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 僕は調査のために、伯爵家と侯爵家の孤児院を回って意見を聞いた。


 その他家庭については、侯爵家の人員を使って意見を収集。

 それをまとめた上で伯爵家に行き、「もし孤児院で行っているような勉強を、他の平民家庭の子にする場合」を仮定としてフランシーヌやチャールズ、偶然居合わせた伯爵に意見を聞いた。


 大凡僕が想定する懸念点と重なっていたが、チャールズの意見に目から鱗が落ちる思いだった。


 方向性としては、生活に根付いて直ぐに利用できるものなら興味を持つ人が多いのではないかということで、農業、薬学、そして物を製作する技術を学ぶ製造系を第一候補とした。縫製なども考えたが、それらは第二候補とする。

 そして建物の大きさ、部屋の作りの希望を出し、伯爵家の孤児院の改装を請け負った職人を呼び寄せて、簡単な図面を描いてもらい意見交換をした。


──と、このように途中で仕事ついでにフランシーヌの補給をしつつ、もちろん勉強も手を抜かず、各種手配もしながら、頑張ったよ僕。

 一緒に頑張っていたウィズリーの顔色がどんどん悪くなるので、今日は半休を取らせてある。


 そしてハリソン殿下の予定を確認すると、「今から来い」である。僕からの知らせを見て早急に調整したのかな。凄いねまったく。


 そういう僕もお伺いのお手紙を書いて渡した後に、なんとなく登城の準備をするあたり、慣れって怖い。


 そして王城に着きましたが、もう騎士様は先導しません。前回専属執事から渡された身分証と、恐らく事前通達で楽々通過です。

 僕は第一王子ハリソン殿下の執務室前で、入室の許可を待ってから中に入った。


 中にはハリソン殿下と、ニコラウスが居た。

 思わず「ゲ」と漏れそうになる口をなんとか引き締め、表情を取り繕いながら一礼して、一応の口上を述べようとして「良い。今後不要だ」と遮られる。

 それより早く渡せと言わんばかりに、ニッコリ笑顔と執務机に肘をついて若干前のめりにもかかわらず、優雅に手をこちらに向けてくる。


 僕はまたもや半眼になりそうな目をパチパチと瞬きをすることで堪え、抱えてきた草案と元になった資料などを纏めた冊子を手渡した。

 執務室の窓際で立っていたニコラウスは、気になったのかチラチラと殿下の手元を覗いている。


 草案から資料を丁寧な手つきで、且つすっごい速さでめくり、目を滑らせるハリソン殿下をよそに僕は窓の外に見える庭園の風景に、目を喜ばせた。

 ややあってパサリと資料を執務机に置くと、ハリソン殿下はいい笑顔のまま僕を労った。



「とてもよく出来ている。まさか建物の構造にまで言及してくるとは思わなかった。この人物は何処で勤めている?そこの詳細を知らせておいてくれ。

 方向性についてだが、私としては縫製を入れたかったのだが、第二にしている理由は?」


「そうですね、何処までを目指すのかが一つ。それを教える側が、誰を対象とするかと言ったところでしょうか。もし宜しければ織布の方面で考え、様子を見てから縫製へ展開しては如何でしょうか?」

「ふむ、それはそうだな。織布か。繊維の開発なら農業でも関わりが出るかもしれん。

 面白そうだ。よし、それも加えよう」

「ではこれはついでですが、ご参考までに」



 そう言って渡した数枚の紙を受け取り中を見たハリソン殿下は、とても感心した顔で何度も紙をめくっては一緒に付けた図を眺めていた。



「これは面白いな。ちゃんと機能すれば被害は最小限…いや、無くなるかもしれないな」

「最初は基礎を作り、そのうち時間をかけて掘り下げればそう出来ると思います。今は人工的に調整できる素地作りを目指すのは如何でしょうか?」


「うむ。これはうまく機能はするか試さなくてはな」

「ああ、僕の方で縮小版を作り試しました。ちゃんと溜まりましたので機能はするかと」

「そうか。では素地作りをしてみよう。ありがとう」


 僕は一安心して、空いた時間にフランシーヌに会いに行くかなと思っていたら、「恐れながら…」と割り込まれた声に眉間にシワが寄ってしまった。



「恐れながら殿下、このように候補となって日が浅く、私より年下の子供が持ってきた案を、容易く採用されるのは早計かと」



 ニコラウスの言葉に手早く反論するなら「あ゛?」だ。僕が窓際から殿下の執務机近くに寄ったニコラウスに目を向けると、おかしな事を聞いたと言わんばかりの困った笑顔を作ったハリソン殿下は、ニコラウスに言った。



「面白い事を言うんだなニコラウス。1つしか変わらない年下を、子供と断じるなら私にとって君も“子供”となるが?

 私は目指す先があるので、そのような事は気にしない。気にするのは有能かそうじゃ無いかだ。もちろんエリオットは私がそう思ったから選んだ。君はどうだろうね?ニコラウス。もちろん君を今は侮ってはいないが」



 先日僕と対峙してやり込められたニコラウスは、ハリソン殿下に“子供だから使えない”と思わせたかったのかもしれないが、それはハリソン殿下には悪手であったとしか言いようがない。


 窘められたニコラウスは、グッと押し黙り、その後はずっと話さず、ただ窓近くで立っていた。

 もしかして、警護でもしている気でいるのではないかと感じたが放置しておくことにした。

 そしてまたもや新たな課題をもらった僕は、その後ニコラウスに目を向けることなく、執務室を後にした。

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