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 ……なんでこうなったか分かりません。


 僕は現在第一王子ハリソン殿下と、馬車に揺られております。さすが完璧王子と名高い人なだけある。有言実行が恐ろしく早い。


 先日王城の第一王子の執務室で言った通り、翌日には日程調整のお手紙が届き、返事を渋々出した後の今です。


 その無駄な能力をここで余すところなく使うなと、声を大にして言いたい。

 目の前に座るハリソン殿下は、相変わらずの控え目な微笑みを湛えたお顔をされているが、窓にかけられた目隠し用のカーテンを片手で持ち上げて、外に向ける目はキラキラ光る何かがこぼれ出しているように見えるくらい輝いている。


 今回は身近に平民の生活を体験したいと言うことで、お忍びである。


 王族特有の瞳はやや色のついた眼鏡でカバー。隣国特有の黒髪は、この国で一般的な栗色のカツラで覆う。全体の姿勢の良さや、品の良さを隠すように旅行者や商人に多い大きめのローブを纏っている。


 ──にも関わらず、キラキラしいのは何故なんだ。



「殿下、馬車を降りても余りキョロキョロしないでくださいね。余計目立ちますから」

「うむ、そうだな。ではエリオット、私のことはハリーと呼ぶように」

「〜〜〜!?」



 僕は放たれた言葉の衝撃に、極限まで息を吸い込み、飛び出そうな言葉を息を止めて飲み込み目をギュッと瞑って耐えて、盛大に息を吐き切ってから返事を絞り出した。



「承知…………し…ました」



 ガクンと項垂れる僕の頭上に愉快そうな笑い声が降ってくる。



「どうした、エリオット。まだ始まってもいないのに疲れておるようだ」

「お口閉じなきゃクリップで挟みますよ?」

「本当に面白いやつだな!」



 もうやだ、なんなのこの人!誰だ完璧王子とか言ったの?!僕は頭を抱えて早く1日が終わることを切に願った。


***


 馬車は目立たないように裏通りに止めて、そこでハリソン殿下と降りた。

 私服姿の近衛騎士2人が、僕らの前後を警護するようだ。


 他に距離を置いて4名、連絡役が2名で8人と大所帯である。王族ですしね。完璧王子ですしね。


 辺りを見渡して、取り敢えずまだ開かれている朝市を目指してみた。


 たどり着いた朝市は時間が遅かったこともあり、そこまで混雑はしていなかった。ハリソン殿下連れての冷やかし散策であれば、むしろちょうど良いと言える。


 ハリソン殿下は一見冷静そうに見えるが、その実、目から溢れるキラキラをそのままに、目の前の風景を堪能していた。


 資料の文字の上や、小さく描かれた説明図では知っていても実際に息づく物を目にしては、感動してしまうのも無理はない。

 その場の力強さや熱気に当てられ、誘われるままに食べようとしては近衛騎士に「ちょっと待ったー!」と止められては苦笑していた。


 露店に並ぶりんごをジッっっと見つめる殿下に、銅貨を渡して購入体験をさせた後、近衛騎士が「坊主、貸してみな」と言いながら自然な動作で近づき小型ナイフで簡単に一部切って口に入れてから、綺麗に皮をむいて半分に割り、片方ずつ渡してくれた。鮮やかな毒味捌きだ。


 食べ歩きに慣れていない殿下と仕方なくベンチに座り、シャクッと音をさせて頬張ると、広がる特有の甘酸っぱさに、またもや流れ出るキラキラは滝になるのではと変な心配をしてしまった。


 余り見つめてはアレかなと思い、自分も頬張りながら視線を周りに移すと、先ほど毒味してくれた近衛騎士が悲壮な顔で周りを警戒していた。


 お忍び中のハリソン殿下のためとはいえ、「坊主」と言い放ち、粗雑な手つきでむいたリンゴを渡したのが引っかかっているのかもしれない。


 僕はハリソン殿下の肩をチョチョイと叩き進言した



「でん「ハリーだ」…ハリー、後でお家(城)に戻ったら、あの人(近衛騎士)にりんごのお礼と感謝を伝えてくれます?」

「ん?わかった。それにしても外で食べるのは美味しい物だな!」



 分かってるのかなー。いや完璧王子だ。そこは分かってるはず。うん。信じよう。


 それから大通り沿いを見回してお店の種類、入ってみての接客、中流家庭向け店舗との違いなどを見てお互いに考察を述べ合った。

 良い時間となったが、僕の提案でウィンダリア伯爵が管理する孤児院へ行く事にした。


 何故なら改装してまだ新しく、厨房が丸見えで毒が入れられる心配がなく、施設内だから護衛が中に入り通常どおりに警備していても問題無く、毒味も周りを気にせずできる。施設には畑もあり、収穫体験もでき、そして孤児という国から切り離せない対象がいる。

 その生活の場に行くのはきっとハリソン殿下の為になると僕は踏んだのだ。


 そして移動するので馬車へ向かう道すがら、角から急に飛び出てきた何かとぶつかりそうに──なる前に前方を護衛していた近衛騎士に止められていた。

 僕とハリソン殿下は、素知らぬ顔でスタスタと脇を通って歩いた。



「───!ぁっっっあの!!!!!」



 ぼくは横を通り過ぎ、少し速度を落として、護衛騎士が何かを受け止めた場所に目をやると、なんだか揉めていた。

 護衛が受け止めたのはピンクゴールドの髪をした少女のようだった。



「わたしー!道に迷ってしまってー!!ぶつかってごめんなさいーー!!」



 何故かこちらを見ている…?目がバッチリ合ってるよな?

 知り合いだったかと逡巡したが、あの髪色は見たことないし?なので、即座に他人と結論づけた。

 それに謝罪の言葉なら、今なお受け止めている護衛に言えよと怪訝に眉を寄せてしまった。僕は視線を上にあげて少し首を傾げて、大丈夫?と問うように受け止めていた護衛を見ると、コクコクと頷いたので、ハリソン殿下の横に並んで先に進んだのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。本当にっっ!心から!

そして設定したのに微妙に性格が変わっちゃう不思議。ハリソンくんと相談します。

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― 新着の感想 ―
[一言] フランシーヌの登場が少なく思えます。彼女との交流がもっとあったら良いのですが。
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