表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/110

12

 早速自邸に戻ったフランシーヌは、孤児院でのことを両親に報告して、果樹や野菜の種、レンガや布の購入の許可を取り、発注することになった。


 その後、勉強会の準備や元々の自身の勉強もあり、毎日忙しくて会えないかも…というフランシーヌからの手紙を見た瞬間の衝撃は筆舌に尽くし難い。


 孤児院の子供達に、変な敵対心まで芽生えそうだ。そんな僕を従者が半目になりながら、「一緒に勉強会の準備をすれば良いのでは?」と進言してくれ、雷に打たれたような衝撃を受けて目を見開いた。



「成程、時間を共有できるばかりか、いつもより近い距離でフランシーヌを観察できるかもしれないと言うことか。さすがだなウィズリー」

「お褒めいただき有り難く。お手紙の準備をお持ちします」



 控え目に礼をして、手紙の準備のために退出していった僕の従者(ウィズリー)に、毎度手際の良さに感心してしまう。


 さて、実はフランシーヌと孤児院の件で影響を受けて、僕は我が侯爵家で管理している孤児院へ赴き、交流を図っている。

 それとなく運営に問題がないか、全てチェックを入れて、ピンハネも虐待も病気なども特にない事がわかり一安心した。


 資金を渡して後はほぼ丸投げ状態だったので、運が良いのか何なのか。問題がなかったのでよしとした。


 孤児院へ訪れるようになってから、僕は少しずつ子供達と歩み寄っていった。

 初めは遠巻きに顔色を窺うばかりの子も、そのうち他所行きの笑顔で話せるようになり、今では近況を教えてくれるまでになった。

 そんな中で、僕は一般的なチラシくらいの大きさの黒い板を手に持ち見せた。



「最近僕の婚約者の関係で、作る事があって、小さい物を作ってもらったんだ」



「何ですか?」「触っても良いですか?」と控え目に興味を示す子供にどうぞと渡す。



「黒板と言って、これにこの白い棒で絵や文字が描けるんだ。やってみる?」



 子供達は顔を見合わせて、その中から1人の男の子が手を差し出し「やってみたいです」と言ってくれた。僕はチョークを手渡してから、その子の真横に回って手元を覗き込む。

 子供達は男の子が丸やら、横線を描くたびに「ぉぉ!」「丸かよー」と何ともなしに歓声を上げていた。

 僕は濡れた小さな布を手にして「ちょっと消してみるね」と言い拭うと「消えた!」「なくなった!」「おもしろーい!」とこれにも歓声を上げていた。

 そして男の子からチョークだけ受け取り、男の子の持っている黒板に字を書き始めた。



 RAY(・・・)



「これはレイ、君の名前だよ」

「これ…が…僕の?」

「そう、良い名だよね」

「そうかな?」


 そう言いながらも、「これが僕の…」とじっと見つめていた。僕は男の子ーレイにチョークを返すと、不器用な手つきで自分の名前を書いていた。ちょっと不格好だけど、自分の書いた文字に感動しているようだった。

 周りの子も羨ましそうに見ていたので、ウィズリーに指示を出して残りの黒板を持ってきて興味のある子に渡していった。



「あの…私の名前ニコって書いてもらっても良いですか?」

「あぁ良いよ。…はい、これがニコだよ」



 そうなるとみんなそれぞれの黒板に、名前を書いてあげた。

 子供達はそれぞれ書いては見せ合い、書き直したりで盛り上がる。少しおさまってきた頃を見計らって、僕はみんなに聞こえるように少し声を張って告げた。



「少しずつこれを使って、字や数字を覚えていってもらえたらと思っている。1文字ずつとか、まずは自分の文字からでも。文字を覚えれば求人や張り紙が読めるし、手紙も書ける。数字を覚えれば、値段も分かるし、自分の取り分を誤魔化されたり、騙されることも減ると思う。どうかな?」



「面白そうよね」「仕事にも役立つかな」と言う声と「自分にはできないんじゃ」「覚えられないよ」と言う声が聞こえた。



「まず興味のあるところから始めよう。名前とか、基本の文字だね。

 それが出来たら、次の文字を教えるよ。ゆっくりやればいいさ。それに絵を描いてもいいしね。

 それじゃ黒板は僕から院のみんなへのプレゼントということで、置いていくね。楽しんでくれたら嬉しいな」



 そろそろ次の予定の時間に差し迫っていたため、残りの黒板とチョークは職員に預けて、孤児院を後にした。


***


 その後孤児院では、文字を練習する子、絵を描いて見せ合う子と様々だが黒板に触れ慣れていったようだった。



「エリオット様、孤児院で文字を教えて如何なされるのですか?」



 侯爵家に戻り、自室で一息つくと従者のウィズリーが控え目に尋ねてきた。恐らく今後の方針を聞いて先に手配できるものがあればするつもりなのだろう。

 僕は淹れてもらったお茶を一口飲み、香りを愉しんだところで口を開いた。



「文字を書けるよう、数字をかけるようになればその子の為にもなるけど、その子の周りで見て聞いたことを、“僕”に教えてくれるといいなと思ってね」

「それは…」


「強制でも何でもないよ、彼らにとっての日常や変化を、世間話のように“善意”で教えてくれたら、僕にとって“足し”になる。それだけだよ?ね、どこにも負の要素なんてないでしょ?彼らは読み書きできる。僕は善意の情報を手に入れる。素敵だよね」



 ウィズリーに向かってにっこり笑ってそう言うと、心なしか引きつった顔していた。

 僕変なこと言っているかな?


「…我がご主人様が黒い…」と去り際に呟きが聞こえた気がしたのは気のせいかなウィズリー?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ