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 孤児院についた後、警備態勢が整ったと報告をうけてから殿下と馬車を降りた。

 そして、玄関ホールに入って直ぐのところに伝令役から到着の知らせが届いたのだろう、案内役としてお願いをしていたチャールズが待ち受けていた。



「ようこそハリソ「今日はハリーと呼ぶように」…………ハリーさ「ハリーだ。様は不要だ」ハリーさんでご勘弁ください。お願いします。お願いしますー!!」

「ハリー、頼みますから弄らないで。耐性あるとは思うけれど」

「ふむ、記憶した」

「何言っちゃってるのエリオット!」



 僕は肩を竦めてそっぽを向いた。

 ややあってから、僕とハリソン殿下とチャールズ、他護衛二人を連れて中に進むと、子供たちがいつものように歓迎してくれた。


 新しく来たお客様に引っ付くのはダメよーとだけ注意されていたので、飛びついたり抱きつくなんてことはなく、一定の距離を保って触れ合っていた。

 チャールズが周りを気にしつつ、僕の横へすすっと近寄り小声で聞いてきた。



「今日のこと、姉上も誘わなくてよかったの?」

「馬鹿言うな、フランシーヌの天使の様な可憐さに殿下がうっかり惚れでもしてみろ。厄介この上ないではないか。その逆が起きたらどうする?僕は喜び勇んで崖から羽ばたくことを約束してやる」

「ごめん、起こりえないと思うけど、その考えだったことは理解した」

「お前!フランシーヌが誰の目にも留まらないような女性だと言うのか?!」


「ごめん、面倒臭いとこに突っ込んじゃったようだね。姉上はもちろん兄さんと似合いな美人さんだよ」

「チャーリー今度プレゼント贈ってやるから楽しみにしておけ」



 半目のまま「ありがと」だけ言って、チャールズは子供たちの輪に戻っていったのだった。



***


 施設を見回り、寝ている場所、生活の流れについて話していると「孤児でもこの様に学ぶのだな」「このような技術を学べるのだな」と感動していた。



「それはえーーーっと」

「他はどうかわかりませんが、この施設では伯爵家の考案で、孤児院から旅立つ前に一般家庭で学ぶような掃除洗濯、裁縫、料理を基本として、少し進んで刺繍や縫製、そして野菜の見極めと言った事を生活しながら教えています。もちろん基本ができた後、自分の興味のある分野を自分で選んで学びますので、みな楽しく技術を向上させていっております。それがこの結果でございます」



 そう言って、刺繍で作られた絵画をハリソン殿下の前に差し出して広げると、ハリソン殿下は目を瞠り全体を見つめた後、刺繍にそっと触れた。



「素晴らしいでしょう?」

「あぁ、素晴らしい。刺繍で絵を描くなど初めて見た…心から感動した」

「僕もこれには驚きました。この遊戯室から見える風景なんですよ」



 夕陽が暖かく赤々と輝く中で、子供が笑顔で母であろう人物に抱き付き優しく受け止められていたり、草木の生える庭で、農具を片手に持ち、麦わらを被った父であろう人物と笑顔をかわしている、平民の幸せな一風景だが強くつけた陰影のせいか、何処か力強くも切なさを感じるものとなっている。



「これ、時期が来たら販売して、制作した子達の独り立ち資金にする予定です」

「……私が買い取ろう。いや、是非買い取らせてくれ」

「「えっっ」」



 僕とチャールズはハリソン殿下の言葉に驚き、顔を見合わせた後、マーサ院長に目をやると困った顔で製作者の子供に「どうする?」と尋ねた。


「えっっあのっっっ!どうしよう…どうにでもどうぞ!!」



 慌てすぎた女の子は、よくわからない発言をした後ワタワタ動いていた。わかる。落ち着け。

 マーサ院長はその子の前に行くと膝をついて目線を合わせると宥めるような声で言った。



「リュカ、ほらこっち、目を見て。リュカがずっと熱心に作ってた刺繍の作品、すっごく素晴らしくて欲しいって言ってるんだけど、あげてもいいかな?」

「マーサおばさん…うん、いいよ」



 そう言ってマーサの包み込むような優しい声に落ち着きを取り戻したリュカは、今度は照れ臭そうに、はにかんだ笑顔で頷いてくれた。



「もちろん大事にしてくれるんだろう?」



 と、揶揄うような目をハリソン殿下に向けたマーサは、そう言い放った。



「もちろんだ。飾って毎日眺めたいくらいだ」



 ハリソン殿下はそう言うと、大事そうにその作品を胸に抱いたのだった。

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