14
初対面のチャールズと、無理やりな散策に出てみました。エリオットです。さてどうしようかな。
チャールズは癖のあるハニーブロンドに、黄味がかった緑の瞳はやや垂れ目気味。意思の強そうな眉。筋の通った高い鼻梁、薄い唇。
……成程、確かに伯爵に似ている。
因みにフランシーヌは、母ソフィ様に似ているので共通点は、眉か?あまり見受けられない。ちょっと残念に感じてしまった。
居心地悪いのか、ソワソワして居るチャールズに声をかけた。
「すまなかったね、暇だったんだ」
許してくれるよね?と話を向けると、コクリと控えめに頷く。存外素直なのかもしれないな。と少し見る目を変えた僕は、庭園の中程にある噴水で近くのベンチに腰掛けた。どうぞと隣を指し示すと、間を置かれ端っこに座るチャールズ。
警戒心の強い子犬みたいだな〜と思って居ると、チャールズが遠慮がちに尋ねてきた。
「フランシーヌ…様ってあの女の子の事?俺に何の用?」
一人称は「俺」である事にちょっと虚を突かれて目をパチクリさせてしまった僕は、思わずそこに突っ込んでしまった。
「俺っていうんだね」
「………近所のヤツにバカにされて…」
「ああ、別にいいんだよどっちでも。ただ勝手に思ってただけというか?まぁ良いや。お母さん、ご病気だって聞いたよ。治療して居るらしいけど、大丈夫なのかな?」
「……薬代が高くて、母さんまともに治療できなかっただけなんだ。治療院に入れてくれたから一安心だって言われたけど。…無理してたから、大丈夫になるまでは時間が掛かるって…」
そういうと俯いてしまったチャールズに、僕は横から顔を覗き込んで声をかけた。
「ねぇ、治療院って遠いのかな?」
「え?…わかんない。母さん馬車で連れて行ったから」
「一緒に住むのが無理だったら、お見舞いに行けば良いよね?」
僕の言葉にパッと顔を上げたチャールズに、にっこり笑って言った。
「船に乗って何処か行ったわけでもないんだし。案外近ければ、馬車に乗って行けば会えるよね?父さんにお願いしてみたら?」
「でも父さんは…もう」
「ん?忙しくて会えないだけなら家令に伝言でもしたら良いよ?」
「あ、え?ああ、伯爵様にか。うん」
目を泳がせたチャールズに、僕は確信した。やはりそうか。
「まだお父様とか呼べないよね。書類上はまだみたいだし、おいおいで良いんじゃないのかな?」
目を見開いて驚くチャールズの口から「知って…?」と漏れていた。知らないけどそこまで顔に出てたら分からない方がどうかして居ると思うよ。
僕は何も言わずに微笑み、誤解させたままにしておいた。
「伯爵様とはずっと昔から?」
「ううん、会ったのは1、2年前。父さんが薬のことを手紙で聞いて、それで会いにきたんだって。それからたまに様子を見にきてくれて。ちょっと面白い話やお土産で本をくれたりしてたんだ」
「チャールズ君は読み書きができるの?凄いね」
「チャーリーで良いよ、父さんに教えてもらったんだ」
「そっか。伯爵の本は面白かった?」
「うん、冒険譚とか、色んな国の渡航記とか。ちょっと難しいのもあったけど、聞いたら父さんが教えてくれるから。それも楽しかった…んだ」
そういうと俯いて目元を隠してしまったチャールズに近づいて、落ち着く様に背を撫でた。
「チャーリーはこれからどうしたい?」
「どうって?」
「そうだな、将来市井に戻って働いて母を養って面倒を見るとか、伯爵家の跡を継いで、病気が治った母も一緒に住めるようにお願いするとか」
チャールズは僕の言葉をうけて、考えこみだした。その横顔には生気が戻り、暗かった瞳に希望が灯っていた。
「母さんといつか一緒に住みたい。でも伯爵様に恩を返したい。でも奥様とフランシーヌ?様には迷惑だって…」
「ああ、それなら心配ないよ」
わざと調子を外して明るく言い放つと、チャールズはきょとんとしていた。あ、ちょっと似てるかも。と内心で思いながら、僕はチャールズの置かれた状況を簡単に説明した。
「ええ!俺不倫の子と思われてんの?!」
「そうなんだよ。不本意だろうけどね。まぁその様子じゃお母さんの病状が一気に悪化したから、説明も根回しもすっ飛ばしてしまったんだろうね。急に孤児院に入れたら入れたで困る事になりそうだしね。ところで、伯爵様にはどこまで口止めされてるの?」
「えーっと、伯爵の子ではないってトコかな。そこを知られたら面倒だからって」
「それって家族にも?」
「他の誰にもって…」
「それは内緒ってことで家族だけに言っちゃっても良いんじゃないかな?拗れたままじゃ関係を築けないし、味方は多い方がいいでしょ?このままだと奥様とフランシーヌが辛いだけだし」
「う、うん。そうだよね?」
「んじゃ早速話に行こう。それで君がどうしたいか、ちゃんと考えてみよう。どう決めても僕は君を応援するよ。ほら、味方って心強いだろ?」
そう言ってウィンクしてみせると、チャールズは何処か吹っ切れた様に声を上げて笑ったのだった。
チャーリー君、お腹が黒くなりつつある次期侯爵の後ろ盾をゲット。