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 勉強会準備のお手伝いの為に、伯爵家へ訪れたら、フランシーヌが少し暗い顔をしていたので少ししてから尋ねてみた。



「なんだか元気がないね。何か心配事かな?」



 フランシーヌは下げていた視線を僕へ上げると、その顔を歪めて涙を溜め始めた。



「わた…くし、分からなくて…どうしたら…!」



 急な泣き顔にビックリして、慌ててハンカチを差し出すと、両手でそれを受け取り顔に押し付けた。



「どうしたのフランシーヌ?!何があったの?」



 ハッと我に返ってフランシーヌ付きの侍女に、人払いをお願いした。

 ちょっと躊躇いつつも一礼して下がっていった。もちろんドアは開いているけどね。



「大丈夫、話しても良いよ」

「私…弟が出来てしまいましたの…!」

「んん?」



 夫人がご懐妊?なのに泣くとは??と頭を捻っていると、ぽつりぽつりと事情を話してくれた。


 要約すると、数日前に伯爵が突然子供を連れて帰ってきた。家族には全く前触れもなかったそうだ。

 確かに一人娘であるフランシーヌが僕のところに嫁いでくると、伯爵家の後継がいない。フランシーヌ自身はもし嫁いでも、子供を2人以上産んで1人を伯爵家の後継とするのかなと、ぼんやり考えていたそうだ。


「もし」ってなんだ「もし」って。いや、今は良くないけど置いておこう。


 そして伯爵が「後継だ」と連れてきて大騒ぎとなった。もちろん夫人は扇を真っ二つにへし折って激怒。家庭内は一気に険悪になり、目の前の嵐を見てもどこか我関せずな無表情な新しい弟。

 そしてフランシーヌはどうして良いか分からず、仲良くも出来ず当たってしまう始末。



「お父様が浮気していただなんて…!」

「親戚筋の子じゃないのかい?」


「我が家の分家を集めた晩餐会で見たことありませんでしたわ。それに…」



 フランシーヌは涙をハンカチで拭って、両手で握りしめると苦しそうに告げた。



「お父様によく似ていますの…目の色は黄色がかった緑だったから、そこはお母様似なのかしらって…」

「お忙しそうな方なのに。愛人をねぇ…」



 愛人を囲うことはそう珍しい事ではない。それこそ他家では、表に出ていないだけの庶子も沢山いるだろうし。



「伯爵は息子だと言って連れてきたんだよね。母親はどうしたんだろう?」

「そう…『息子になるチャールズだ』って。母親は病が酷くて治療院へ入れるように手配したってお父様が…」



 ん?『息子になる』? 『息子の』じゃなく?



「ちょっと待ってフランシーヌ、それじゃまだ息子じゃないみたいじゃない?」

「え?」

「これから手続きをする以上“まだ”息子じゃないと言う意味とも取れるけど。それにあの伯爵が根回しもせず、急に後継として迎えるとは思えないなぁ。分家やソフィ様のご実家にも一言もないとは。何かあるんじゃない?話、聞いてみたの?」


「そんな間もなくて…お母様は部屋に引きこもって出てこないし、お父様はなんだか一層忙しそうで、お顔も見れませんのに。弟のチャールズはそっぽを向いたままで…私…元凶に思えて…」



 そういうと俯いてしまったフランシーヌ。

 僕はフランシーヌを眺めながら、考えを巡らせていた。目を閉じて1つの考えを決めるとフランシーヌを安心させるように、握りしめた手を包んだ。



「フランシーヌ、じゃちょっと済ませてくるからここにいてくれる?お庭を散歩させてくれるかな?」

「わ、私もご一緒しますわ」

「良いの良いの。もうちょっと休んでいて。落ち着いた頃戻ってくるから」


「ありがとう…エリオット」



 儚げに微笑むフランシーヌに、僕は抱きしめたい衝動を気合いだけで抑えて、ドアの外にいるであろう侍女に声をかけた。

 僕は部屋の外へ出てドアを閉めると、廊下を進み、近くにいた使用人に声をかける。



「そこの君、聞きたいことがあるんだけど」

「はい、オースティン様」

「新しい弟君はどちらかな?」

「弟…チャールズ様でしたら、お部屋でございます」


「未来の義弟に挨拶しなくちゃだよね。案内してくれるかな?」

「ご案内いたします。こちらへ」



 なんだか「弟」と言うのが嫌みたいだ。夫人の専属侍女かな?

 案内されて部屋をノックしたが無言だったので、まぁ良いかと無遠慮に開けてみた。


 窓から外を眺めていた彼は、驚いて振り向くと見知らぬ人物に目を留め、興味をなくしたようにまた外に視線をやった。



「初めまして、僕はオースティン侯爵家長男のエリオットだ。君の姉になるフランシーヌ嬢の婚約者。どうぞお見知り置きをチャールズ殿」



 名前を呼ばれてまたこちらを見たチャールズは、どこか警戒した目をしていた。

 そして不意に『当たってしまいましたの』とフランシーヌの呟きが耳を掠める。


 フランシーヌは淑女教育の師の影響か、突き放した様な言い方をしてしまうことがある。昔から居る使用人は温かく見ているが、昔を知らないと「冷たい」と感じたりするらしい。僕が言い添えて大分緩和されたけど、さっきの様子じゃずいぶん言ってしまったのだろうな。



「ところでお暇かな?フランシーヌの準備が整うまで僕、暇なんだよね。一緒に庭にでも行こうか」



「いやいいよ」と口にしたチャールズの腕をがっしり掴んで立たせると、


「遠慮とかいいから。さぁ行こう、今行こう」



 と有無を言わさない笑顔で、伯爵邸内を突き進んでいった。

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