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それから僕らは直ぐに婚約した。
知れば知るほどその魅力にハマっていった僕は、3日と空けずにお互いの家を行き来していた。
フランシーヌは、とっても自由で伸びやかで、思いもよらない事をしてみせたり。
でも懸命に学ぶ姿は素敵だなと思ったり。
日の下で見る無邪気な笑顔も好きだけど、頑張って作り上げたちょっとツンとして冷たく感じる淑女の被り物も、その下でドヤッとしているんだろうなと思うと意図せず頬が緩んでしまう。
将来彼女の隣に居続け、頼られる存在になるべく、僕は常日頃の勉学に加えて色々な分野の勉強もした。いついかなる時でも守ることが出来る様に。
僕はそんな男になるんだ。
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「ねぇ、エリオット様は孤児院へ行ったことはありまして?」
「ん?侯爵家で管理しているところに、母上と何度か行ったくらいかな?」
婚約して1年過ぎて8歳になったある日の昼下がり。僕は伯爵家でフランシーヌと2人でお茶会をしていた。
フランシーヌが丁寧な所作で入れてくれたお茶の香りを楽しみつつ答えた。
「どうかしたの?」
フランシーヌはカップにそっと口をつけてお茶を飲むと、視線をカップの中に落としたまま物憂げに口を開いた。
「そんなものと言われたら、それ迄なのですが…あんなに元気が無いものなんでしょうか?」
「え?」
「私は今でこそ落ち着いたと言われますが」
「落ち着いた」
「もっと小さい頃は、それこそ常に駆け回っていましたし」
「常に」
「乳母には野生の動物かと怒られてばかり」
「野生」
「もう!エリオット様!昔のことですわよ、言葉尻をいちいち取らないでくださいませ」
「すまない、想像してつい。それで、孤児院の子供たちの元気のなさが気になるんだね。それじゃ今度一緒に行こうよ」
「本当?!ありがとう、エリオット!」
思いがけない提案だったのか、急にパァァっと満面の笑みになったフランシーヌ。言葉まで戻ってて可愛すぎるっ!
「じゃぁ来月の初めあたりはどうかな?」
「エリオット様が一緒なら、いつでも大丈夫だと思いますわ。日にちが決まりましたらご連絡くださいませね」
「わかった。楽しみだね」
ついでに街でデートなんかも予定に入れよう。新しいカフェが出来たと言っていたな。事前に席の確保もしよう。フランシーヌとデートだ!
脳内でデートプランを展開させながら、2人の時間を堪能したのだった。
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翌月。
僕はフランシーヌと共に、ウィンダリア伯爵家の管理する孤児院へやってきた。
小太りな院長に案内されながら見て回った。
率直に言うとすると…所々傷んでいる?
子供たちも覇気がないというか何処かオドオドしていて、怯えが見えるような?
「今日は侯爵家の方もいらっしゃっているから、みんな礼儀正しくするんだぞ!」
そしてこの院長、煩いなぁ。いつもの社交用笑顔を貼り付けて仕方なく対応する。
「そんなに緊張させないでください。いつも通りで結構ですよ。今日は僕の婚約者に同行しただけですから。おまけと思ってください」
院長の後ろを歩きながら、フランシーヌへ小声で尋ねてみた。
「ねぇフランシーヌ、この孤児院へはどれくらいの運営費を渡しているの?」
「そうね、月に金貨3〜6枚くらいかしら?」
「そっか。ところでフランシーヌ、ここの管理は君が?」
「そうよ、お母様の代理だけど」
「なるほど。それじゃしばらく邪魔な人には退場していただくとしよう」
僕は後ろについてきていた従者を側に寄せて2、3言付けると下がらせ、ため息をつき思わず溢してしまった。
「…デートはお預けかなぁ…」