エリオット

 書 記:ウィズリー

 庶 務:ニコラウス

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 席も決まり、年間行事について軽く説明を受けてから、ハリソン殿下は新たな試みについて口にする。



「2学期入ってすぐ、校内で博覧会を行う」

「博覧会ですか?」



 僕はニコラウスが聞き返した事で、話していなかったかと内心で驚いてしまっていたが、ハリソン殿下がそのまま続けて話すので、口にせず静観した。



「そうだ。子息令嬢の親を招待して、アカデミーで開発した新製品を広めたい」

「殿下、それなのですが、“博覧会”として開催されますの?そのままですと平民の生徒に、敬遠されないかしら?」



 キャロリアーナ嬢の言葉に一理あると皆考え込み、沈黙した。

 ややあって僕は思いついたことを口にした。



「では、有名な劇団を呼び、講堂での観劇などの盛り上げる要素を入れて、お祭りのようにしてしまうのはいかがでしょう?幾分楽しめるのではないでしょうか。お祭りには身分関係なく、馴染みがあるでしょうし」

「ふむ。その方向性で動いてみよう。学園側にもそれで相談を」

「名前は……“学園祭”など面白いのではない?」


「クククっ、良いな“学園祭”。気に入った。ウィズリー、早速で悪いが提案書の作成を頼む」

「はっ。畏まりました」


「ニコラウスは警備案を騎士と相談しておいてくれ」

「はい。父にあたってみます」



 そうして顔合わせから早くも、学園始まって以来初の“お祭”に、皆日々追われるのであった。

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