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 ハリソン殿下は、笑顔でその嫌な予感を感じる“考え”を口にした。



「職業特化型の学校を作ろうと考えている」

「……進捗をお伺いしても?」



 目の端で、頭の上に疑問符を沢山生やしたニコラウスが見えたが、気にせずどんどん進めていこうと先を促した。



「まだ構想段階だ。場所は私の管理する領地で良いだろう。人材は方向性にもよるが、何人か目星をつけている」



 つまりそれを踏まえて、まとめて来いと言うことだろう。

 手土産としては治水工事に追加で捻りを加えれば、問題はないはずだ。恐らくこの学校というのは、新しいことに着手するという幅の広さを見せるという一面もある。場を整えて人を集めて、立ち上げる所までで上々。


 成果は立太子後となるはずだが。


 僕がこれに掛かると必然的に、僕の自由時間は減る。もちろんフランシーヌに会いに行く時間も減るのだろう。


 ……いやいや、無理無理。干からびないかな僕?


 しかし、あの笑顔を見る限りこれは決定事項だな。僕はそこまで考えを巡らせて、観念した様に眉間にシワを寄せながら口を開いた。



「ではその辺を纏めてお持ちします。治水工事の方はどうされますか?」

「ああ、朝議で候補に挙がっていた」

「畏まりました。では僕はこれで。失礼します」

「さすがだね。楽しみにしているよ。ああ、君も下がって良い。ニコラウス」

「ぁ…はい、御前失礼いたします。殿下」



 僕は先に部屋を出ると、騎士の先導を断って、足早に帰宅すべく廊下を歩く。

 執務室から離れたあたりで、後ろから声をかけられて、寄りそうになる眉根を堪え、貴族の微笑みを顔に貼り付けて振り返った。



「何でしょうか。僕はこれから予定が詰まっているのですが?」



 正確には今し方、特大なのを詰められたのだが。そう言うと僕に声をかけた人物ーニコラウスは、怪訝そうな顔で問うてきた。



「オースティン殿は、本日から候補として侍るのだろう?俺はあのお茶会直後に王妃様より、騎士団長である俺の父上を通して賜った。貴殿は誰から?」



 どんな思惑があって口にしているかが分からないが、面倒そうな“候補”と言うことで彼の評価は下がっていく。ハリソン殿下があえて僕が候補ではないことを彼の前で言わなかったのは、こう言った部分を察していたからなのかもしれないな。

 その上で「仲良く」と言ったのは、「任せるから良い様にしてくれ」と言う事を含んだのだろう。


 内心でため息を吐きつつ僕は答えた。



「僕は殿下より直接お声がけ頂きました。こちらの都合上お返事は本日させて頂きましたが、同じく殿下を支える方に早々にご挨拶できてよかったです。さすが殿下の采配は早くてらっしゃる」



 早過ぎて頭痛を感じるほどだよと考えていると、ニコラウスは眉根を寄せて睨む様に見据えてくる。



「殿下のお声掛があったにもかかわらず、お待たせするとは不敬な。貴殿には忠誠心が足りないのではないか?」

「理由を告げて、それを殿下が承諾なさった時点で話は済んでいます。それにもう“諾”と返事をしたのですから関係ないのでは?」


「なっ!」

「急ぎますのでこれで。ああ、そうそう、予め準備しておく事をお勧めします」

「…準備?何のことだ?」



 僕は盛大にため息をついて見せてから、貴族の微笑みを消して、無表情で答えた。



「治水工事ですよ。殿下に同行するならあなたでしょ?僕はまだ幼いですから同行は難しいかと。他にやる事が沢山あるので、ついていく暇がないとも言えますがね」

「しかしそれはまだ話が上がっただけだろうっ」



 僕は本当にその場にただ()()()()のニコラウスに呆れつつ、助言になってしまうであろう言葉をかけるか、物凄く迷ってしまった。

 ……正直無能は要らないのであるが。しかしハリソン殿下のニヤリとした不敵な笑みが頭を掠める。

 一度目蓋を強く閉じてから、諦めと哀れみの色が浮かんでいるであろう目で僕はニコラウスを見やり、助言を口にした。



「…あなた随分先に“侍って”いた様ですが、何を見ていたんですか?殿下がああ言えばきっと来月には、直接行く事になっていますよ」

「……そんなまさか…」

「まぁ信じるも信じないもお任せします。ただ、話を振られて慌てている間に、置いていかれない事を願っていますよ」



 僕は言い捨てる様にしてから踵を返し、ニコラウスを放ってそのまま立ち去った。

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