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感想、ブクマ、評価、誤字脱字報告、誠にありがとうございます!!
皆様の感想にとってもテレテレしながら見てしまっています。
そして誤字脱字報告。心底感謝です!
おかげでシュールである意味ファンタジーな世界に変貌しなくて済んでおります。ありがとうございます!
いよいよ入学式当日。
僕は早くに伯爵家に寄って、フランシーヌとチャールズ、ニコを拾っていくことにしていた。
ウィズリーは、少し仕事を処理してから向かうとの事で、別馬車で行く事になった。
もちろん、早くフランシーヌの制服姿が見たかったのと、混雑すると思われるので早めに行き、フランシーヌと散策でもしようかと考えたのだ。
今年の新入生代表挨拶は、マティアス殿下が立つので、もしかしたら式前に会えるかもしれないなと、ぼんやり考えていた。
伯爵邸に入ると、新しい制服に身を包んだチャールズが出迎えてくれた。
濃いグレーのジャケット、同色の地に白に近いグレーのラインで描かれたグラフチェック柄のズボン。一段濃いグレーのベスト、真っ白いシャツに落ち着いた色合いの赤いネクタイがよく映えている。
「おはよう、エリオット。姉上はもうすぐ降りてくるよ」
「おはよう、チャーリー。早くにすまないね」
「早くに会って慣れておかないと、エリオットが大変だもんな。仕方ないよ」
「その通りだ」
いつものように談笑していると、足音が聞こえたので階上を見上げた。
ニコに手を引かれて降りてくる姿を見て、やはり崩れ落ちそうになる。
濃いグレーのジャケットに、同色の地に白に近いグレーで描かれたグラフチェック柄のジャンパーロングスカートは足首よりやや短め。裾から黒革の編み上げショートブーツが覗く。真っ白いシャツには同じく落ち着いた赤色の細いリボンが揺れる。
フランシーヌの長く美しいプラチナブロンドが、肩から滑り落ち、着こなしに一層華やかさを演出していた。
美しい。可愛さは進化すると美の化身となるのか…!
チャールズには立ち上がれるように、脇腹を抓ってもらった。
「ご機嫌よう、リオ。いい朝ね。新しい制服、とっても似合っているわ」
「おはよう。フランもすごく似合ってるよ。何でも着こなせてしまうなんて、僕の麗しい人はさすがだね」
「まぁお上手ですこと。ふふ、さぁ行きましょう?早く行かないと混み合ってしまうのでしょう?」
「ではレディ、学園初日のエスコート役をぜひこの私めに」
「まぁ!クスクス…よくってよ?」
フランシーヌの手を取って、腕に絡ませて笑顔で馬車へ向かう。後ろから「馬に蹴飛ばされないかな、俺」「チャールズ様、私も蹴られそうです」と声が聞こえた気がした。
気のせいかな?
***
早めに出たおかげで、そう待たずに学園敷地内に入ることができた。
門で入学許可証を確認し、そこを通ると馬車が4台は並走できそうなほどの広いアプローチが続く。道の中心には常緑樹が距離を空けて1列で等間隔に並んでいて、すぐ左に見えるのが教員棟だろう。そしてアプローチを挟んで右側には楕円形の講堂があり、本日の入学式の会場となる。
アプローチを抜けると馬車のロータリーが見えた。
馬車に合わせて1段高く作られたポーチに降り立った。
正面には紺色の屋根に真っ白い壁、赤茶色のレンガ造りの柱がアクセントの教室棟。ちょうど真ん中の一角が多角形型に迫り出しており、1階部分はアーチ型にくり抜かれたピロティ。その奥に一面両開きのガラス戸が見え、そこから奥にエントランスホールに続くようだ。
僕たちは建物の素晴らしさに、感嘆する。
そして式までの時間を、見て回ることにした。
教室棟に入り、そのまま真っ直ぐ突き進むと中庭になっていて、中央には噴水、所々にベンチが置いてあった。
「まぁ、素敵ですわね。ランチはここでも楽しめそうですわ!」
「そうだねフラン。食堂でお願いすると、パンやサンドイッチの一部メニューの持ち出しが出来るみたいだよ」
「早速食事のことを言うところが、姉上らしくていいね」
「もぅっ、失礼でしてよチャーリー」
ツーンと取りすました顔でそっぽを向くフランシーヌにチャールズと2人で笑ってしまった。
そうして談笑しているとフランシーヌが、何かに気付いた様にあたりを見渡した。
「??何か聞こえた気がするのだけれど??」
どこからかしら?とあたりを見渡してフラフラと歩き出したフランシーヌ。
それを追いかけて一緒に耳をすますと、確かに噴水の水音に紛れて、か細い音が聞こえた。
「あ、あそこですわ!」
そう言うと、背の高い木に近づき上を見上げるフランシーヌ。
目を凝らすと、そこには白い毛並みの子猫が木の枝に掴まって弱々しい声で鳴いていた。
「あぁ、降りられなくなったのかな。可哀想に」
「早く降ろしてあげないと…リオ」
見上げていた顔を僕へ向け、フランシーヌがお願いを口にした。
「ねぇ、私を抱き上げてくださらない?」
「「え??」」
「あの高さなら、リオが持ち上げて下されば届きそうでは有りませんか?」
「姉上、淑女としては、いけない行為じゃないかな…」
「ですが、弱っているのではない?声が小さいわっ」
僕はそのやりとりの最中、頭の中でちょっとしたパレードが開かれていた。
だめだ、花びらまう中、抱き上げたフランシーヌが笑顔で、僕に抱き返してくれるイメージでいっぱいだ。キャッキャウフフでいっぱいだ。
「エリオットー?そろそろ戻ってこいよー」と言う声でハッと意識が戻った僕は、どうやら固まったままだったようで、目が乾いてシパシパする。
「ぇえっと、なんだっけチャーリー?」
「姉上が子猫を助けたいってさ。そこのベンチ、動きそうだから、ちょっとずらして踏み台代わりにすれば、届くんじゃない?」
僕はシュンとした顔で了承し、チャールズとベンチを動かして踏み台にし、なんとか届いた子猫をおろしてやった。
……後でベンチの清掃をお願いしよう。
子猫をおろし、手で捕まえたまま怪我がないかぐるりと観察していると、植栽の陰から灰色の成猫がちらりちらりと顔を覗かせた。
「エリオット、後ろ。植栽の影。親猫かもしれないっ」
僕は振り返り、親猫を見つめるとゆっくり膝を折って、手の中の子猫をそっと地面に下ろした。すると子猫は「ニーニー」と先ほどより強く鳴きだし、トテトテと近づいていった。
親猫は子猫の顔を何度か舐めると、植栽の中へ入っていき、子猫も後を追っていった。
「まぁ、お迎えでしたのね。良かったですわっ!ありがとう、リオ、チャーリー」
いつか抱き上げてクルクル回るのを実現しようと心に決めながら、フランシーヌの感謝の言葉に笑顔で頷き返すのだった。