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 自邸の自室に戻り、今日のマティアス殿下との会談(?)を思い出しながら考えを巡らせた。


 失敗しなくて当然と全てを見張られている中で、細い線の上を隙なく歩く第一王子。同じ線の上だが急き立てられ、兄を蹴落とせと耳元で囁かれ大声で囃される第二王子。…実に不憫だ。


 僕は見えなかっただけで、本当は別の線がずっと目の前にあるんだよと囁いただけだ。

 どこに繋がってたとしても先がどこに繋がってても、その選択を掴み取るのは彼らであって欲しい。

 勝手に歩かされたとふ〜らふ〜らされては困るのだ。それで小さな石ころにでも躓いてみろ、一緒に手を繋いだ僕も盛大に共倒れに…なんてことになったら目も当てられない。


 フランシーヌとの未来まで影響するではないか。非常に困るのだ。なのでしっかり掴んで泣き言言っても躓いても「選んだのは自分だから」と立ち直ってくれなきゃなのだ。



 僕は机の引き出しから残りの封筒を2通出して眺めた。


 プランティエ殿下のお誘いはお茶会。予定日は翌週。ハリソン殿下との会談は、そのお茶会の3日後だ。



「…そもそもなんだよ“王女のお茶会”って。何するんだ?美辞麗句を並べたら良いのか?……なんの苦行なんだ?」



 どう頑張ってもメリットを見出せずに呻いてしまう。とりあえず情報集めに精を出す事で、対策とした。

 ハリソン殿下は会談までに何か見つけてくれると良いなと願った。



 ***


 そして翌週。僕はまたもや王宮にやってきました。

 晴れ渡る空のなんと憎らしいことか…!


 大丈夫。今日の疲れは明日の癒しで補充するから!と僕は意気込み、天高く拳を突き出すのだった。



***


 侍女がやってきて先導してくれた先は、広めのサロンだった。


 大きく作られたテラス窓から見える庭の彩りに合わせて、テーブルクロスや花と言った装飾を選んでいるようだ。白を基本に淡い緑と銀の食器やカトラリー、クロスの装飾に、飾られた白や黄色といった花の調和も素晴らしい。


 部屋に入ると騒めきが大きくなり、あっという間に令嬢方に取り囲まれた。



「本日はオースティン様もお呼ばれされましたの?」「お一人なんて珍しいわ」「お召し物も素敵ですわ」「ご一緒できるなんて幸せですわ」



 大まかにこんな内容のことを、ひたすら囲まれながら言われていた。今日のお茶会の趣旨に合わせてか、目に優しい淡い色のドレスを着ていたことが唯一の救いか。


 それにしてもよく無言の相手にここまで話しかけて盛り上がれるものだな。精巧な人形でも置いても気づかないんじゃ無いかな…と考え出していると人垣の向こうから声がかかった。



「まぁ皆さまはしたないわよ?オースティン様が困ってらしてよ」



 すると「はっ」と皆息を飲んだ後、ざっと人垣が割れて自分とその声の人物までの間に道ができ、声の人物はゆっくりと優雅に進み出てきた。僕は恭しく胸に手を置き一礼して挨拶を述べる。



「本日はこのような素晴らしいお茶会にお招きいただき光栄です。プランティエ殿下」

「ふふ、そう畏まらなくていいわ。楽に行きましょう?」



 スッと手を差し出すプランティエ殿下。一瞬間を置いてしまったが、手を取り上座へエスコートした。



「貴方は隣へ座って?」



 と手に持った扇子で隣の席を指し示された。指示通りに座ると、お茶会の開催を告げられた。


 みな思い思いに装飾の話題や、茶器について触れる。ふられた話題に当たり障りなく答えていると、プランティエ殿下が急に話題を変えた。



「この間のお茶会で、可愛らしいお相手をお連れだったわよね。オースティン様はいつ頃婚約されましたの?」

「そうですね、7歳頃でした」

「まぁ、やはりそんな小さい頃からなのね。私にはまだ決まった相手がいないので羨ましいわ」


「国の王女殿下となれば、おいそれと決められないのでしょう。今お相手のいない高位貴族の子息は…居ないこともありませんよ。離れますが辺境伯も確かいらっしゃらなかったと聞いております。でもまぁ自国だけでなく、他国に嫁がれる可能性もありますし」


「まぁお母様の生まれた国も、悪くはないのだけど…遠く離れたところなんて気がひけるわ。私はお父様やお母様、“お友達”が沢山居るこの国に居たいわ……」



 そう言うと、意味ありげな視線を投げ掛けられる。僕は子供を全面に押し出した、きょとん顔を向けてみた。もちろん参考にしたのはフランシーヌだ。そして素知らぬ顔で続けてみた。



「他国に嫁がれても、何人か侍女や騎士、文官はお連れになるでしょうし、お寂しくはならないのでは?」

「そ、そうかしら…?」



 肩透かしを食らったであろうプランティエ殿下は、問いたげな瞳でスイっと周りに目をやれば、参加していたご令嬢は慌てた様子で「勿論ですわ!」「お一人でなんてそんな事…!」と口にした。



「流石プランティエ殿下ですね、皆様にこのように慕われるなんて。人望が厚くてらっしゃる」

「やだわ、何もしてなくてよ?皆いい人ばかりだもの。いつも何かと気遣ってくれるのよ」



「皆優しいの」と言うプランティエ殿下の言葉に、ご令嬢方は「そんなことは…」「殿下のためでしたら」とプランティエ殿下に話しかける。鷹揚に頷いた殿下はにっこり微笑んで「ありがとう。嬉しいわ」と続ける。

 どこか空々しさを感じた僕は、空気を変えるべく話題を強引に変えた。



「そう言えば気になっていたのですが、珍しい髪飾りをされていますね。そのように虹色に輝くものは初めて見ました」

「螺鈿細工と言うそうよ。貝の内側の輝く部分を、繊細に加工しているの。だから同じものは無いそうよ」

「これはどちらで手に入るのですか?僕も婚約者に贈りたいです」



「素敵ですわ」「羨ましいわ!」と周りが騒がしく囃し立てる。プランティエ殿下は、髪飾りをその白く細い指先で触れると、贈られたときに聞いたであろう情報を口にした。

 


「確か海に面した国で作られたと聞いたわ。加工できる職人が少ないらしくて、とっても貴重なのだそうよ。いただいた時に、お父様がそう言っていたわ」



「まぁ陛下から」「殿下を寵愛なさっておいでなのね」と口々に言い、またもや持ち上げる。

 僕はなんだかこの王女殿下の環境の悪さに思い至り、頭痛がしだしていた。



 **


 お手洗いにと少し離席した僕は、廊下を歩きながら窓から見える景色に目をやった。爽やかな風に吹かれて気持ち良さげに揺れる木々や花。時折聞こえる小鳥の囀り。

 フランシーヌは今頃何しているのだろうと、少しぼーっとしていると「如何なさって?」と鈴のような声を響かせて歩き寄ってきた。



「プランティエ殿下。景色が素晴らしかったもので目を奪われておりました。長らく席を空けて申し訳ありません」

「いいのよ。私もお化粧直しで不在だったの」

「では戻られますか?皆さまお待ちでしょうし」

「ええ……でも、私も少し眺めたいわ」



 そう言うと窓際に寄って外を見つめるプランティエ殿下。


 ……これ置いていったらダメかな?


 近衛騎士も侍女も居るし良いんじゃないか?というかなんか徐々に距離とってないか?非難の目を向けると、視線を床に落として目を逸らす面々。僕は思わず半目になってしまった。



「私…この間のお茶会で初めてオースティン様を見た時、とっても驚いたの」

「…何か気に障る点でも有りましたか?」


「まぁそうね、気に障ったと言えばそうなのかしら?」

「それは至りませんで、申し訳ございません」



 殊勝に頭を下げた僕に、小さな笑い声がかかる。



「クスクス…だって私の理想にとっても近い殿方がいらしたと思ったら、既に紐付きなんだもの」

「……」

「新しい紐に交換しては如何かしら?私の隣には、あなたのような殿方が相応しいわ」

「生憎僕についている紐は鋼鉄製でして。容易く切れてしまうような、軟弱な素材では出来ていないのですよ」



 僕の答えに不服そうな顔をしたプランティエ殿下は、無言で扇子を開いて顔近くで揺らした。僕はにっこりと笑顔で受けていた。

 ややあってフッと息を吐いたプランティエ殿下は、スッと手を差し出して「戻りますわ」と言った。僕は出された手を控えめにとって会場までエスコートしたのだった。


 会場に戻ると「お二人でいらしたの?」と騒がれたが笑顔で全て否定して、その後婚約者の存在を全面に押しながらお茶会をやり過ごし、なんとか早々に帰宅したのだった。

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