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僕らは中庭を一周し、食堂棟を外から眺め、その大きさに驚き、そろそろ頃合いな時間となったので、講堂へ向かうことにした。
講堂には教室棟からの渡り廊下から続く小さい出入り口、ロータリー側に向いた大きい正面口があった。
僕は王城で使う身分証を出して近くに居た騎士に近寄り、ちょっとした挨拶をして人数を増やしてもらった。
なんせ、在校生代表はハリソン王太子殿下で、新入生代表はマティアス殿下。そしてお茶会以来、避けに避け続けているプランティエ殿下もいる。王族の子供が揃い踏みなのだ。
警戒は過剰なくらいでちょうど良いと思う。
そして、指示を済ませると正面口に進み、横長の紙が張り出されているのが目に見えた。
そこではクラス分けが掲示され、前には人だかりができていた。
僕らはもちろん、そこへは参加せず悠々とそのまま中に入っていった。
入学式の席はクラス毎に分けられていた。
どうやらゆっくりしているうちに、ウィズリーが先に来ていたようで、列の前側でポツンと今朝も見た後頭部が見えた。
「ウィズリー、意外と早かったね」
「エリオット様、先に失礼しておりました」
「いや良い、ここでは従者では無いのだから。仕事は回すけどね」
僕の言葉にやや引きつりながら、ウィズリーは席を立って他の面々に場所を譲った。
真ん中にフランシーヌで、両脇は僕とチャールズ。その両端をウィズリーとニコが座る。
始まるまで談笑しながら待っていると、一層明るく照らされた壇上に本校の学園長である、王弟の公爵閣下が立ち、挨拶と開式の祝辞を述べた。
そしてそのまま国王陛下からの祝いの言葉が連ねてあるであろう書状を読み上げ、壇上から降りていった。
王弟殿下の次に壇上に上がったのは、ハリソン王太子殿下だ。在校生代表として、卒なく完璧に歓迎の言葉を述べる。
去り際に目が合って、口角が片側だけ上がった気がしたが……きっと気のせいだ。うん。
最後に、新入生代表としてマティアス殿下が上がり、熱意のこもった感謝と決意の言葉を述べる。
あらら〜、もしかして遠い国の彼女の事で漲ったやる気が飛び火しましたか?と、思わずニマニマしていると、やはり去り際に目が合ったので片眉を上げて揶揄っておいた。
最後に副学園長が壇上にあがり、閉式の言葉を述べ、この後の流れを軽く説明してくれた。
騒めく会場から教室棟へ移動すべく立ち上がり、フランシーヌをエスコートしながらゆっくりと移動していると、人だかりに進路を妨害されてしまった。
その集団中心あたりから声がしたと同時に、人だかりがザザッと左右に割れた。
ライトゴールドの髪を強めに巻き、豪奢な髪飾りを左側頭部につけ、赤いリボンの真ん中には宝石のあしらわれた飾りがキランキランと光る。学園指定のシンプルな白いシャツは、薄いピンクのドレスシャツに変身。ジャケットの襟には黒い花柄のレースが……とまぁ、つまり初日に魔改造した制服で現れたのは、我らが敬う王族の、プランティエ殿下である。
会わないうちになんて痛い子になったのだろうかと、遠い目になっているとウフフと笑って話しかけられた。
「お久しぶりねエリオット様。ご機嫌いかが?」
「……………ご機嫌麗しゅうございます、殿下。ところで、教室棟へ移動したいので、ここに残られるのなら避けてもらえますか?」
「まぁっつれないのね、エリオット様。私も移動するの。エスコートなさい」
「お断りいたします」
すっぱり断ると「無礼な!」「なんて事!不敬だわっ」ときゃいきゃい廻りが騒ぐ。
「私の大事な婚約者のエスコートの最中ですので。それに、Cクラスの殿下とは教室棟入ってすぐ分かれてしまいますし。ご一緒できませんよね?」
「あら?何を言っていて?私もAクラスのはずよ?」
「左様ですか、殿下にはあの形がAにお見えでらっしゃる。他の方に確認されては如何でしょう?」
僕が皮肉げな笑みを浮かべると、集団の中からプランティエ殿下に小声で「Cと…」と囁いたようで、バッと振り向いた。声なく動いた口元。あれは「ウソよ」かな?
「なっ何かの間違いだわ。叔父様にお願いしたものっ」
「殿下、貴族の教師も多い当校で、明らかに点数の悪いものを改竄するなんて事は出来ません。臣籍降下されたとはいえ”王弟殿下が、王女殿下を優遇した“となると、国の信用に亀裂を入れかねません。だから、学園長は答えなかったのでしょう?」
そういうと青い顔して「まさか…」と呟き、踵を返して取り巻きたちと慌てて去っていった。
やれやれと一息つくと、エスコートの最中で腕に手を添えたままのフランシーヌが、「大丈夫かしら」と呟いた。優しいなぁ〜フランシーヌはっっっと微笑みを向けると、少し顔を赤くしていた。
邪魔な塊が居なくなったのでスイスイ進む。正面口を出ると、掲示の前で集団が騒いでいたので、目の端で警戒しながらさっさと通り過ぎた。
***
1-Aと書かれたクラスに入り、2人用には少し大きめの机が3列に並び、それぞれに1人がけの木製の椅子が2つずつ付いている。
窓際の3つの机に前後に並び、後ろがウィズリーとニコ、その前に僕とフランシーヌ。その前にチャールズが座った。
「っっって俺だけひとりっ」
「私の隣はいつだってフランシーヌの指定席なのだから、諦めてくれ」
「俺振られてる?!って違うわっ!もう良いけどさ、それにしても“私”って言うの聴きなれないなぁ」
「お外用だよチャールズ。それに、“僕”っていうと、ちょっと侮るだろ?」
「まさかっ」
「なんてね」と言うと後ろからガタッと音がして振り返ると、ウィズリーが無表情で震えていたので、敢えてニッコリと微笑んでおいた。あ、青くなった。
遅れてマティアス殿下が入ってきて、着席の布陣を見て憮然とした顔になった。
「…友達じゃなかったのかよ」
「生憎、僕の隣は生涯埋まっておりまして。机は分かれますが、こちら側のお隣に座るか、私の未来の義弟の隣に座るかお選びください」
まさか隣に王族が来ると思っていなかったチャールズは、「ヒェッ」と声を小さくあげていた。
マティアス殿下は、じっとりとした目で見比べて考えた後、チャールズの横に座った。
そろそろ全員揃った辺りで、教師がひとり女生徒を連れて入ってきた。
「ほら、空いているところへ座りなさい」
言われた女生徒は“ご不満でございます“という心情を顔に貼り付けながら、俯き加減で最前列に座ったのだった。
プランティエちゃんどうしてこうなったんだろう(遠い目)




