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そろそろ出てくるかな?と、女性用控室を目指して戻るとフランシーヌが出て来たのが見えた。
すると後方からどピンクドレスの女が、フランシーヌにわざとぶつかって、何か言ってから去っていったのが見えた。
よし。ぶっ殺そう。
と心に決めた瞬間に肩をポンと叩かれて、「落ち着いて、よろけただけみたいだし大丈夫そうだから」とチャールズに止められた。
チャールズがそう言うなら仕方ないので、僕は先にフランシーヌへ駆け寄り、手を取る。
「フランシーヌ、怪我はないかい?」
「エリオット様、大丈夫ですわ。ちょっと中で絡まれてしまったので、言い返してしまったのだけど。気が立ってしまわれたのだわ」
笑顔で「なんともありませんわ」と表すフランシーヌ。心配になって内容を尋ねると、少し顔を赤らめ困り顔になったフランシーヌが恥ずかしそうに答えた。
「『貴女なんかのどこが良いのかしら?』とかなんとか。だから『そうね、私も不思議だわ』と返したのよ」
言い終えたフランシーヌは、顔を隠してそっぽを向いた。チャールズはすかさず、「スネに一撃?それともハンカチ?」と言うので抓ってもらった。
きっとその場にいたら、尽きる事なくフランシーヌへの愛を告げていただろう。
そんなに聞きたいなら、こんこんと聴かせてやっても良いだろう。
そのまま散策して時間を過ごして、王妃と3人の王子王女で閉会の挨拶を遠巻きに聞いていると、殿下方と目が合った。お互い見返しているような気がしたので片眉を上げて、肩を竦めて見せた。
横にいたフランシーヌとチャールズに、「捕まる前に退散しよう」と告げて、挨拶が終わってすぐに帰宅したのだった。
***
数日後。また執務室に呼ばれた僕は嫌な予感を覚えながら執務室へ向かった。
中に入ると、眉間にシワを寄せた父と対面した。
執務机の前まで進み出て、とりあえず直立のまま父の険しい顔を見つめ続けた。
じっと僕を見据えていた父は、これ見よがしなため息をつき、引き出しから3通の封筒を出して、粗雑な手つきで執務机に並べた。
僕は無言で封筒を見つめてから、父に目を向けて肩を竦めた。
「確かにお前には『側近になってこい』と言ったな」
「左様でございますね。父上」
「お前は『会ってみてから考える』そう言ったな」
「左様でございますね。父上」
「で…?」
これはどう言うことかと、机の封筒に視線を向けた後、僕に問うように向けられる。
そうは言われましても…と思った僕は、肩を竦めることで返答とした。
またため息をついた父は、机に肘をつき額を手で支えると、気怠げに問うてきた。
「お前はどう思ったのだ?」
「第一は噂以上に有能ですが、あのままでは少し心配ですね。
第二は思ったより聡明ですね。よく見ているし、周りの思惑とは違う考えでも抱えているのではないでしょうか。
娘の方は…正直どうでも良いですね。僕は関与しません」
「どれにつく気だ?」
「まだなんとも言えませんが、第一は気苦労が増えそう、第二は忙殺されそう、娘は余計な種を蒔かれる前に国外へ嫁入りでしょうか。僕の希望としては暇な要職で、憂いなく家庭を築きたいのですが」
ギロリと睨まれ「却下だ」とバッサリ切られた僕は、素知らぬ顔をしてかわした。
閑職は無理でも、死ぬ気で時間は作る所存である。
「まぁ呼ばれたからには、行かないわけにはいかん。心して行ってこい」
「承知しました」
僕は机の上の封筒を全て手に取ると、中から華やかな装飾が施された封筒を、人差し指と親指で摘みあげ、父に尋ねた。
「コレ、どうします?」
「適当で良い。上は検討中だ」
「そうですか。安心しました」とだけ答えて僕は執務室を後にした。