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伯爵家での一時を満喫して、名残惜しげに後にした僕は、その足で王宮へ向かった。
そろそろハリソン殿下が学園から戻ってくる頃なので、仕上げた書類を持って行くのだ。
第一王子ハリソン殿下の執務室に入り、中に進んで…身を翻した。
「おっっお待ちになって!」
僕は扉に向かう足を止めて、ゆっくりと後ろの応接用ソファに座る方々に向き直った。
「ご機嫌よう、ハリソン殿下。そしてキャロリアーナ嬢。出直しますから気にせずそのままで」
「気にせず入ってくれ」
「気にしますわ!!お離しになってくださいましっっ!」
この2人、あれだけ疎遠だったのに今では溺愛っぷりが凄い。
お互い徐々に距離を詰め、あまりのじれじれっぷりに、その相談会に面倒くさくなった僕は、孤児院出身のお針子にお願いして、猫かリスのような小動物の付け耳製作を依頼した。
小動物のような人物を、つい弄ってしまうハリソン殿下の癖を刺激してみよう!な作戦だ。
そして試行錯誤の上、出来たのが猫耳付きカチューシャ。しかも長毛種。なんと画期的か。
ハリソン殿下の前でキャロリアーナの頭にそっと付け、えーいと後ろから押してみたのである。
それからの殿下はキャロリアーナ嬢を見ると、とりあえず腕に収めてニコニコニマニマと愛でている。
僕も反省はしている。
いくらなんでも荒療治が過ぎたのだと。
しかし、後悔はない。
将来の国王夫婦が仲睦まじくて何よりだ。
「貴方ね!さっきから景色ばっかり見ていないでっ…!あっ殿下!くすぐったいですわ…!」
「……殿下。補充はそろそろ良いのでは?股の間に座らせて弄っているキャロリアーナ嬢を、隣へ移動しては?僕はどーでも良いのですが、彼女の体面上よくありません」
「うむ、そうか。仕方ないな」
渋々と言った体で、横へ座らせたハリソン殿下。ぴったりとくっついて腕を回しているので、あんまり変わらないような気が…まぁ良いか。気にしていたら負けだ。仕事が進まない。
「こちらが提案書です。後は校内での企画案ですね」
「有難う。やっと場が設けられそうで何よりだ」
「そうですね。去年は間に合いませんでしたから、僕も一安心です」
「内容をお聞きしても宜しいのかしら?」
「ああ、まだ準備段階だが、校内でお祭りをしようと考えていてね」
「と言っても2学期中盤なので半年はありますよ」
「まぁ、校内で?」
「生徒会主導で、実行委員会も別で作ることになるかと。キャロリアーナ嬢ももちろんお手伝いしていただきますよ」
「面白そうね、もちろんよ。今から提案してもまだ間に合うのかしら」
「一度アカデミーの方も行くので、そこで素材を見てという流れですね」
ハリソン殿下に肩を抱かれたままだが、キャロリアーナ嬢は初の行事、それも立ち上げから全て関われることに目を輝かせている。
そして他の案件の話を進めていると、ニコラウスが入室してきた。
「遅れまして申し訳ございません」
「いや、いい。何かあったのか?」
ニコラウスも慣れたもので、目の前の光景にはさして態度を変えずに話を続ける。
「いえ、先ほど学園の警備担当から報告を受けまして。新入生が正門に押しかけてきたと。それ以外は特に異常なしでした」
「数年に一度はあるそうですね。下見だと言って来る人。気安く入れるはずないのに」
「入寮される方は寮専用門に来られますから、入寮者じゃないのかしら?」
王都の王城近くにある王立学園は、希望する入学者に限り、寮を提供している。
貴族は1人1室。平民は2人で1室。男女で棟が分かれ、階数で身分を分けている。
学園の敷地内にあるのだが、街へは専用の門があり、新規入寮者はそこから荷物を持って入ってくることになっている。
「わかりやすく標識もありますし、間違っていたら門兵が説明するでしょうし、大丈夫でしょう。ところで、そろそろマティアス殿下はお戻りに?」
「ああ、明日帰ってくる。ウズヴェリア国の手土産と一緒にな」
「それは楽しみですね。明日は僕も手土産を持って顔を見せに行きましょう」
「お土産交換ですわね。楽しそうですわ」
まぁキャロリアーナ嬢はハリソン殿下が離さない気がするので、マティアス殿下を連れて来ようと心に留め置いたのだった。
お久しぶりなマチュ...ゲフンゲフン
マシュー君は羽ばたいておりました。