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※前半主人公、後半ウィズリー視点です。

 僕は自邸に戻るなりウィズリーを呼びつけ、自室に入ってすぐ必要な事を挙げて行った。ウィズリーは慣れた様に手帳を取り出して、手にした万年筆でサラサラと書き連ねていく。


 その様子を僕はじっと見つめていた。

 僕の様子に気づいたウィズリーは、手帳から視線を上げて「何でしょう?」と首を傾げた。



「使い心地良さそうだなと思って」

「ああ、昨日頂きましたこの“万年筆”、素晴らしいですね!中にインクを貯めておける上にポケットに入れておいても液漏れしません。確かにこの技術なら作れる者が少なく、数が確保できないと言うのは納得です。欲を言えばインク残量が分かれば、尚素晴らしいと思います!」



 今日はよく喋るな。と変な感想を抱いていると、ウィズリーは一つ咳払いをして、続きを促してきた。



「ああ、そうだったな。今のところ思いつくのはそれくらいかな」

「畏まりました。それとウズヴェリア国の経過報告を纏めておきました」

「第一報か、何かあったか?」

「最近発見されたモノがあるそうです。収集は順調で、この様ですと予想の半分で終えそうです。如何なさいますか?」

「そうだな、次の報告次第で考えよう。ウィズリー、そろそろ増やしたいんだけど、良いのいる?」


「5名ほど。来年出る子ですが、如何いたしましょう?」

「一人は強欲な頭のところへ。城へは二人。残りは随時指示を出すから手元に。人選は任せるよ」

「畏まりました。身元に使うのは我が家ですか?」

「んーーーー、それじゃ近すぎるから、末端の男爵家で。そのうちどこか外に作っておきたいけど、まだ掛かるかなぁ?」


「では手元に残した二人で、下位貴族の探りを入れましょう」

「そうだね、そうして」



 そう言うと僕は机に向かい、新しい紙に取り出した万年筆でサラサラと書きつけ、二つ折りにしてウィズリーへ渡した。



「これを父上に。今日は多忙なのでお相手できないって言っといてね」



 ウィズリーは恭しく受け取ると、そのまま足早に部屋を後にした。



「さて、さっさと終わらせて、死ぬ気で時間を作れる様にしないとな」



 僕はそう言うと机に向き直り、計画を練っていくのだった。



***

*ウィズリー視点



 侯爵家邸執務室にて。

 控えめにノックをした私─ウィズリーは、中からの許可を得て、静かに部屋に入る。


 執務机に向かったままの侯爵は、一度ついっと視線をこちらに向けてから興味をなくした様に、書類に目を落としてから「何用だ」と言い、そのまま羽ペンを走らせていた。



「お忙しいところ申し訳ございません。こちらをお預かりいたしましたので」



 侯爵はペンをピタリととめて、顔を上げて私を見た。



「アレからか?」



 私は頷き、静かに側に寄ると、執務机の手の届くであろう場所に二つ折りの紙を置いて、元の位置まで下がった。


 侯爵は訝しむような顔をしながら、羽ペンを置いて二つ折りの紙を手に取り、中に視線を滑らせた。

 すると侯爵はクククと堪えたような笑い声を漏らしてから、声を上げて笑った。


 私は鉄壁の無表情で変わらず立っていたが、内心では目を見開き、口をポカーンと開けて驚愕な心境をありありと表していただろう。もしかするとブルブルと震えていたかもしれない。


 本家の筆頭である、常に厳めしいお顔と雰囲気が基本なあの侯爵様が「ガハハ」である。



 末端とまでは言わないが、オースティン侯爵家に連なる子爵家の三男に生まれ、不自由なく特に贅沢もせず歩んできた私は、5歳頃に年齢が同じである事を理由に、神童と名高い御子息様の従者に任命された。

 あの厳めしいお顔になんとかチビらなかった事は、今でも頑張ったと胸を張って言える。


 そして淡々と教師陣の授業をこなし、文句もなく増やされる課題を無表情で進めるエリオット様を、私はどこか精巧な人形か何かのように感じていた。


 一緒に過ごすうちに少しずつ情緒が見られるようになった頃、フランシーヌ様と出会われ、一気に“蓋”が外れてしまわれた。


 そして勉学に力を入れて体を鍛え始め、気づけばお腹が真っ黒になり、私の主人になった。常に一層力を手に入れようと、貪欲に求める様は凄いと言う一言に尽きる。

 このような方を主人として仕えることが出来て幸運だと言える。……お腹真っ黒だけど。


 私は本来表情に出難い性質だが小心者なのだ。あれば巣穴にでもなんでも潜り込みたい気分である。ここへ来て何度となくその心境に陥ったか知れない。



 っと、過去に想いを馳せて現実逃避をしている内に、目の前の侯爵はやっと笑いを収めて、よく見る厳めしい顔に戻ると呟くように溢した。



「アレは本当に言ったことを難なくこなす。…ウィズリー、また何かあれば報告を上げるように」



 侯爵の言葉に、私は素早く一礼して下がった。

 屋敷の主導権を徐々に取られていることに気づいていない侯爵は、お気に入りのお酒でも嗜むのかもしれない。


 掌の駒がすり替わっていることに気づかないまま、平穏に世代交代が出来る事を願って、私は山積みの仕事に戻るのだった。

鉄壁無表情で冷たく見えるクールビューティーな右腕様は、心が子リスな苦労性でっす。

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